UTM市場は老舗のファイアウォールメーカーに加え、新規参入企業も続々と市場に製品を投入していて、継続的にプラス成長し、活況を呈している。これまでSMB(中堅・中小企業)を主要ターゲットとしてきたが、UTMを販売するメーカー各社がハイエンドモデルを拡充したことによって、エンタープライズ市場を主戦場として攻めていくという転換期を迎えている。(文/鍋島蓉子)
figure 1 「市場動向」を読む
堅調な伸びをみせる活発な市場
このところ、ファイアウォール(FW)を単体で販売するビジネスはほとんどみられなくなっている。ミック経済研究所調査第四部の河村昌司研究員は、「各メーカーとも、UTMアプライアンスもしくはFW/VPNというかたちに意識的に置き換えて販売している。UTMの市場は国内で軒並み好調に伸びている」と分析する。ジュニパーネットワークス、チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズなどの大手どころに加え、新規ベンダーもどんどん参入している活発な市場となっている。UTMアプライアンス出荷金額シェア(2010年度)では、「FortiGate」を販売するフォーティネットジャパンが21.6%、「UTM-1」などを販売するチェック・ポイントが17.4%、「SSG」シリーズを販売するジュニパーが16.8%、「NSA」シリーズや「TotalSecure」シリーズを手がけるソニックウォールが11.3%。チェック・ポイントはフィンランドの通信事業者ノキアのセキュリティアプライアンス事業を買収し、シェアを押し上げた。
UTMアプライアンス出荷金額シェア(2010年度)
figure 2 「勢力」を読む
SMBからエンタープライズへ、垣根はなくなる
UTMはセキュリティ対策を一つに統合したアプライアンスとして、コストメリットや管理のしやすさから、比較的、中堅・中小以下の企業で導入が伸びている。ただ、複数の機能を使うとパフォーマンスの劣化が懸念されることから、実際には単体の機能のみを利用するケースが多いようだ。
UTMは、従来、上位レイヤーでの需要が伸び悩んでいた。ところが、最近では機能強化と処理能力向上によって、データセンターや文教市場、官公庁などでUTMが導入され始めている。それでも、金融機関などではなかなか導入が進んでいない状況だ。ソニックウォールやフォーティネットなど、SMBレイヤーに強いメーカーは、ハイエンドの製品ラインアップを拡充している。ミック経済研究所の調査によると、UTM製品の価格帯によって、強いメーカーは異なる。1000万円以上ではジュニパー、500万~1000万円ではシスコシステムズ、100万~500万円でチェック・ポイント、100万円以下はソニックウォールとなっている。
製品価格帯別No.1ベンダー
figure 3 「商流」を読む
パートナープログラムの刷新で販売強化
UTMは低コストで容易に導入できることから、量をさばくことができるビジネスとして、ディストリビュータやSIer、NIer、地域販社などを介しても販売されている。チェック・ポイントでは、自社のハードウェアアプライアンスだけでなく、ソフトウェアライセンス、パートナーとの統合ソリューションと、三つの形態で柔軟なデリバリ体系を実現している。
フォーティネットは、昨年、パートナープログラムを開始し、リセラーの増強を図っている。現在のところ、NEC、大塚商会、日本コムシス、NTTPCコミュニケーションズ、NECネクサソリューションズや、ハツコーエレクトロニクスといった認定パートナーを獲得している。
一方、ソニックウォールも、昨年、パートナープログラムを刷新。1次代理店以下のリセラーに対する施策を強化した。MDF(マーケット・ディベロップメント・ファンド)による販促費用の還元、案件情報を把握しやすくしてパートナーのクロージングまでを支援するという。
ジュニパーの主な商流は、ソフトバンクBBや日立ソリューションズ、日商エレクトロニクス、日本オフィス・システム、大塚商会や三井情報など。一方、シスコは、ネットワンシステムズ、伊藤忠テクノソリューションズなどがパートナーとなっている。
UTMの主な流通経路
figure 4 「戦略」を読む
大手企業に販売のすそ野を広げる
UTMメーカー各社は、大手企業への導入を目指して、ハイエンド製品の拡販を強化している。フォーティネットは、SMBからエンタープライズ、通信事業者まで幅広くアプローチできる販売体制を構築しようとしている。公共分野では官公庁、文教、医療系、民間分野では製造、流通、金融、証券、そして通信事業者という「産業」軸と「エリア」軸をベースとして、全国的に販売体制の再編を行っている。一方、ソニックウォールは、マクニカネットワークスという強力なパートナーを得たことによって、大企業向けの売上構成比が高くなった。今後は製品規模別に、組むパートナーを明確にしていく方針だ。パートナープログラムによって、SIerの売りやすい環境を構築する。
ジュニパーは、SSGから「Junos」OSベースのセキュアルータ「SRX」シリーズを一昨年から販売している。パートナーへのトレーニングが進んだことから、パフォーマンスの高さを生かして、データセンター事業者にプッシュしていく。またシスコは、クラウドやモバイルデバイスの普及が進んでいることから、安全なインターネット環境を実現する「セキュアボーダレスネットワーク」をコンセプトに、適材適所に必要な製品を組み合わせて設置する提案をエンタープライズ市場で推進している。
今後の開拓市場