ウェブ会議システムの市場は、右肩上がりの成長が続いている。とくにSaaS型のシステムが伸びている。機能面では成熟しつつあり、差異化が難しくなってきた状況で、主要ベンダーはモバイルやSaaS対応、ユニファイドコミュニケーション(UC)事業、ハイビジョン(HD)化などを推し進めている。国内だけでなく、海外に目を向ける国産ベンダーも登場しており、買収や提携が活発化していく可能性がある。(文/信澤健太)
figure 1 「市場動向」を読む
市場は右肩上がり、継続的な成長を見込む
調査会社アイ・ティ・アール(ITR)によると、国内ウェブ会議システムの2010年度の出荷金額は約64億円で、前年度比19.1%増となった。なかでもSaaS型のウェブ会議システムは、2010年度は43億円で前年度比38.7%増と急成長。市場全体でのSaaS型のシェアは66.9%となった。ITRの藤巻信之シニア・アナリストは、(1)コスト削減のニーズ、(2)ウェブ会議への抵抗感の薄れ、(3)資料の共有・閲覧のニーズ、(4)会議以外への用途の広がり、(5)テレビ会議システムとの連携ニーズ──などが市場の好調要因となっていると分析する。CNAレポート・ジャパンの橋本啓介・遠隔会議システムアナリストによると、テクニカルサポートや病院での患者と医師のやり取りの通訳、カウンセリングなどの用途で利用する動きが国内外でみられるという。東日本大震災を受けて、在宅勤務ソリューションの一つとしても注目が集まっている。NTTコミュニケーションズの吉田明洋・販売推進部主査は、「BCP(事業継続計画)としてのニーズが新たに加わった」と説明する。
ウェブ会議システム市場の提供形態別シェア(2010年度/出荷金額ベース)
figure 2 「製品動向」を読む
独自路線を打ち出して差異化を図る
ブイキューブの「V-CUBE」はマルチOSに対応し、多様なラインアップ、モバイルデバイス対応のほか、1契約で何人でも利用できるルーム制、グループウェアやERPとの連携、専用ソフトウェアのダウンロード不要などを打ち出している。シスコシステムズの「WebEX」は、「独自の暗号化アルゴリズムと圧縮技術が強み」(内田耕太郎・コラボレーションソフトウェアグループマーケティングマネージャ)という。スイッチ型の分散ネットワークを独自に構築し、専用線を引いている。会議データは出席者のPCにパケット単位で転送し、クラウド上には一切保存されない。声が最も大きい発言者にビデオを切り替える機能なども備えている。NTTアイティの「MeetingPlaza」は、「支援ツールが豊富で、多様な資料を閲覧しながら会議に参加できる」(栗原信・MeetingPlaza事業部営業部長)のが特徴。エイネットの「Fresh Voice」は、G.722音声プロトコルを採用。西畑博功社長は「音声の遅延や途切れがない」と話す。解像度1920×1080のフルHD対応も“売り”だ。
主なウェブ会議システム
figure 3 「販売動向」を読む
伸びるベンダー、SaaS提供に注力
ITRによると、2010年度のSaaS型ウェブ会議システムでトップを走るのがブイキューブで、30.2%のシェアを獲得した。海外展開やSaaS型の提供で急成長しているブイキューブでは、「95%の新規ユーザーがSaaSを選択している」(間下直晃社長兼CEO)という。「昨年度(10年12月期)は売り上げの7割強をSaaS型で占めた。今年度は8割程度にまでなるのではないか」(間下社長)。2位は、22.1%のシェアを占めたシスコシステムズ(SaaS型の提供のみ)で、3位はNTTアイティ。シスコは、今年4月、ディストリビュータを経由するプレミア認定/セレクト認定パートナーが「WebEX」の取り扱いを開始して、代理店が約20社から約300社に増加。25アカウント以上の企業に対しては、Master/Advancedスペシャライゼーション取得パートナー33社が拡販に本腰を入れ始めた。4位のジャパンメディアシステム(JMS)は、「当社のSaaS型は、初期費用が高く、ランニングコストが安いのが特徴で、販売代理店からの受けがいい」(山崎拓郎ビジュアルコミュニケーション部課長)という状況で、間接販売が伸びているという。SI型で官公庁や大企業を中心に支持を得てきたエイネットは、SaaS型の提供を再開。中堅・中小企業(SMB)の開拓に乗り出している。
SaaS型ウェブ会議システム市場ベンダーシェア(2010年度/出荷金額ベース)
figure 4 「トレンド」を読む
主要ベンダーは“潮流”への対応に腐心
モバイルやSaaS・クラウド、UCは近年のトレンドだ。スマートフォンやスレートなどのモバイルデバイス向けソリューションは、ペーパーレス化などを訴求するものにとどまる傾向がある。CPUパワーなどスペックの問題もある。「過度に期待感を抱いている企業が少なくない」とは、大塚商会の市川和幸マーケティング本部課長。SaaSについては、橋本アナリストが「期間限定の在宅勤務など、場合に応じてSI型との使い分けに有効だ」と指摘する。UCに関していえば、「MeetingPlaza」はH.323ゲートウェイやコネクタによる専用装置との連携、スマートフォンからの会議参加が可能。「Fresh Voice」はSIPに対応している。複数ベンダーの製品を取り扱う大塚商会は、「複数ベンダーの専用装置とウェブ会議を組み合わせて提案できる」(北川達史部長)ことを強みとしている。リコーは今年夏にUCシステム事業に参入し、2015年度にグローバルで売上高1000億円を目指すことを発表した。少人数で他拠点間のコミュニケーションを「大きな潜在市場」とみて、テレビ会議とウェブ会議の隙間を埋めるポータブルタイプシステムを提案していく。「ビジネス用PCのように部署で利用できる」(中村英史UCS事業室室長)という自社開発の専用端末を発売する予定だ。
ウェブ会議システムの主なトレンド