ITホールディングス(ITHD、岡本晋社長)のデータセンター(DC)ビジネスが垂直的な立ち上がりの様相をみせている。今夏に向けて首都圏における電力事情の一段の悪化が危惧されるなか、安定的な電源を求めてユーザー企業が自社で保有している情報システムをDCに預ける動きが活発化。基幹業務システムの設置に耐えられる高性能なDCの供給量が限られている状況下で、ITHDは、新規だけでグループと合弁会社を合わせて国内4000ラック規模を供給。他社に先駆けてユーザー需要を獲得しようとしている。(安藤章司)
首都圏の電力不安で商談件数が倍増
東日本大震災が発生した後、週を追うごとに商談件数、規模ともに倍増で推移している──。多忙を極めるなかでそう話すのは、今年4月に全面開業したばかりの東京・御殿山DCの営業を担当するITHDグループTISの高村泰生・IT基盤サービス第一営業部主査だ。本紙のインタビューに応じた4月下旬も、早朝からDCの商談が続き、取材を受けるのもそこそこに、次の商談先へと駆け足で向かっていった。
御殿山DCは、ラック換算でおよそ3000ラック、都内一等地に立地する巨大DCである。開業直後から引き合いや商談はひっきりなしに続いている。御殿山DCの立ち上げと同時期に旧TISと旧ソラン、旧ユーフィットの3社が合併して誕生した新生TISは、営業やSEを総動員して対応に当たる。
DCを運用するSIerとしては、本来ならば、顧客の業務システムを詳しく分析してサーバー統合や仮想化、あるいはクラウドなど新しい仕組みの応用で合理化したうえで、DCへ移設する手順を踏むことが多い。限られたDCスペースを有効活用し、ITシステムの維持費を削減するためだ。しかし現状は、夏まで2か月余りに迫った緊急事態である。ラックにサーバーが入ったままの「“立ち姿”でDCに搬入してもらって構わない」(TISの高村主査)と、工期短縮を重要視する。
さらにもう一つ、これまでと違う点がある。それは「大阪など首都圏以外に復旧用のバックアップサイトを確保したい」というユーザーの要望だ。事業継続プラン(BCP)に基づくディザスタリカバリ(DR)用のDCを首都圏以外に確保することで危機管理を強化する動きである。これまで、それほど優先度が高くなかった地方DCを活用したBCP、DRへのニーズがにわかに高まっている。「ユーザーは、これまでのコスト削減優先のIT投資から、リスク管理を優先する傾向が強まった」(同)と話す。
ITHDグループは、2010年には中国・天津に約1200ラック、富山県高岡市に約400ラック相当のDCを開業した。御殿山DCに続いて、5月には富山市内に、インテックと北陸電力の合弁会社パワー・アンド・IT(PIT)が約500ラックのDCを竣工する予定だ。直近の新設分だけで国内4000ラック、海外も合わせれば5000ラックを超える規模となる。そのすべてを基幹業務システムの運用に耐えられる高規格DCで固める。
御殿山DCでは、サーバーを“立ち姿”のままでの搬入を受け入れる一方、その後の高い付加価値のビジネスへつなげる準備を着々と進めている。主力の付加価値ビジネスに位置づけているのが、TISが独自に開発したクラウド基盤サービス「TIS Enterprise Ondemand Service(T.E.O.S.)」である。複数DCに物理的に分散設置したサーバーを、クラウド基盤で統合的に管理することで運用効率の向上とコスト削減を図るものだ。今夏の電源確保を第一ステップとして、その次に仮想化、統合化によるDR、BCPの拡充。最終的にはT.E.O.S.を活用した業務システムのクラウド化、サービス化のビジネスのロードマップを描く。
ただ、楽観はできない。2012年度に入れば、ライバルの大手SIerによる大型DCの竣工予定が目白押しだ。ITHDは、それまでに1社でも多くの顧客をDCへ迎え入れ、統合化やクラウド化などのより高次のサービスへとステップアップさせる必要がある。そのためには、グループや合弁会社との連携を、どれだけ密にできるかがカギを握りそうだ。
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表層深層
ITHDがDCの建設を急いだ理由として、ライバルの大手SIerの動きが挙げられる。2012年度以降には、新日鉄ソリューションズが約1300ラック規模、キヤノンマーケティングジャパンが約2310ラック規模、野村総合研究所(NRI)は約200億円を投じて大型DCの竣工を予定している。情報サービス業界にとって、2012年はDCの建設ラッシュとなる。ITHDとしてはライバルよりも早く開業にこぎ着けなければならない焦燥感があった。
ラック換算で3000ラック収容を誇る御殿山DCは、都内一等地に立地している。御殿山DCは、建設計画を進めているさなかにリーマン・ショックが起き、同時にDCの設置場所を問わないクラウドが主流となるのがほぼ確実視されるなか、ややもすれば“大艦巨砲主義”と揶揄されかねない状況だった。それでも、「不安定な受託ソフト開発に頼るのではなく、安定収益に役立つDCをもつ必要性がある」(TIS関係者)という一点に賭けて竣工した。
BCPとDRでは、TISの大阪・心斎橋DC、インテックと合弁会社パワー・アンド・IT(PIT)の富山県内のDCが役立つ。PITの大庭正幸社長は「基幹業務システムのDR用途も重視するビジネスの一つ」と、首都圏一極集中のリスク分散に有効と指摘し、高岡DCを担当するインテックの屋敷知幾参事は、「システム開発も同時に行えるハイブリッドなDC設備」と、サーバー運用だけでなく、新規のシステム開発も同時にできる多機能性を売りにする。