クラウド/ホスティングサービス市場の拡大が見込まれるなか、主要ITベンダーは次々に新しいサービスを打ち出している。拡張性や可変性(エラスティック)にすぐれたクラウドサービスが充実するものの、一方で、従来型のホスティングサービスの単価下落が顕在化する動きも一部でみられる。主要プレーヤーは、それぞれの強みを生かしたビジネス展開や販路開拓を急ぐ。(文/安藤章司)
figure 1 「市場の伸び」を読む
クラウドは伸びるも従来型は頭打ちか
クラウド/ホスティングサービス市場は、全体でみれば力強く成長する見込みだ。GMOホスティング&セキュリティ(2011年4月1日付でGMOクラウドへ社名変更の予定)は、IDC Japanの調査をもとに国内クラウドサービス市場は年率30%余りで拡大するとみており、とりわけクラウドサービスの伸びは大きいと予測する。ITリソースを複数のユーザーで共有するパブリッククラウド型は、国内で2014年に1432億円、クラウド環境を個別に専有するプライベートクラウド型は3759億円で、両タイプを合計すると5000億円を超える。仮にクラウド領域で10%のシェアを占めると、単純計算で年商およそ500億円となる。このため有力ITベンダーは相次いでクラウド領域の強化を表明している。一方で、従来型のホスティングサービスは、一部のベンダーで「契約数は伸びているが、単価下落で金額ベースでは伸び悩む傾向がみられる」(有力ホスティングベンダー幹部)と、クラウドとは対照的な動きをみせている。
国内クラウド市場の市場予測
figure 2 「主要プレーヤー」を読む
ネット系、通信系、外資系が入り乱れる
クラウド/ホスティングベンダーを属性別にみると、大きく六つに分けられる。最大勢力はインターネットの拡大とともに伸びてきたホスティング系のベンダー。主にネットサービスや通販サイトなどの優良顧客を多数もつ。次に、インターネットプロバイダや通信キャリア系といったネットワークに強い事業者が名を連ねる。クラウドの構造上、データセンター(DC)に通信トラフィックが集約される傾向が強く、このネットワーク周りの善し悪しがサービス品質を大きく左右するためだ。今回の主要6グループには、NTTデータや野村総合研究所(NRI)など大手SIerが手がけるITアウトソーシングやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を主力とするSI型クラウドサービスは除外した。ただし、例外はある。SIerの日本ラッドは超低消費電力のDCを独自に構築し、徹底的なコストパフォーマンスを指向したクラウドサービスを展開。コストパフォーマンスで勝る外資系への対抗心をむき出しにする。
クラウド/ホスティングの主要プレーヤー
figure 3 「ポジション」を読む
クラウドサービスの指向は二極化へ
主要ベンダーは、相次いでクラウド型の新しいサービスを打ち出している。クラウド型の新サービスの指向性をみると、「高付加価値型でアウトソーシング/BPO重視」のパターンと、「コストパフォーマンス重視型でパブリッククラウド指向」の二つに大きく分かれる。前者は、企業の基幹業務システムをはじめとするミッションクリティカル系に適しており、後者はネットサービスや通販サイトなど需要の波が大きいシステムに適している。
業界で最もラジカルな動きをみせる日本ラッドは、3月3日に月額390円から利用できる企業向けパブリッククラウドサービス「インダストリア」を開始した。同等信頼性、同等性能の海外有力サービスの約半値、国内の高付加価値型のサービスに比べておよそ40分の1の価格を打ち出しものだ。空調を使わず、送風機による除熱のみで冷却する超低消費電力型DCや、クラウド向けに設計し直したストレージシステムによって大幅なコスト削減を図った。一方、高付加価値型では、通信事業者や電力会社系が多い。ただし、ヤフーグループのIDCフロンティアは、同じヤフーグループのファーストサーバと、NTTコミュニケーションズは子会社のNTTPCコミュニケーションズとポジションを分担することで幅広い顧客ニーズをカバーしている。
クラウド/ホスティングベンダーのポジショニングマップ
(アウトソーシング、BPOをメインとする。SIerは除く)
figure 4 「売り方」を読む
パートナー支援プログラムの拡充が盛ん
クラウド/ホスティングベンダーの販路は、直販系と間接販売系の主に2系統。パブリッククラウドの先駆的存在のAmazon EC2のように、オンライン決済で誰でも自由に使えるウェブ直販型や、自社の営業人員によるオフラインの販売促進を行う一方で、SIerのソフト開発ベンダーを経由する間接販売が有力視されている。多くのソフト開発ベンダーはDCなどの物理的なインフラを所有しておらず、自らのパッケージソフトをSaaS方式などで提供する場合、クラウド/ホスティングベンダーと組んだほうがコストやリスクを軽減できるメリットがある。
SIerも同様で、クラウド基盤を活用したアウトソーシングサービスやSaaSを展開する流れのなかで、結果としてクラウド/ホスティングベンダーのサービスを間接的に販売する構図が出来上がりつつある。NTTコミュニケーションズはクラウド主力サービス「BizCITY」のパートナー支援プログラムを実施しており、すでに50社ほどが利用。インターネットイニシアティブ(IIJ)は「IIJ GIO」のパートナー支援プログラムで100社ほどのパートナーを獲得しており、向こう3年で300社のパートナー数に増やす目標を掲げる。DCなどクラウド基盤への先行投資の早期回収に向け、販路拡大はクラウドビジネスに欠かせない要素である。
クラウド/ホスティングベンダーの主な販路