ソフトバンクモバイルが展開するアップルのiPhoneや、KDDI(au)とNTTドコモが相次いで投入しているAndroid端末。これらスマートフォンは、インターネット接続が充実していたり、PDFファイルを閲覧できたりと、ビジネスの効率化に役立つ機能を盛り込んでおり、企業での利用が急増している。法人需要の高まりを受け、端末メーカーやキャリアはもちろん、セキュリティベンダーやNIer/SIerなど、IT業界がスマートフォンにまつわる新しいビジネスの開拓に力を注いでいる。
市場規模、急拡大
法人利用が200万台突破へ メーカー/キャリアの商機は スマートフォンが著しい成長ぶりをみせている。2010年の年間市場規模は、iPhoneの好調な売れ行きにけん引されて、約500万台に及んだ(調査会社IDC Japan調べ)。スマートフォン向けセキュリティ事業の展開を本格化しているマカフィーのマーケティング本部・安藤浩二本部長は「スマートフォンの出荷台数の10%強が法人利用」とみている。台数で表すと、50万~60万台の数字となる規模である。
IDC Japanは、スマートフォンの出荷台数が2014年に2000万台を突破すると予測している。スマートフォンはノートパソコンやiPadなどタブレット型端末の市場規模をはるかに上回る見込みだ(図1)。2014年の法人向け出荷台数は、比率を現在と同じ程度の約10%としてみれば、最低限でも200万台に拡大するということになる。スマートフォンのなかでは、現時点でiPhoneがシェアの大半を占めているが、Android端末の普及が進み、今年を境に、iPhoneとの距離が縮まってくるとみている業界関係者が多い。
規模が急拡大しているスマートフォンの法人市場。端末の製造や情報通信だけではなく、セキュリティやネットワーク関連など、スマートフォンを巡って、ありとあらゆる新商売が生まれてくる。
メーカー/キャリアの分野
こんなビジネスができる!・端末の開発/展開
・データ通信
・通信系のサービス
ビジネスチャンスの可能性やや大きい
これまでiPhoneに支配されてきたスマートフォン市場だが、対抗馬のAndroid端末が2010年の後半から存在感を強めているので、ここへきて、Android端末の国内メーカーと、KDDI/NTTドコモなど通信キャリアにとってのビジネスチャンスが広がっている。
ただ、国内メーカーにとっては、ヒット商品「GALAXY S」を開発した韓国のサムスンなど、海外メーカーとの競争がややネックになりそうだ。海外メーカーは、端末の開発・生産コストが日本より安いというメリットを生かしながら、日本市場で強みを発揮している。そのため、国内メーカーはスマートフォン事業の収益率が悪化することを余儀なくされるだろう。
通信キャリアは、スマートフォンが法人向けに拡大することに大きなポテンシャルを見込んでいる。コンシューマ分野でスマートフォンの展開が遅れたKDDIは、今年半ばに法人向けスマートフォンのラインアップの拡大を予定している。このような取り組みから、キャリアは市場開拓に向けて積極的な姿勢をみせていることがわかる。ビジネスチャンスは、情報通信に加えて、法人利用に特化した通信系サービスの提供などさまざまだ。
セキュリティ関連
こんなビジネスができる!・セキュリティの自社展開
・キャリアなどへのOEM提供
・セキュリティサービスの検証
ビジネスチャンスの可能性大きい
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KDDI 三澤健一課長 |
スマートフォンは、インターネット接続など、パソコンとほぼ同等の幅広い通信機能をもっているので、強固なセキュリティが必要となる。とくに法人利用では、会社の機密情報もスマートフォン端末で閲覧することになるので、セキュリティ対策の重要性が高まる。現時点で、iPhoneを狙ったウイルスなどの脅威は少ないようだが、サイバー犯罪の被害を受けやすいとされるAndroid端末の普及によって、セキュリティ対策のニーズが高まっている。
KDDIは、2月にAndroid端末向けの無償セキュリティサービス「リモートロック for IS Series」を開始。同社は「セキュリティに関する懸念を、企業がスマートフォンの導入をためらう最も大きな理由とにらんでいる」(ソリューション事業企画本部サービス企画部の三澤健一課長)ということから、セキュリティサービスの提供をスマートフォンの販促ツールとしている。このサービスは、ベンダー名は伏せているが、大手セキュリティベンダーと連携して開発したものだという。
セキュリティベンダーが自社ブランドでサービスを提供することに加え、端末メーカーやキャリアを顧客とするOEM展開も、可能性の大きいビジネスチャンスになると考えられる。
ネットワーク関連
こんなビジネスができる!・企業内ネットワークの強化
・無線LANソリューション
・ネットワーク/通信系のサービス
ビジネスチャンスの可能性これから大きくなる
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大塚商会 矮松浩課長 |
スマートフォンの法人利用が増加し、企業で無線LANを介して社内ネットワークに接続するデバイスの数が増えるにつれ、ネットワークに関する需要が高まっていく。ネットワーク関連のニーズは、セキュリティなどとは異なり、スマートフォン普及の初期段階からすぐに出てくるわけではない。しかし、今後の出荷台数の急増から考えると、企業内ネットワークインフラの強化などが中期的には必要不可欠となる。ネットワーク機器メーカーやネットワークインテグレータ(NIer)にとって、社内ネットワークの再構築のほかに、無線LANソリューションやリモートアクセスソリューションの展開がこれからの大きな商機になるといえそうだ。ネットワーク関連の本格需要は、今年後半から2012年前半にかけて浮上するとみられる。
大塚商会ゲートウェイプロモーション課の矮松浩課長は、「スマートフォンの普及によって、リモートアクセスができるネットワーク環境がブームになって、これまで消極的だった企業の意識が変わってきている。スマートフォンを導入せずに、ノートパソコンだけを使う企業に対しても、スマートフォンのおかげで、リモートアクセスソリューションの提案がしやすくなるだろう」と、間接的なビジネスチャンスを語る。
次ページからは、セキュリティ分野とネットワーク分野に焦点を当てながら、各社の取り組みを追う。
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