複数の開発者がソフトウェアを共同開発・改善し、無償で配布されるオープンソースソフト(OSS)。Linuxはその代表的なソフトだ。無償版だけでなく、専門のLinuxベンダーが独自サービスを加えた有償モデルもある。SIerにとっては、Windowsなどの商用OSに比べて、開発コストを低減できるメリットがある。1990年代前半に登場し、00年代に浸透し始めたLinux。2010年代に入った今、どのような状況にあるのか。(文/木村剛士)
figure 1 「市場の状況」を読む
安定成長が期待できる有望OS
Windows、UNIX、そして有償Linuxなどを合計した国内のサーバー向けOS市場は、中期的にみてほぼ横ばいだ。IDC Japanの調査データによると、2009年~14年の年間平均成長率(CAGR)は0.3%。しかし、全体が横ばいでも、Linuxは伸びる予測だ。同じ期間でのCAGRは8.5%。唯一、気を吐く存在といえる。情報処理推進機構(IPA)がおよそ1年前にソフト開発企業やSIerなどを対象に行った調査によると、Linuxを含めたOSSを情報システム構築に活用しているケースは全体の約70%を占めた。また、「OSSを業務に利用している」と回答した開発者は25.8%になり、4人に1人はOSSの開発スキルを身につけていることも明らかになっている。活用する理由で最も多いのは、「(情報システムを)低価格で提供できること」で61.9%を占めている。SI案件の原価を抑えるためにOSという部品をより安価にしたいという考えから、LinuxをOSに採用したシステムを提案する機会が増えているのだろう。
国内サーバーOSの市場規模推移
figure 2 「Linuxの種類」を読む
有償版はレッドハットが優勢
WindowsやUNIXに比べて、Linuxの種類は多い。各メーカーが独自サービスを付加した有償版と無償版は、合わせて約20種類がある。表には主なLinuxをまとめた。有償版では、レッドハットを筆頭にノベル、ミラクル・リナックス、ターボリナックスが主なプレーヤーだ。なかでも、ミラクル・リナックスはユニークな開発体制をもつ。コミュニティに加え、韓国のハーンソフトや中国のレッドフラグといった、アジアの有力Linuxメーカーと共同で開発する体制を敷く。協業することで開発コストを削減できるほか、「各国での要望、ニーズを取り入れることで品質の高いLinuxを開発することができる」(ミラクル・リナックスの児玉崇社長)という。市場獲得争いで最も高いシェアをもつのがレッドハットで、過半数を握っている。レッドハットは、Linuxだけでなく、仮想化ソフトやアプリケーションサーバーなども企業買収を通じて製品化し、Linuxで獲得したユーザー企業に対して新たな提案をしようとしているのが最近の動きだ。
主なLinuxの種類
figure 3 「利用状況」を読む
Windowsからの移行OSなど、用途が広がる
IDC Japanは、OSSの導入を検討している企業1015社に対して、検討対象としていたOSS関連のプロジェクトを実施した項目と、実施を検討しているプロジェクトについて調査した。Linux関連で、ユーザーが最も多く実施したプロジェクトは、Linuxサーバーの新規導入、その次がWindowsからLinuxへの移行、さらにはUNIXからLinuxへの移行である。Linuxは、互換性の高いUNIXからの移行するために利用されるのが一般的だが、その状況は変わり、ユーザー企業はWindowsからの移行にも高い関心をもっていることがわかる。また、データにはないが、国内Linux最大手のレッドハットの廣川裕司社長は、「Linuxを基幹系システムに活用する動きが非常に強まっている」と話している。
一般的に、Linuxはウェブサイトを運営するためのウェブサーバーなど、基幹システムに比べればそれほど重要ではないシステムで利用されることが多かった。しかし、その状況も変化し、企業活動にとって欠かせないミッションクリティカルなシステムでLinuxを利用するケースが増えているのだ。WindowsやUNIXに比べて信頼性がないとして、重要なシステムでは利用しないケースが多かったLinuxだが、その用途は確実に広がってきている。
国内OSSの利用状況
figure 4 「商流」を読む
必要なハードメーカーとの協業
ソフトの一般的な流通経路は、メーカーから流通事業者のディストリビュータとSIerに流れ、その傘下にいる2次販売代理店に流通してユーザー企業に販売されるのが一般的。「メーカー→ディストリビュータ・SIer→2次代理店→ユーザー企業」という構図だ。Linuxもこれと同じ商流があるが、ミドルウェアやアプリケーションソフトにはない経路がある。ミドルウェアやアプリケーションソフトに比べて、OSはハードウェア(サーバー)とセットで求められるケースが多い。そのため、有償Linuxを販売するベンダーは、サーバーメーカーと協業している。サーバーメーカーは、ハードだけを売る場合もあるが、大半はこうしたOSをハードウェアに搭載し、ユーザー企業や再販するSIerに販売している。
Linuxメーカーにとって、力のあるサーバーメーカーと手を結べるかどうかが、ビジネスの成否を左右する。加えて、Linuxメーカーの一社であるミラクル・リナックスは、サーバーメーカーだけでなく、専用機器メーカーとのアライアンスを重視している。「特別な用途向けに開発されている専用ハードに当社のLinuxを採用してもらう」(ミラクル・リナックスの児玉社長)戦略を推進しており、FA(ファクトリー・オートメーション)機器やデジタルサイネージ機器メーカーなどとの協業に力を入れている。
Linuxの主な商流