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パートナーと伴走し、新たな価値を共創するネットワールド 企業独自のデータを取り込み課題を解決

2025/10/16 09:00

週刊BCN 2025年10月13日vol.2078掲載

<第4回>AIビジネスの立ち上げを支援

 「ChatGPT」の登場で生成AIへの注目が急速に高まってから約3年が経過し、企業の業務へのAI導入が本格化しつつある。ITディストリビューターのネットワールドでは、ユーザー企業のAI活用や、販売パートナーのAIビジネスを後押しするため、どのようなソリューションを商材として取りそろえ、展開していこうとしているのか。同社がAIの領域で特に注力する製品の紹介を交え、パートナーへの支援策を聞いた。

試験導入の段階から業務価値を求める段階へ

 「2025年は業務への生成AIの本格導入元年になる、と言われていたように、試験導入の段階から価値を求める段階へとシフトしつつあると感じている。今は、人が主体の業務にAIを導入して効率化する動きが中心だが、生成AIやAIエージェントの広がりに合わせて、今後は、AI主導で業務を再構築し、人がそれを監督していく方へとシフトしていくと思う」と、マーケティング本部ソリューションマーケティング部の竹上裕・部長は語る。
 
竹上 裕 部長

 AI向けのITインフラ製品としては、自社独自のAIモデルの開発や運用に取り組む企業向けに、米NVIDIA(エヌビディア)のGPU製品を提供しているのはもちろん、それらを搭載するワークステーションのラインアップも強化している。一方、GPU価格の高止まりがAIのコストを押し上げる要因となっていることから、新しい選択肢として25年2月に米Tenstorrent(テンストレント)のAI処理専用アクセラレーターの取り扱いを開始した。

 また、AIアプリケーションの開発・運用基盤では、「Amazon Web Services」「Microsoft Azure」などのクラウドサービスで提供される環境や、「watsonx.ai」「DataRobot」「neoAI」などの製品の提供に注力している。

 さらに竹上部長は、「製品ラインアップの拡充を図ることはもちろんだが、販売パートナーがユーザー企業へのAI導入を推進するにあたって、どのような支援ができるかを検討し、技術トレーニングも含めて、メーカーとも協力しながらサポート面の拡充も進めている」と強調する。
 
若松大介 係長

 また、マーケティング本部ソリューションマーケティング部システムソリューション課の若松大介・係長は「ChatGPTやGeminiといったパブリックサービスをそのまま使うだけでは、各企業の固有情報や業務の事情までは踏み込めず、回答が一般的な内容にとどまることが多い。そのため『自分たちの状況には当てはまらない』と感じられ、AIへの期待が幻滅に変わってしまう場合がある。そこで当社は、ユーザー企業が自社のデータを取り込み、独自のAIを構築・活用できるよう支援することで、日本独自の課題解決に結び付くソリューションを提供している」と説明する。

機能拡張として組み込むビジネスAIプラットフォーム「watsonx.ai」、日本発RAGソリューション「neoAI」

 それでは、AIビジネスを展開し、日本独自の課題解決に結び付けていくため、ネットワールドが注力している主な製品を紹介していこう。

 米IBMのwatsonx.aiは、AI開発機能を集めた製品だ。ネットワールドは、IBMと長年にわたってソフトウェアビジネスで協業しており、「watson」ビジネスを推進してきた。

 「ChatGPTやGeminiなどの大規模言語モデル(Large Language Model = LLM)サービスにテック大手が多額の投資を行っているが、最近のIBMは、自社のLLMである『Granite』をオープンソースとして開発し、いかにユーザーの利便性を高められるかに注力している点を特徴としている」と若松係長は強調する。大規模なLLMは非常に高性能で期待する回答を生成できる一方、API利用時にはコストが高くなるケースが多く、さらに提供形態がSaaSに限定される場合は自社ガバナンスを徹底できないといったセキュリティリスクもある。これに対し、IBMのGraniteはオープンソースで公開されており、利用企業はモデルを直接検証・改変できるだけでなく、他システムやモジュールとの組み合わせ、あるいは用途に応じたチューニングも可能である。

 watsonx.aiは、パッケージ開発や自社サービスの展開を図るISVなどの事業者が、自社製品の機能拡張として生成AIを組み込むといった活用が多いという。IBMはオンプレミス型のLLMとして利用できるサービスも提供しているので、データを外部に出さずに開発したいというニーズにも対応できる。ネットワールドでは、こうしたニーズに向けて、IBMと共にPoV(価値実証)から、リリースまでの支援を行っている。

 そしてもうひとつ、ネットワールドが注力するRAG(Retrieval-Augmented Generation= 検索拡張生成)ソリューションがneoAIである。

 neoAIは、ChatGPTなどのLLMを基盤としながら、自社データを組み合わせて活用することで、企業が独自の生成AIアプリケーションを効率的に開発・運用できるようにする仕組みである。「東京大学松尾研究室メンバーが開発したアルゴリズムが強みで、ChatGPTを初期から研究し、日本語で活用できるよう取り組んできた。実際、当社も社内情報の活用にneoAIを活用して、営業部門が営業活動をする際の決済のルールや、多数取り扱う製品の情報確認などに活用し、成果を挙げている」と若松係長は話す。

幅広いニーズに対応するMicrosoft 365 Copilot
Webセミナー、ワークショップ実施でノウハウを普及

 中堅・中小企業にもなじみのある米Microsoft(マイクロソフト)の「Microsoft 365 Copilot」については、ネットワールドでは24年春に提供を開始している。「今、ニーズとして多いのはオフィスアプリを効率的に利用するための活用。そのためユーザー企業に出向き、実際の活用方法を紹介している」とマーケティング本部クラウド推進部クラウドビジネス課の中西綾望氏は説明する。
 
中西綾望氏

 導入にあたり課題となっているのはデータを蓄積する部分で、「Microsoft 365」をまだ利用していないユーザーもいるという。

 「まずは、『Office』などのデータをOneDrive、SharePoint等のクラウド上に保存する必要があると説明し、Microsoft 365導入のきっかけとしている。パートナーの方々も、オンプレミスの環境をクラウドシフトする案件につながるため、双方にとってWin-Winとなる。Microsoft 365 Copilot活用によりOfficeアプリケーションにおいて効率化できる部分は多く、規模を問わず、中堅・中小企業の方々に幅広いニーズがある」(中西氏)。

 ネットワールドでは、Microsoft 365 Copilotの最新情報や使い方に関するWebセミナーを数多く開催しているほか、パートナーだけでなくエンドユーザーも参加できるワークショップも、要望に合わせて個別開催している。特にパートナーに向けては、プロンプトの入力方法、ユーザーにどのように提案すべきかといったノウハウを含めて伝えている。

専門家以上の結果を出すデータ分析の「DataRobot」

 DataRobotは、AIと機械学習の力をすべての人に届けることで、企業の意思決定を革新するプラットフォームだ。これまで専門的な知識を持つデータサイエンティストだけが扱っていた高度な分析や予測モデルを、業務部門の担当者やビジネスリーダーでも簡単に活用できるようにしたことで、“データの民主化”を加速させた。以前であれば、「R」や「Python」でモデルを作成し、分析して、結果を報告する流れだった。DataRobotを利用すると、統計学のアルゴリズムを最適なロジックで決定し、そこから導き出せる結果が自動で取得できるようになる。

 「基本的な統計学の知識は必要だが、DataRobotを利用すると、プログラミングや最適な計算式の選択の手間をかけなくても、精度の高い分析が可能になる」(若松係長)。

 従来、ユーザーの多くは大手企業だったが、少人数から使用できるSMBライセンスが開始したことをきっかけに、ネットワールドは取り扱いを開始した。若松係長は「部門や部署単位の利用をはじめ、地方自治体での社会課題の解決、住民サービスの改善などに向けた活用などが考えられる」と述べる。

 DataRobotは生成AI機能の開発に力を入れており、今後は統計学の知識がないユーザーでも利用できるようになっていく。ネットワールドではユーザーに向けたワークショップの展開や、メーカー側でも基礎教育を実施するアカデミーのカリキュラムを拡充しているので、そこへの参加をパートナー、エンドユーザーに向けて支援していく方針だ。

エヌビディアのGPUを代替 低コストの「Tenstorrent」

 上記に紹介してきた各製品と共に、ネットワールドが強みとするのがコスト効率の高いAIインフラの提供だ。「AIをどのように快適に稼働させるのかという点で、一つの回答になるのがTenstorrentだ」と、技術本部クラウド基盤技術部3課の海野航・係長は強調する。
 
海野 航 係長

 Tenstorrentは、エヌビディア製GPUの代わりとなる製品で、価格や納期の面で課題のあるエヌビディア製品と比べて、圧倒的に低コストでいち早く利用ができる点がメリットだ。日本での取り扱いがスタートしたばかりなこともあり、現在は大学などの研究機関からの問い合わせが多い。AI開発者の間で「どれほど使えるのかテストしてみたい」という関心が急速に高まっているようだ。

 「拡張ボード、または搭載ワークステーションの形態で提供している。本格的なニーズに向けてはサーバーアプライアンスとしても提供できるので、さまざまなニーズに対応できる」(海野係長)という。

 「Tenstorrentでは月1回のペースで、テックトークというイベントをオンラインも含め開催しているが、エンジニアを中心に毎回100人単位の参加者があるなど関心が高く、これから利用拡大に向けた環境も整備されていくと考えている。当社でも、これから運用トレーニングや構築サービスを提供すべく準備を進めているので、期待してほしい」と海野係長はアピールする。

 最後に、竹上部長は「Networld Wiz 2025」へのメッセージとして、「最新情報に触れてもらい、体感してほしい。AIビジネスはさまざまなかたちがある。当社は、技術支援、検証支援、トレーニングを含めてパートナーの方々をしっかりサポートしていく」と語り、Copilotのような導入ハードルの低いサービスから本格的な独自モデルの開発まで、AIビジネスの入り口を幅広く支援していく姿勢を示した。

 
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ネットワールド=https://www.networld.co.jp