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日本HP×エフタイム対談 オンデバイスAI時代の新しい働き方にAI PCが必要なワケとは?

2025/10/31 09:00

 Windows 10のサポートが終了した現在、日本HPと主要代理店であるエフタイムは、次世代AI PCの拡販を柱とする戦略を立て、今後の安定的な収益確保を目指している。ただし、AI PCは現時点でハイスペックなパソコンという認識にとどまっており、真の価値が十分に伝わっていない一面もある。そのため顧客に真価を理解してもらうには、具体的な活用シーンや業務上の課題をどう解決できるかを示すことが不可欠である。そこで、日本HP パートナー営業統括第三営業本部第一営業部の山田梨花部長と、エフタイムの辻一成社長に、AI PC市場開拓に向けた両社の取り組みについて聞いた。
 
 

HP製品に特化した専門性とサポート体制で市場を切り開く

――エフタイムは創立30周年を迎えました。まず、これまでの歩みを振り返っていただけますか。

 当社は1995年、オムロングループから分離独立し、わずか6人の「日本で一番小さな日本ヒューレット・パッカード(当時)の販売特約店」としてスタートしました。何よりクイックレスポンス、誠実さをモットーにお客様第一を徹底した結果、日本HPのパートナープログラムにおける上位メンバーシップである「Powerパートナー」として創立30周年を迎えることができました。

 この成長軌道を描けたのは、当社がユニークな立ち位置でビジネスを展開してきたことが大きいと思います。販売特約店ではあるもののエンドユーザー様に直接販売せず、パートナー様との協業によって製品をお届けしています。一般的なディストリビューターとも異なり、PCに関してはHP製品に特化しています。ゆえに高い専門性を持ち、そして圧倒的に速いスピードで提供できることが当社の最大の強みです。
 

――この節目の年に、HP製品の売上が過去最大になったと伺いました。その要因について、どのように分析していますか。

 まず、HPの製品力が挙げられます。特にこの10年、HPが日本企業のニーズを取り込んだ製品ラインアップを充実させたことが、当社の成長を後押ししています。当社も製品力を評価しており、価格面での競争力も高まったことで提案の幅が広がっています。

山田 エフタイムの営業担当者様が、新しい製品はもちろん、サービスや高付加価値の製品についても精通しており、PC本体と一緒にご提案いただいていることも売り上げ拡大の要因になっていると思います。

 そのうえで、2025年10月14日のWindows 10サポート終了を前にした買い替え特需という大きな追い風を、エフタイム様はしっかりと捉え、規模によらず多くの案件を受注されました。

 評価していただき、ありがとうございます。しかし、そろそろ特需は終了するでしょう。そこで当社としては「日本企業のDX推進の一翼を担う」という使命感のもと、お客様目線で次の市場を切り開いていく考えです。具体的には日本HP様とともに「次世代AI PC」の訴求に力を注ぐ構えです。
 
エフタイム
辻 一成
社長
 
日本HP
山田梨花
部長

AI PCを「ハイスペックPC」から「価値あるツール」へ

――次世代AI PC市場の現状を教えてください。

山田 40TOPS(プロセッサーが実行できる演算回数を表す指標)を超える高性能NPU(Neural Processing Unit)を搭載した「次世代AI PC」は、本格展開が今年に入ってからということもあり、売上への貢献がこれから本格化してくると考えております。 

 メーカー各社は盛んに訴求していますが、現時点でお客様目線では単なる“ハイスペックなパソコン“という位置付けにとどまっており、AI PCを活用して新たな価値を生み出すまでには至っていません。これは私たちだけでなく、メーカーやディストリビューター業界全体の課題でしょう。

 お客様にAI PCの価値を享受していただくには、具体的な活用方法や課題解決への有効性を示していく必要があります。それをきっかけに真価を引き出すことができれば、現在は高価だと思われているAI PCですが、むしろ安いと感じられるようになるはずです。

――どのような活用方法を示そうと考えていますか。

 大きく二つの方向性があります。まずは、“AI”と聞いて肩肘を張る必要はなく、日常的に行っている業務の中で意識することなく恩恵を受けられるという事実を浸透させたいですね。例えばコラボレーション製品がNPUに対応していれば、文字起こしや議事録作成、背景ぼかし、ノイズキャンセルといった機能が、CPUやGPU、ネットワークの負荷を高めず高速に利用できます。同時に消費電力も抑えられるため、これまでのようにバッテリーの減りに神経を使うことがなくなります。

 そして、AIを意識した活用方法を示すことも重要です。特にお客様が関心を寄せるのは、業務をAIで代替し、自動化できるかどうかでしょう。例えば、ノーコードツールで開発したワークフローにAIが統合されれば、もっとAI PCの導入に前向きになるはずです。

 それにはアプリケーションベンダーの対応が必要ですが、当社はそれを黙って待っているわけではありません。マイクロソフトとの協業により、すでにAI PCに対応済みのアプリケーションを活用して、どのような付加価値が得られるのかを研究中です。

――次世代AI PC市場の開拓について、山田部長はどう考えていますか。

山田 PCメーカーの立場でも辻様がおっしゃるように、お客様目線での価値を示すことが重要です。

 現在、多くの生成AIがクラウドで動作していますが、当社の調査によれば、経営層は特に機密情報の外部流出リスクやクラウドサービスのコスト増に課題を感じています。また、応答速度の面でも、クラウドに問い合わせてから回答が返ってくるまでのタイムラグは、業務効率に直接影響します。

 現在のAI処理はクラウドで実行されることがほとんどですが、今後は手元のAI PC内で処理を実行する、いわゆる「オンデバイスAI」へとシフトしていくことが予想されます。

 次世代AI PCのフラグシップである「HP EliteBook X G1i  14 AI PC」は、すでにこうしたニーズに応える製品であり、当社としても期待しています。

高性能NPUで実現するパフォーマンスとセキュリティー強化

――HP EliteBook X G1i  14 AI PCの特徴を教えてください。

山田 次世代AI PC (Copilot+ PC)と呼べる要件はいくつかありますが、最も根源的なものがNPUの性能で、40TOPS以上の実行性能を有している必要があります。HP EliteBook X G1i 14 AI PCが搭載するインテル® Core™ Ultra プロセッサー(シリーズ2)は、最大48TOPSの性能を誇るNPUを搭載しており、AI処理の際には、NPUを中心にCPU・GPUを含めてバランスよく演算が振り分けられています。次世代アーキテクチャーによるパフォーマンス向上はもちろん、長時間バッテリーを実現していることもこのプロセッサーが秀でているポイントです。

 そしてこの高性能なNPUによって、独自機能を実現しています。まず生産性向上の観点では、「HP AI Companion」というAIアシスタントを搭載しています。例えば、AIとコミュニケーションをとりながらWebコンテンツの膨大な情報を素早く探索したり、機密性の高いPC内のファイルをインターネットに接続せずに分析したりできます。

 また、AIタスクのパフォーマンスと電力の最適化を実現する「HP Smart Sense」で、AIがPCのワークフローとシステムをより効率的に予測し、生産性とバッテリー寿命を向上させます。

 Webミーティングでは、さまざまなコラボレーションアプリが利用されていますが、「Poly Camera Pro」によって、アプリを問わず音声とAIビデオ体験が向上します。自動フレーミングや背景ぼかしをはじめとする画像補正にAIを活用することで、バッテリー消耗も抑えられます。

 個人的にもHP EliteBook X G1i 14 AI PCを使って日常的にWebミーティングを行っていますが、特に従来機種との違いを実感するのがバッテリー駆動時間の長さですね。実際、Web会議を複数回行っても、1日十分に利用できるほどの余裕があります。外出先で作業をする場合、以前までは電源が使える場所を探す必要がありましたが、今では心配せずに仕事ができるようになりました。

――AIの実行環境がクラウドからノートPCに移ることによるリスクも考えられますが、対策が講じられているのでしょうか。

山田 当社が業界に先駆けて提供してきた「HP Wolf Security」と呼ぶ包括的なエンドポイントセキュリティーの各種機能についても、NPUのサポートによって進化しています。

 例えば、マルウェア対策ソリューションの「HP Sure Sense」ではディープラーニングAIを利用しており、AI PCでは検知速度が向上します。また、内蔵型プライバシースクリーン機能の「HP Sure View」は、カメラ映像を分析して覗き込まれていることを感知すると、自動的に動作するようになりました。

一方で、基本性能についても、PC内でのAI活用に十分な設計となっており、32GB LPDDR5xメモリー、512GB SSD(PCIe NVMe)を標準搭載しています。当然、重要なデータを保存することになるため、衝撃などでのデータ消失への対策も不可欠です。その点、HP EliteBook X G1iは、米軍の調達基準である「MIL-STD 810H」テストにより堅牢性を確認しています。また、紛失時には漏えいを防ぐ必要がありますが、電源オフでもオフラインでも遠隔からロックやデータ消去を実行できる「HP Protect and Trace with Wolf Connect」が利用できます。
 

AI PCを軸に統合的なアプローチで市場定着を目指す

――AI PCを重点的に訴求したい業界はありますか。

 一つは医療業界で、医療系に強い販売店様とのパートナーシップを強化しています。医療現場ではAI活用の期待が高い一方で、病歴など機密性の高い個人情報を扱うため、ローカルAIの強いニーズがあります。業界で利用されているソフトウェアのAI対応が進むにつれて、AI PCへの入れ替えが進むと考えています。

 また、デジタルサイネージや組み込みPC用途などで安定的に長期稼働させるロングライフPCの需要に対して、アプローチを強めたいところです。

――AI PCの定着に向けた活動を続けながら、並行してWindows 10のサポート終了特需後の落ち込みを軽減する取り組みも必要かと思います。

 PCだけでなく、周辺機器も合わせた提案力を強化しているところです。特に、HPが買収したPolyの製品展開には大きな期待を寄せており、展示会ではPCよりもPoly製品を多く展示するようにしています。Polyブランドはまだ十分に知られていませんが、実際に手に取って音質を体感していただくと、性能の高さに驚かれることが多いですね。

山田 ラインアップの一つである「Poly Voyagerシリーズ」は、周囲のノイズを強力にカットする高性能なヘッドセットで、コールセンターやリモートワークの現場で高い評価を得ています。会議室向けのスピーカーフォンやカメラなど、幅広い製品ラインアップを展開しており、パートナー様にとって、Poly製品は大きなビジネスチャンスになるはずです。

 セキュリティー対策強化が求められる中で、「HP Workforce Experience Platform(WXP)」という、端末管理の新しいソフトウェアに注目しています。マルチベンダー対応なので、HP製品以外のPCも利用している企業に対して提案しやすい製品です。現在、社内にタスクチームを編成し、どのように市場展開すれば効果的かを研究しています。

――最後に、今後の市場開拓への意気込みをお聞かせください。

山田 AI PCをはじめとする当社の高付加価値製品について、特にHPの強みであるセキュリティ面、堅牢性、管理面などをエフタイム様とともに訴求し、日本のPC市場を開拓していきます。そこで欠かせないのが販売パートナー様の力です。エフタイム様と一丸となってご支援させていただきますので、関心を寄せていただけましたら、ぜひお問い合わせください。

 当社のHPソリューションの売り上げは当初の目標を大きく上回るスピードで拡大しており、信頼できる先進的な製品を生み出してきた日本HP様となら、さらに高みを目指せると確信しています。

 ただ、単に売り上げ規模を追求するだけでは、50周年、100周年を迎えることはできないでしょう。パートナー様およびエンドユーザー様にご満足いただき、長期的な信頼関係を構築することが大切だと考えています。
 
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外部リンク

日本HP=https://www.hp.com/jp-ja/home.html

エフタイム=https://www.ftime.co.jp/