首都圏・東日本は今、大幅な電力節減を求められている。原発問題が長引く見通しのなか、影響地域内のあらゆる産業は電力の使い方を抜本的に見直さざる得ない。ITのインテリジェンスを駆使した効率的な電力消費や、経済の復興に向けて、情報サービス産業が果たすべき役割は大きい。
ダブル、トリプルの打撃
新年度の不透明感広がる
「東日本大震災」と「3.11後の情報サービス産業」は、それぞれ大きく二つの側面をもつ。前者は、地震・津波による甚大なる被害と、福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染拡大への懸念。後者は、震災による受注延期や凍結の恐れと首都圏・東日本地区の電力不足だ。このダブルパンチ、トリプルパンチともいえる経済的打撃は、アジア・世界経済とも密接に絡み、情報サービス産業の新年度には不透明感が広がる。
厳しい現実、逃れられず 「リーマン・ショックから3年目、ようやくまとまったプロジェクトの受注が入り始めた矢先、こんなことになって…」。ある大手SIerの関係者は、悔しい思いを顔に浮かべる。4月から新年度がスタートし、今期こそ受注をより増やし、売り上げを回復させられると踏んでいたSIerは決して少なくないはずだ。3.11大震災と福島原発事故は、今期の情報サービスビジネスの大幅な見直しを、これ以上はないほどのインパクトで迫っている。
情報サービスの主要ユーザーである製造や流通業は、地震によって物理的なダメージを受けただけでなく、原発事故による放射能汚染の懸念や電力不足でダブル、トリプルのダメージを受けた。とりわけ食品や流通関連は深刻だ。
海外の反応をみれば、そのダメージのイメージを掴みやすい。震災に対しては多大な義援金や救援隊を送り込んでくれた諸外国も、放射能汚染に関してはドライである。
農林水産省によれば、アジア、欧米問わず北関東地域の一部野菜や乳製品に、輸入禁止など厳しい規制をかける。ある商社流通業の関係者は、「福島から東へと気流に乗って放射性物質が流れることを船舶や航空機の運航会社が懸念している」と話す。日本と北米を結ぶ重要な太平洋航路と一部かぶるだけに、「日本への貨物定期便が減るのは、なんとしても避けたい」(別の都内専門商社関係者)と深刻な表情だ。
電力は850万kwが不足 情報サービス産業には、電力不足の試練も目の前に立ちふさがる。猛暑だった2010年夏のピーク時の電力消費は約6000万kw。これに対して東京電力は、今夏までに約4650万kwの電力供給の見通ししか立たないという。その差は約1350万kwで、単純計算ベースでみると2割余りも足りない。野村総合研究所(NRI)の調べによれば、今夏、東京電力管内で前年比8%の電力節減を行ったと仮定しても、なお850万kwの電力が不足する。追加のさらに厳しい節電が不可避で、それでも計画停電は避けられないとNRIではみている。
状況は決して好ましくないが、電力節減に関しては情報サービス産業が果たす役割は少なからずある。例えば、セキュアな情報共有システムによって、在宅勤務やサテライトオフィスを活用しやすくする方法だ。人の移動を減らすことによって電力を節減するアプローチである。震災の直接的な影響を受けていない西日本で仕事ができるよう、情報システム面でバックアップする。代替がきかない生産装置が首都圏にある場合は有効ではないが、デスクワークを中心とする節電には効果が大きい。
客先に設置してあるサーバーやストレージ類も、西日本のデータセンター(DC)に移すことで首都圏の電力負担は減る。東電管内のDCに移したところで、停電によるサーバーダウンは免れたとしても、電力消費をゼロにできるわけではない。サーバーなどのハードウェアを物理的に動かす必要はなく、その中身のソフトウェアだけをネットワーク経由で西日本のDCを活用したパブリッククラウドへ移せばいい。ユーザー自身でやるのは難しいだろうから、そこはプロ集団であるSIerが支援すべきだろう。
ITの果たすべき役割とは 折しも、情報サービス業界は、ユーザー企業の「所有から利用へ」の流れのなかで、クラウド・コンピューティングを推し進めてきた。震災直後の混乱や首都圏の計画停電によって、望まないかたちではあるものの、クラウドの災害に対する強さが実証されている。計画停電の対象地域内にあるDCは、停電時には自家発電装置が起動。なかには対象地域内であっても、鉄道と同様、公共性が高いと判断されたDCに、優先的に電源が供給されたケースもある。ノートパソコンやスマートフォンをはじめとするスマート系デバイスは、内蔵バッテリと3G回線、クラウドサービスで停電時でもかろうじて機能したケースが多い。
業界の進むべき方向性として、クラウドは間違っておらず、これまで蓄積してきたノウハウや知見を駆使することで、直前に迫る今夏の電力危機のダメージを最小限にとどめることができる。以下、ITを活用した電力問題への対処を中心にレポートする。
差し迫った節電対策
残り4か月弱で夏本番に
今、差し迫った課題は、夏の首都圏の電力不足である。電力需要が本格的に高まるのは暑さが増してくる7月下旬から。逆算すると、あと4か月弱しか時間がない。SIerなどITベンダーは4月中に対策をまとめ、5月からユーザー企業への提案やシステム改変をスタートさせなければならない。
確実な手立てが必要 野村総合研究所(NRI)は、「震災復興に向けた緊急対策の推進について」と題するレポートの第1回目の提言として、「2011年夏の電力供給不足への対応のあり方」を3月30日にまとめた。このなかで、「『2010年ほど暑くならないかもしれない』という前提ではなく、『2010年並みに暑くなるかもしれない』という前提で、電力需給対策は議論されるべき」と唱える。このうえで、東京電力管内の現時点での電力不足予測分の約850万kwのうち、事業者や家庭など電力ユーザーの自発的な抑制による節電効果は、楽観的にみても最大で約490万kw。残り360万kw分、電力が足らなくなると予測している。
3.11直後は、午前中と午後に電力需要のピークが来るため、通勤電車を思うように動かせず、大きな混乱をもたらした。NRIの調べによれば、夏は温度が急上昇する朝8時頃から急激に電力需要が高まり、夕方涼しくなる18時頃まで高い水準を保つ。電力は、揚水発電などを除いて、基本的にためておくことができない。真夏の昼間に訪れるピーク時の電力をどれだけ減らせるかに、すべてがかかっている。もし失敗すれば、震災直後よりも大規模な計画停電が免れない。NRIでは「大規模停電を回避するためには確実に需要抑制ができる手段を用意しておく必要がある」と、警鐘を鳴らす。
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