有力SIerがスマートコミュニティに熱い視線を注いでいる。日系ベンダー関連だけでも、向こう10年で3兆円余りの経済効果があるとみられており、SIerにとって「数少ない成長分野」と期待が高まっている。なかでも社会インフラに強い重電系SIerや、スマートコミュニティへの投資に意欲的な中国やインドなどの新興国に太いパイプがあるSIerは、収益化に向けて着々と駒を進める。(安藤章司)
重電系や新興国を得意とするSIerに商機
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ITホールディングス 岡本晋社長 |
スマートコミュニティにいち早く反応したのは、東芝ソリューション(TSOL)だ。ここ数年、業績が伸び悩んでいた同社にとって、電力や鉄道、交通、ビル、工場など東芝グループが強みとする社会インフラと密接に関連するスマートコミュニティは、ライバル他社と差異化しやすい分野。同グループの中核的SIerであるTSOLにとって、絶好のビジネスチャンスである。海外でのスマートコミュニティプロジェクトも活発で、同社にとっての課題だったグローバル進出の糸口も掴むことができる。まさに一石二鳥だ。
TSOLの国内最大のライバルは日立ソリューションズだ。2010年10月1日付でグループ主要SIer2社が合併して発足した企業だ。社会インフラに並々ならぬ力を注ぐ日立製作所グループの中核的SIerとして、スマートコミュニティビジネスの立ち上げ向けて「重要な責任を担う」(日立ソリューションズの林雅博社長)ことになる。TSOLは、2010年末に、突如、社長交代を発表。東芝で電力事業部門で実績を積んできた河井信三氏が2011年1月1日付でトップに就いた。社会インフラの代表格の一つである電力部門のキーパーソンがTSOLのトップに就任した背景には、スマートコミュニティビジネスへのスムーズな参入を促す狙いもある。
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東芝ソリューション 河井信三社長 |
スマートコミュニティは、経済成長著しい新興国でニーズが高い。例えば、インドのデリーとムンバイの間、約1500kmに都市間貨物鉄道を整備し、関連する道路や港、発電所、物流を拡充させる総額900億ドル規模の構想や、中国・天津に総額約3兆5000億円を投じ、2020年までに30km2の“天津エコシティ”を整備する計画などがある。2010年4月に天津市内に最新鋭の自社データセンター(DC)を全面開業させたITホールディングス(ITHD)は、天津市当局の幹部から「スマートコミュニティについての優れた提案を出してほしい」と声がかかった。DCはIT制御の中枢の役割を果たす重要な設備であり、天津でこうした使用に耐えられる大規模DCをもつのは日系SIerでITHDが唯一。こうした自社のポジションも踏まえながら、「前向きに検討する」(ITHDの岡本晋社長)という姿勢を示す。
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日立ソリューションズ 林雅博社長 |
しかし、日本のSIerが海外のスマートコミュニティビジネスに参画するのは容易ではなさそうだ。先の天津エコシティでITHDの岡本社長は、「先方からは『いい提案さえあれば、パートナーを紹介する』と言われた」そうだ。つまり“カネは出せないし、ビジネスモデルも自分で見つけてね”との渋い内容だが、裏を返せば、提案さえよければ、当局公認で大手を振ってビジネスができるということ。中国の重電や電機メーカー、インフラに強いSIerと組んだり、東芝や日立、IBMなど外資も巻き込んだコンソーシアム形式などが考えられる。スマート化に必要な設備やデバイスを有機的に結んで制御するITは、「人間の体に例えれば神経系統に相当する。性能を大きく左右する重要な部分」(TSOLの河井社長)と、スマートビジネスへの参入に強い意欲を示している。
スマートビジネスのイメージ
表層深層
スマートコミュニティの課題は、ビジネス的な成功モデルをどうつくるかにある。プロジェクトの規模が大きいだけに、万が一、エネルギーの効率利用が順当に進まなかったときなど、一企業ではリスクを負いきれない可能性もある。まずは、成功の可能性が高いモデルを複数つくり、このなかからリスクヘッジしながらビジネスを展開するのが望ましい。そこで注目されるのは国内のスマートコミュニティ事業である。
情報サービス産業協会(JISA)の浜口友一会長(NTTデータ相談役)は、「国内で成功事例をつくり、これを海外展開するのが理想」と指摘する。経済産業省が中心となってスマートコミュニティ実証を進めてはいるものの、まだスタートしたばかり。だが、急速な経済発展や都市化により環境汚染やエネルギー問題が危機的状況にあるのは、日本ではなく、むしろ中国やインドなど新興国。「すでに人口が減り始め、エネルギー問題が差し迫った課題でなくなった日本国内は、モチベーションが上がりにくい」(大手SIer幹部)という側面も否定できない。時間的余裕も限られていることから、「国内と海外を並行して取り組む必要がある」(同幹部)と話す。
スマートコミュニティは、電力制御だけでなく、エコカーや家電向けの組み込みソフト、情報セキュリティ、データ分析用のアルゴリズムなど多種多様なIT技術が求められる。見方を変えればすそ野が広いビジネスであり、専門分野に強みをもつ中堅・中小のITベンダーにとってのビジネスチャンスも大きい。