富士ゼロックスが8月23日に発表したSOHO・小規模事業者向けのクラウド型の情報共有サービス「SkyDesk（スカイデスク）」。新サービスの提供から1か月が経過した。同社によれば、「目標通りの反響を得ている」（小栗伸重・新規事業準備室プランニング＆マーケティンググループマネジャー）とのこと。新サービスは、順調に無償登録が進む。

　この新サービス、多くのIT業界関係者は富士ゼロックスがクラウド・サービスを拡大するための取っかかりだと認識したに違いない。だが、「SkyDesk」は、プリンタメーカーの同社が繰り出す次世代型サービスの「ワン・オブ・ゼムにすぎない」（小栗マネジャー）。プリンタメーカーの収益構造は、ここ数年で激変した。「機器を売って消耗品で儲ける」構図は、環境配慮やコスト削減のあおりで印刷枚数が減って、成り立ちにくくなった。将来を見据えて、プリンタメーカーは新たな収益モデルの構築を迫られている。「SkyDesk」は、新収益モデルを打ち出す“初手”にすぎないのだ。

　その「SkyDesk」は、富士ゼロックスの戦略上、大きな意味をもっている。同社の山本忠人社長は「将来的にみても、中堅・中小企業（SMB）は大きな市場だ」という。中堅・大手に強みをもつ同社。苦手なSMBは、まさに「ブルーオーシャン」だ。「SkyDesk」の無料登録は、即、同社の機器を販売する見込み客になる。SMBユーザーのアカウントを獲得するうえで重要なツールになり得るのだ。しかし、このサービスだけで、「大きな収益モデル」を描くことは難しいだろう。

　「SkyDesk」を開発したのは、2年前に社内に設置した「新規事業準備室」だ。現在のメンバーは50～60人。ハードウェア・ソフトウェア、機器の制御など多方面の開発者が集まっている。「この準備室はシリコンバレーとつながっている」（田中徹・新規事業準備室室長）。同社が1995年に設立した先端的なマルチメディア研究所「FXPAL」という子会社を通じて、シリコンバレーの最先端研究や技術などを入手しながら、新規事業になり得る素材を探し、具体化を進めている。

　iPhone/iPadやAndroidベースのスマートフォンやタブレット端末の登場で、企業内外のコミュニケーション手段は様変わりする可能性が高い。従来は紙ドキュメントがコミュニケーション手段の主流だったが、それが電子ドキュメントに変容することは明らかだ。コピー・プリンタに搭載する印刷機能が不要になることはないが、利用率は減る傾向にある。この時代を見据えた研究が富士ゼロックスで始まっている。コピー機を生み出したゼロックスの一員が、どんな新機軸のデバイスやサービスを生み出すのか、当分、目が離せない。（谷畑良胤）