中国やインド、ベトナムなどアジア各国では、ここ1～2年の間にクラウドコンピューティングが急速に普及している。調査会社のIDCは、今年の（日本を除いた）アジアクラウド市場の規模を約13億ドルとみており、2014年までの年間成長率をおよそ40％と予測している。13億ドルは、約290億ドル（2015年予測）とされる日本の市場規模の5％弱にとどまる。だが、成長の速さやユーザー企業の膨大な数を考えれば、アジアのクラウド市場は巨大なマーケットとなってくるに違いない。

　アジア各国では、ユーザー企業が社内のITインフラをプライベートクラウドへ移行する動きを活発化しており、このことが“アジアン・クラウド”の世界での存在感を高めている。欧米の大手ITベンダーは、アジアのクラウド市場を開拓すべく、すでに動き出している段階にある。昨年11月、シスコシステムズやEMC、マイクロソフトなどの有力ベンダーは、香港をベースとして、クラウドの普及を支援する組織「アジア クラウドコンピューティング アソシエーション」を設立した。アジアでのクラウド事業を本格展開していく戦略の一環とみられる。

　アジアのクラウド市場開拓に力を入れているのは、欧米のIT企業だけではない。高い技術力や幅広い販売網をもつローカルのベンダーも、長期的な事業拡大を目指して、クラウドサービスの展開に本腰を入れているのだ。ホスティング大手のタタコミュニケーションズ（インド）は、今年3月にIaaS型サービスの横展開に踏み切り、今後、主要市場のインドに加えて、マレーシアやシンガポール、タイ、フィリピンなどで提供していく。アミト・ロイ バイスプレジデントは、「成長戦略を考れば、アジア各国でサービスを展開するしかない」と断言している。

　香港に本社を置く通信サービスプロバイダのパックネットは、中国を中心としたクラウド展開に意欲を示している。今年3月に、中国内陸部にある重慶市と共同で、重慶市クラウド特別区内で大型データセンターを建設する覚書を締結した。さらに、香港やシンガポールで提供するクラウド型ストレージサービスを4月に発表するなど、中国/アジアのクラウド市場を攻略していく構えだ。

　欧米やアジアのクラウドベンダーと比べて、日本のベンダーはアジア展開にはまだあまり積極的に取り組んでいない印象を受ける。なかには、「アジアでNo.1を目指していく」というインターネットイニシアティブ（IIJ）などのように意気込みを示している企業もあるが、大半は「これから検討する」として、早くとも来年以降の進出を表明しているのが実際のところだ。日本国内は、市場規模や整った市場環境からすると、現時点でアジアよりも展開しやすいことは間違いない。しかし、日本のベンダーがぐずぐずしている間にアジア市場に割り込む余地がなくなってしまいかねないほど、海外のベンダーは動きを活発化していることを忘れてはならない。（ゼンフ ミシャ）