データセンター(DC)ビジネスは、拡大期を迎えている。国内DCアウトソーシングサービスは年率8.8%増の勢いで、2014年には1兆2065億円の市場規模に拡大すると、調査会社のIDC Japanは予測する。拡大のエンジン役を担うのはクラウドコンピューティングだ。ITシステムの“所有から利用へ”の流れのなかで、SIerやホスティングベンダー、外資系ネット企業が入り乱れての勢力争いが激化している。(文/安藤章司)
figure 1 「市場規模」を読む
“所有から利用へ”の潮流が後押し
データセンター(DC)の市場規模は、堅調に伸びている。SIや受託ソフト開発が伸び悩むなかでも、DCを活用したアウトソーシングサービスの需要は依然として高水準にあることが背景にある。IDC Japanの調査をもとにホスティング事業者のさくらインターネットが集計したデータによれば、ユーザーがサーバーを共有して利用するホスティングサービスは2014年まで20%超の成長が見込める有望株。サーバーを専有して使うタイプでも10%超の伸びを維持する見込みだ。伸びが顕著なホスティング方式は、ベンダー側がハードウェアを買い揃え、ユーザーはサービスのみを月額で利用する。仮想化などの機能を加味すれば、クラウドサービスへの置き換えが可能なサービスだ。IDC Japanでは、国内DCアウトソーシングサービス全体の伸び率は、14年まで年間平均8.8%増で、同年には1兆2065億円の市場規模になると予測。IT機器の“所有から利用へ”の潮流が後押しするかたちで、DCへのアウトソーシングは成長している。
国内データセンターアウトソーシング市場規模予測
figure 2 「勢力」を読む
利便性高まり、好循環が生まれる
DCは、専業のホスティング事業者だけでなく、SIerやコンピュータメーカー、AmazonやGoogleなど外資ネット企業など、さまざまな勢力が運営している。なかでも近年、DCビジネスに大きなインパクトを与えたのがAmazon EC2だ。パブリッククラウドと呼ばれる方式で、使った時間や量に応じて課金する仕組みだ。これまでのDCは、ユーザーがITリソースを使いたいと思っても、申請やハードの設定などで時間がかかり、料金も硬直的だった。この点、Amazon EC2ではオンラインの操作によって、ものの数分で使え、ITリソースも柔軟に増減できることから、ユーザーの絶大な支持を集めた。こうした外資ネット企業の攻勢を受け、ホスティング事業者やSIerなどは、SIやサービスで付加価値を高めたり、国内DCによる地の利を生かしたクラウド型DCサービスを開発。多様なサービスが競い合うことで利便性が高まり、DCサービスの市場拡大につながる好循環が生まれている。
データセンター事業者の勢力図
figure 3 「売り方」を読む
相互連携で複合チャネルを形成
Amazon EC2に代表されるパブリッククラウドは、使いたいとき、使いたいだけITリソースを手にできる便利で安価なサービスである。ただし、ある程度の技量がないと使いこなすのが難しいうえに、業務で使う場合に必要なアプリケーションなども自前で揃えなければならないことが多い。そこで登場するのが、ビジネスパートナーである。
例えば、SIerのCSKが開発するパブリッククラウド向け制御ソフトは、Amazon EC2やニフティクラウドへの対応を表明している。こうしたユーティリティサービスを組み合わせることで、使い勝手が大幅に向上するわけだ。また、クラウド上に業務システムを構築するSIサービスや、アプリケーションソフトをクラウド経由で提供するSaaSやASPなどの付加サービスで、ユーザーの需要に応える方法もある。
販売チャネルは、純粋にITリソースだけ使いたいユーザーはオンラインで調達し、SIが必要なユーザーはDCを運営しているSIerやメーカーに発注するなど、ユーザーニーズに応じた商流が形成されつつある。今後は、パブリッククラウドとSIer、ソフトメーカーが相互に連携するなど、より複合的なチャネルに発展していくものとみられる。
クラウド型データセンターサービスの売り方
figure 4 「可能性」を読む
数少ない成長株、大型投資が相次ぐ
DCビジネス拡大の成長エンジンとなっているのが、クラウドサービスである。IDC Japanによれば、2010年の国内クラウドサービスの市場規模は前年比41.9%増の443億円に達する見込みで、14年までは年間平均成長率37.5%で伸びると予測している。実数では14年は09年の約4.9倍の1534億円になるなど、飽和感が漂う国内情報サービスのなかで数少ない成長分野だ。
DCへの投資は活発に行われている。さくらインターネットは、2011年秋、本格的なパブリッククラウド方式の大型DCを北海道石狩市に稼働させる。最終的には全8棟4000ラックを建設する計画だ。大手SIerでは、ITホールディングス(ITHD)が11年4月をめどに、新日鉄ソリューションズ(NSSOL)は12年初頭、野村総合研究所(NRI)は12年度中に、それぞれ首都圏に最新鋭のDCを竣工する。各社とも、ITシステムのサービス化やクラウドビジネスの拡大を見越した先行投資を積極化。ITHDはグループで30種類以上のSaaS型アプリケーションを開発し、NSSOLは独自のクラウドサービスabsonne(アブソンヌ)を軸にビジネスを伸ばす。NRIは得意の証券業向け基幹業務システムの共同利用型サービスを展開するなど、DC活用型サービスビジネス拡充に力を入れている。
国内クラウドサービス市場予測