スマートフォンをはじめとする新型端末の普及や、学校での無線ネットワーク構築の進行が、法人向け無線LAN機器の市場に刺激を与えている。2013年までに、マーケットは緩やかながらも右肩上がりで推移することが見込まれている。メーカーは、需要の拡大を受け、新しい技術の開発や有力販売パートナーとの提携を図っており、ターゲット分野の拡大に向けた取り組みを加速化している。法人向け無線LAN機器市場を俯瞰する。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「市場」を読む
集中管理ができるコントローラが有望商材に
法人向けの無線LAN機器市場は、主に、端末同士をつなぐ電波中継機のアクセスポイントと、複数のアクセスポイントを管理してクライアント端末に最適な無線LAN環境を提供するコントローラの二つの製品で構成されている。調査会社IDC Japanによると、この市場は2010年、130億2500万円の規模に達している。今後、スマートフォンやタブレットなど、無線LANに対応するクライアント端末の法人利用が増えることが追い風となって、2013年までに緩やかな右肩上がりで推移していく見込みだ。ピーク時の2013年の売上高を、IDC Japanは140億円弱と予測している。今後、法人向け無線LAN機器市場の有望な商材となりそうなのが、多数のアクセスポイントを集中管理することができるコントローラだ。コントローラは、売上金額ベースでの推移は微増だが、アクセスポイントの管理が容易になるということを訴求ポイントに、アクセスポイントの販売を後押しする商材としてポテンシャルをもっている。
国内企業向け無線LAN機器市場の予測
(エンドユーザー売上額)
figure 2 「背景」を読む
新型端末の導入を機に社内無線LANを構築
法人向けの無線LAN機器市場は、2007年以降、販売が大きく落ち込んだ時期があった。2010年を境として、改めてプラス成長に転じた背景には、スマートフォンやタブレットといった新型端末の法人利用の増大がある。IDC Japanによれば2011年、ビジネス用モバイル端末としてのスマートフォンの利用が本格的に始まり、2015年までにスマートフォンのビジネスユーザー数が、従来型携帯電話のそれの半分以上に拡大する見通しだ。IDC Japanは、2015年のスマートフォン法人加入者は554万人に達するとみている。
スマートフォンをはじめとする新型端末は無線LANに対応しており、新型端末の導入をきっかけとして、社内無線LANの構築・強化を決断するユーザー企業が増えるものとみられる。新型端末の普及は、企業だけではなく、病院や学校といった分野においても進んでおり、無線LAN機器のニーズが高まる業界の幅が広がることになる。
国内ビジネスモバイル端末(法人向け)のタイプ別加入者数推移
figure 3 「プレーヤー」を読む
「モバイル」と「提携」で商機をつかむ
法人向けの無線LAN機器市場で、グローバル・国内ともに50%前後のトップシェアを誇るのは、米国大手メーカーのシスコシステムズだ。日本の市場では、シスコシステムズに続いて、メルー・ネットワークスやアルバネットワークス、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、さらに、中堅・中小企業(SMB)向け展開に強いアライドテレシスやバッファローなどが有力プレーヤーとなっている。
各社は技術の優位性を前面に押し出したり、大手システムインテグレータ(SIer)と連携したりするかたちで、事業の拡大に取り組んでいる。アルバネットワークスは、新型端末の普及が生み出す商機をつかむために、今年6月、モバイル端末から安全にアクセスができるネットワークを実現するアーキテクチャ「MOVE」を発表した。公衆無線LANサービスの拡充に注力している通信事業者と提携して展開する方針だ。また、メルー・ネットワークスは、ITホールディングスグループのSIerであるネオアクシスと提携し、法人向け無線LAN機器の販売と導入コンサルティング分野での共同ビジネス展開に踏み切った。同社は、ネオアクシスとの提携によって、病院や大学などの公共施設といった従来の得意領域に加え、一般企業の開拓を狙う。
法人向け無線LAN機器の主なメーカーと主力製品
figure 4 「チャンス」を読む
電子教科書の普及が無線LAN機器のニーズに直結
今、無線LAN機器ベンダーにとって大きなビジネスチャンスが生まれているのは、ICT(情報通信技術)環境の整備が進行中の学校である。
文部科学省は、学校現場での電子教科書の普及を積極的に推進しており、その一環として、学校内の無線ネットワーク構築を実現するための補助金制度を設けている。文部科学省は、学校内のどこからでも無線でネットワークにアクセスすることができるシステム構成を想定。そのシステムのなかで無線LAN機器が重要な役割を担っているので、無線LAN機器ベンダーの拡販につながる可能性は高い。
すでに、学校での需要拡大に確実な手応えを感じているベンダーがいる。文教市場に向けたビジネスを強みとするアライドテレシスは、「従来、アクセスポイント10台だった学校向け案件が、最近は、100台に増えた事例もある」(マーケティング本部第1プロダクトマーケティング部の盛永亮マネージャー)と、10倍にも及ぶ需要拡大の実情を語る。学校向けの無線LAN機器展開にあたって、価格を抑えた製品が受け入れられやすいので、低価格製品をポートフォリオにもつベンダーが有利な立場にあるといえる。
校内LANのシステム(イメージ)