中国の情報サービス市場で顕著な伸びを示している分野の一つが、電子商取引(EC)だ。2011年は日本のEC市場と並ぶ規模に拡大。向こう3年で日本のおよそ2倍になると予測されている。ECの形態でみると「BtoC」の伸びが大きく、企業が続々とEC市場に参入していることがうかがい知れる。ECサービスへのアクセス端末となるパソコンやスマートフォンの出荷も堅調で、ユーザー層のいっそうの広がりが見込まれる。(文/安藤章司)
figure 1 「市場規模」を読む
日本を大きく上回る見込みの中国EC市場
中国の電子商取引(EC)市場は、2011年、前年比65.6%増の7634億元(約9兆1600億円)に伸びる見込みだ。すでに日本のEC市場と並ぶ規模に拡大しており、2012年には日本を上回るのは確実視されている。調査会社のアイリサーチによれば、2014年には1兆9124億元(22兆9400億円)に拡大。日本のEC市場のおよそ2倍の規模になるとみている。中国のEC市場が本格的な拡大期にあった2009年までは年率200%余りで伸びていたが、2014年頃には30%増程度の伸びに落ち着く見通しではあるものの、市場が成熟している日本と比べれば依然として高い伸び率である。
ユーザー数ベースでは、2011年に約2億人に達し、年率20%余りの伸びで、2014年にはおよそ3億5000万人に増える見込み。ユーザー数が増えるだけでなく、一人あたりの購買量も増える傾向にある。消費財小売総額に占めるECの比率も、2008年にはわずか1.2%だったものが、2014年には7.7%へ拡大するとみられている。
中国電子商取引(EC)の市場規模推移
figure 2 「日本ベンダーの動き」を読む
富士ソフトが有力ECベンダーと業務提携
日本のSIerも、中国EC市場に向けたアクションをすでに起こしている。大手SIerの富士ソフトは2011年11月に中国有力ECパッケージソフトベンダー「上海商派網絡科技(ShopEx)」と提携し、現地のEC市場への本格参入を決定。中国EC市場は、これまでユーザー同士のオークションなど「CtoC」の構成比が多かったが、年を追うごとに企業がコンシューマに商品やサービスを販売する「BtoC」の比率が高まってきている。アイリサーチの調べでは、2008年に6.8%しかなかったBtoC比率が、2011年には18.2%、2014年には35.1%へと拡大する見込みだ。富士ソフトは、中国ECパッケージソフト市場シェアで約7割のシェアをもつShopExと組んで、日系ユーザーの中国EC市場進出を支援。ECビジネスに必要なノウハウやシステム構築、運用サービスなどを提供する。富士ソフトの野澤仁太郎・執行役員国際部長は、「中国のEC市場では、BtoC市場の拡大が潮流となっている」と捉えて、中国でのEC事業拡大に力を入れる。
中国電子商取引(EC)市場のCtoCとBtoCの構成比推移
figure 3 「端末の数量」を読む
パソコン出荷で米国を追い抜くのは確実
インターネットへのアクセス端末として、まだ一定のポジションを保っているのがパソコンである。調査会社IDC中国の調べでは、2011年第2四半期(4~6月期)の中国のパソコン出荷台数は1850万台、金額ベースでは119億ドル(約9520億円)で、同期間の米国の出荷台数1770万台、金額117億ドル(約9360億円)を超えた。ちなみに、調査会社MM総研では、今年度(2012年3月期)の日本国内のパソコン出荷台数は約1493万台と予測。中国のパソコン市場は、3か月間で日本の年間出荷を上回る台数を消化してしまうほどの大きさである。2011年4~6月期の世界のパソコン出荷台数の構成比シェアでみると、中国が22.0%、米国が21.0%。この両国だけで世界のおよそ43%を占める巨大市場へと成長している。
2011年通期では、米国は7340万台の見込みで、依然として世界トップの出荷台数の地位を占め、中国は7240万台の見通しで第2位。だが、2012年通期では、中国が8520万台、米国が7660万台と、中国が通期でも米国の出荷数を追い抜くとIDC中国ではみている。今後、中国のパソコン普及が都市部から地方へと広がるのは必至であり、中国のほうが人口が多いので、米中のパソコン出荷台数の差はさらに開くとみられている。
世界のパソコン出荷台数構成比
figure 4 「モバイル端末の数量」を読む
反動減で一休み、Androidが大きく躍進
ECへのアクセス端末で、一翼を担うのがモバイル端末である。この市場動向を追っていくことで、中国EC市場の拡大余地の大きさをより実態に即したかたちで推し測ることができるはずだ。IDC中国の調べでは、2011年第2四半期(4~6月期)の中国携帯電話市場は、前年同期比5.9%増、出荷台数はおよそ5000万台と不調。2010年10~12月が前年同期比25%増を超えていたのに比べて、伸び悩みが鮮明になった。IDC中国では、iPhoneやAndroid OS機などのスマートフォン、従来型携帯電話ともに市場が加熱しすぎ、需要を先食いした傾向が否めないうえに、消費を刺激するほど新しい魅力を打ち出せなかったとみている。
しかし、中長期の観点に立てば、反動減を抜け出し、再び成長を始めるのは確実だ。例えば4~6月期のAndroid OS機の出荷量は、スマートフォン市場全体の約40%を占め、iOSのおよそ17%よりもシェアを伸ばしている。3G回線対応機も全体の65%まで高まり、ECをはじめとするリッチコンテンツを容易に利用できる環境が急速に整いつつある。中国の中興通訊(ZTE)、華為技術(ファーウェイ)、聯想(レノボ)の3大メーカーのAndroidスマートフォン製品も好調に推移しており、中国の“国産勢”の活躍が市場全体の活性化にもつながっている。
中国携帯電話市場の出荷量推移