ワークフロー製品は、多階層の承認プロセスを経て決裁に至るまでの一連のフローを管理するツールである。近年は、ドキュメントを回覧してペーパーレス化を促進するかたちの低価格なワークフローのほか、基幹系システムと連携しながら業務プロセスを自動化するBPM/SOAミドルウェア的な製品が注目を浴びている。各社は、システム連携に加えて、クラウドやモバイル、BI、グローバル展開などの新潮流にも乗りながら事業の拡大を狙っている。(文/信澤健太)
figure 1 「主要プレーヤー」を読む
業務フロー基盤としての活用がポイントに
調査会社のノークリサーチによれば、年商500億円未満の中堅・中小企業(SMB)のうち、「グループウェアに付属するワークフロー機能を利用」している企業が全体の26.5%を占めており、「独自開発システム」の利用企業は15.9%となっている。これらを除くと、BPM/SOAミドルウェア的な性格の強いNTTデータイントラマートの「intra-martワークフロー」や日立製作所の「Cosminexus電子フォームワークフローセット」のほか、業務特化型を特徴とする富士電機の「ExchageUSEワークフロー」、統合型グループウェアの1モジュールであるOSK(大塚商会)の「eValueNS/Advance-Flow」、エイトレッドの「X-Point」などが市場で支持を得ている。ノークリサーチは、「経費精算など限られた稟議/申請の用途から、業務フロー全般を対象とした利用へと用途が徐々に拡大してきており、業務フロー基盤としての活用を意識したパッケージ製品がシェア上位に入りやすい状況になっている」とみている。
導入済ワークフロー製品/サービスシェア
figure 2 「ポジション」を読む
ペーパーレス化など、企業ニーズに対応
ノークリサーチの岩上由高シニアアナリストは、ワークフロー製品の主な訴求点を、企業規模別に年商5億円未満、年商5億・100億円未満、年商100億円以上の三つに区分する。(1)年商5億円未満:伝票や帳票などの社内文書を電子化し、ペーパーレス化を促進する、(2)年商5億円から100億円未満:経費精算や人事情報の変更にかかわる承認データをERPなどの基幹系システムに反映する、(3)年商100億円以上:既存の基幹系システムを活用しながら業務プロセスを自動化する――である。それぞれ対応する製品は、小規模企業向けでは、シヤチハタの「パソコン決裁DocGear」やリコーの「StampLess」などがみられ、SMB向けでは「eValue NS」や「X-Point」が強い。「intra-mart」は、中堅企業から大企業にかけて幅広く実績をもつ。具体的には、ERPフロントでの情報システムの統合のほか、内部統制やコスト削減、グループへの展開によるシェアードサービスを目的とする企業で導入が進んでいる。
企業規模別にみたワークフロー製品と訴求点
figure 3 「拡販戦略」を読む
新規/既存ユーザーへの提案を強化
NTTデータイントラマートは、パートナーのクラウド事業の早期立ち上げをサポートする「intra-martクラウドパートナー制度」を展開している。中国・上海に拠点を設けており、グローバル展開にも積極的だ。年商100億円以上の企業に強い富士電機は、直販比率を高める一方で、電通国際情報サービスや伊藤忠テクノソリューションズといったSIer経由の販売も強化する方針。従業員が500人以下あるいは1000人以上の企業の新規開拓を進める。「FlowLites」を販売するNECは、開発言語の知識がなくても、パラメータ設定でマスター参照やデータ入出力などの連携ができる。申請書テンプレートは80種類以上を提供しているので、開発コストの削減につながることを売りに、今年度は10%以上の導入社数の伸びを目指す。昨年度、過去最高の出荷金額/本数を記録したエイトレッドは、内部統制を提案の軸に据えて、20万円で利用できる「zero」といった製品を上場予備軍の中小企業などに訴求する。ブラウザ上で、書類イメージそのままに入力フォームを作成することができるのが特長だ。OSKの茂木康次・営業本部アライアンス営業部部長は、「『Advance』の既存ユーザーがかなり残っている。現在は、保守ユーザーをすべてチェックしている」として、後継の「eValue NS」への移行キャンペーンを打ち出す考え。
拡販戦略の一例:NTTデータイントラマート
intra-martオープンクラウドプラットフォームの構想
figure 4 「トレンド」を読む
クラウドの動きが加速、モバイルやBIも新機軸に
近年は、基幹系システムと連携することで、ビジネスプロセス全体を自動化するBPM/SOAミドルウェア的なものが注目を浴びている。最近のトピックとして、NTTデータイントラマートのパートナーは、「Infor ERP LN」に「intra-mart」を連携できる接続コネクターを新たに用意したことが挙げられる。他システムとの連携という点以外では、クラウドやモバイル、BIなどがワークフロー市場を取り巻く新潮流といえる。クラウドについて、岩上シニアアナリストは、「旅費申請や経費精算などの一部の定型業務はサービス形態と相性がよく、用途を限定した場面でSMBのSaaS/ASPの利用は進む」とみる。こうした状況にあって、ベンダーの動きは活発だ。「intra-mart」がクラウド環境に対応し、エイトレッドがネオジャパンのクラウドサービス「Applitus」上で「X-Point on Applitus」を提供。富士電機の福島健吾・社会情報システム事業部第一システム技術部担当課長は、「業務特化型を中心に事業を展開してきたが、市場では汎用型にニーズが移ってきている。ニーズを踏まえてクラウド環境に対応する新製品をリリースする」考えだ。モバイルについては、「eValueNS」がiPhone/iPad、Android OS搭載のスマートフォンに対応している。BIの活用例としては、「X-Point」が経費精算の申請データを集計/分析できる機能を備えている。
ワークフロー市場を取り巻くトレンド