【大連発】旧満州時代の建物を残しつつも、都市の開発・発展ぶりは著しい。スクラップ&ビルドが至るところで行われている。急速な発展を遂げる都市、それが大連だ。日本語を話す人材を多く擁し、対日向けのITO(ITアウトソーシング)、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)業務を手がける拠点として、多くの外資系企業が進出している。発展の中心となっている大連ソフトウェアパークと、市内の日系ベンダーを取材した。(取材・文/鍋島蓉子)
大連ソフトウェアパーク
バックオフィス業務の拠点としても機能
旅順までのソフトウェア産業帯開発が進む
大連の建物の耐用年数はわずか20年という。建てては壊しの繰り返しで、市街の様相は絶えず変化している。インフラ整備のため、地下鉄の建設も一気に進んでいる。職を探す働き手は多く、地下鉄工事も休みなく続けられていて、地下での爆発音が地上に響く。大連は地震が起きない土地だが、揺れるので、「地震ではありません。安心してください」との告知が頻繁に流れるほどだ。

大連ソフトウェアパークの田豊副総裁
大連市内には、約800社のIT企業が所在する。西部郊外に位置する大連ソフトウェアパークの設立は1998年。政府が政策を策定し、億達集団の子会社が運営するという民間主導のスタイルをとっている。市内IT企業のうち、560社ほどが入居し、6~7割は大手企業だ。内訳は42%が外資系企業で、27%が日系企業。横河電機やNEC、住友林業、フルノシステムズ、パナソニック、富士通、NTTといった、日本の有数の企業が集積している。年間50~60社が進出しているという。
大連ソフトウェアパークの田豊副総裁は、「これまではIT企業の進出が多かったのだが、ファイザー製薬、アディダスなど、製造や流通といった非IT系企業が、財務処理などのバックオフィス業務の拠点を設置する傾向が強まっている」と状況を説明してくれた。新規に進出した大手企業はファイザー製薬、シマンテック、野村総合研究所、ベルシステム24など。また、ここ2~3年で契約面積が増えていて、社長室や会議室を含めて一人あたりの占有面積が10m2弱ほどになっている。働く人の数も非常に増えているそうだ。
大連ソフトウェアパークは、IT企業を対象とした説明会で、入居を検討する企業が要望する生活関連施設や住宅も含めたハードウェアやオフィスビルや通信インフラを整備するサービスとともに、どのような人材を獲得したらいいかという相談についても対策室を設置して対応している。
今後は「ひと口にBPOといっても、概念が広い。新しい分野として、流通、物流にからむ電子ラベルのセキュリティやプロトコル開発やETCなどの管理、ユビキタス関連企業を誘致したい。また、運用管理、流通、物流関連企業の誘致をしたい」(田副総裁)としている。
面積が3km2の大連ソフトウェアパーク(第1期)。大学、オフィス、居住地などが集積する一つの都市になっている。今、進められているのはソフトウェアパークの第2期工事で、他のディベロッパーと組み、拡張が進められている。その一つが、シンガポールのアセンダス社との共同出資による「大連アセンダスITパーク」、そして上海新天地を開発した香港の瑞安集団のグループ会社が「大連天地ソフトウェアパーク」を開設。中国屈指のSIerであり、大連にIT専門の私立大学「東軟信息学院」を抱える東軟集団(Neusoft)も投資をしている。旅順方面まで拡張することで、「旅順南路ソフトウェア産業帯」を形成する計画だ。旅順は近年まで軍事的要所とされており、外国人には未開放の土地だった。「地域的には20年から30年はITが遅れている。その分、自然が非常に豊かな土地だ」(田副総裁)。09年の対外開放により、新たなITO/BPOの拠点として大きな発展を遂げそうだ。
中国でも、内陸部に比べると、人材のコストが上がってきている大連。企業におけるコストプレッシャーが強まっている。今最も大きな課題となっているのは、いかに「高級人材」に来てもらうかだという。そのための就職説明会を行っている。大連市も相当な優遇策をとっており、人材確保に躍起になっている。日本と比較して、IT人材の地位が高い中国。給与も他の業種に比べて高水準だ。
大連市の優遇策の一つとして、大連ハイテクゾーンやソフトウェアパークの入居企業は、年金積み立てにあたって、個人が企業に納める金額を他の大連市内の企業の平均給与額で算出してもよいことになっている。また、6万元を超える年収を得た場合、個人に対して大幅に返還される。さらに就職難の大連において、大卒を採用するごとに4500元のトレーニング費用が支給されるという手厚さだ。

第1期工事のジオラマ
住商信息系統(大連)
標準プロセスの浸透で品質向上
保守を現地法人で手がける計画
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| 小寺高志総経理 |
住商情報システム(SCS)では、全社的なオフショアの窓口として、中国に住商信息系統(大連)を設置した。中国のオフショアパートナー企業に対して、製造プロセスを浸透させることで、オフショアを強化するのが目的だ。
SCSは、2000年頃から大連でのオフショア開発を始めたが、必ずしも成功したプロジェクトばかりではなかった。そこで、06年にオフショア成功要因の洗い出しを全社レベルで検討した。ブリッジSEに依存せず、プロセスと成果物で開発する仕組みを構築。上工程(設計)と下工程(製造)との分離化を図り、開発工場の位置づけを確立した。発注側のSCSでは、独自の標準プロセスによって、さらなる設計力向上を図った。一方、中国のオフショアパートナー企業を数社に絞り込み、このプロセスを徹底的に教育。「真のパートナー」として関係を維持するため、SCSとの中立的立場として大連に拠点を置いた。
小寺高志総経理は「製造業では、設計書やプロセスをつくり、それを現場にインプットしていくことで、高品質、低コスト、短納期を実現している。ソフトウェア開発も、工場化できたらオフショアの成功案件が増えるはずと考えた」と話す。住商信息系統では、設計書に記載されている情報で製造できるレベルかをチェックし、製造着手前にバグを極力排除する仕組みをつくり上げた。今後は、保守にかかるプログラム改変などの作業を拡大していくことを計画している。大連では今、プログラムから設計書をつくるリバースデザインに取り組んでいる。これによってシステムを理解し、プログラムの変更にも応えられるようになる。
大連愛凱系統集成
ラボ契約で維持管理のコストを低減
独自のBPOサービス展開も視野に
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田島清博 董事長 |
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南所一規董事 総経理 |
アイエックス・ナレッジ(安藤文男社長)のグループ会社で、中国法人の大連愛凱系統集成は、日本企業向けのオフショア開発を手がけている。2000年頃からオフショア開発を開始。08年4月には戦略的に業務プロセスを共有する「コア・パートナー」を複数社確保するなど、オフショア開発の体系を構築してきた。
その後、アイエックス・ナレッジ自身がリスクをとって拠点をつくる必要があるとの判断から、中国法人の大連愛凱系統集成を設立し、昨年10月に営業を開始した。南所一規董事総経理は、「大連愛凱系統集成には、パートナーを含めて60人ほどの人員が在籍している」と話す。
新規開発において、リスクの高い開発の場合には中国の技術者を活用することで、日本国内での開発パワーを確保する。またラボ契約を採用することによって、パートナー企業の人員を一定期間確保しながら、顧客のアプリケーションの維持管理・保守を手がけている。この維持管理がオフショアの一つのポイントとなっている。田島清博董事長は、「保守運用部分を中国に移行することで、コスト低減を実現できる」という。
第2ステップでは組み込み開発、システム検証サービスを中国にもってくるとともに、独自の取り組みとして、BPOサービスも視野に入れる。第3ステップでは、日系企業を中心として、中国国内マーケットに対して、同社のクラウドサービス「andi(アンドアイ)」を展開、拡大していく考えだ。
横河信息系統(大連)
製造に特化した戦略拠点
事業会社としての位置づけ強化
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坂本修董事 総経理 |
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藤原公教 質量総監 |
横河ソリューションズの中国におけるビジネス展開のための戦略的拠点として、07年に立ち上げたのが横河信息系統(大連)だ。主に工場の自動化ソリューションやグローバル市場向けの業務アプリケーションなどを提供している。
横河信息系統(大連)は、「中国や日本を含むグローバルの顧客に向けて、情報ビジネスの戦略拠点として高品質な製品、サービスを提供することによって、社会に貢献する」という企業理念を掲げている。また同社は、2013年以降のビジネス拡大に向けて、3か年計画を策定している。「オフショアをキーワードに日本との関係を密にしながらも、自立した事業会社としての確固たる地位を築く」(坂本修董事総経理)。
同社は、製造業でも医薬、食品、化学をメインに、ERP、MES(製造実行システム)、工場内のさまざまな操業状況をリアルタイムに管理するPIMSなどのソリューションを手がけている。そのため、社員には製造に特化した業務知識を身につける必要がある。藤原公教・質量総監は「定期的に日本へ出向させて、親会社で6か月間、OJTやOff─JTを行い、人材を育成する」と、マンパワーを高めるための方策について語る。これらの活動によって、最初は日本の顧客をターゲットとして、将来は直接中国で、システムの需要を取り込みたいと考えている。