双日グループに属するICT(情報通信技術)ベンダーの日商エレクトロニクス(日商エレ、瓦谷晋一社長)は、グループ会社であるさくらインターネットが2011年11月、北海道石狩市に開設した「石狩データセンター(DC)」の一部の販売を、自社ビジネスとして手がける。これは、グループ会社間の相乗効果を図り、日商エレが今年10月に開始したばかりのDC事業の拡大を目指した取り組みであると同時に、最大4000ラックを構築可能という巨大な石狩DCのスペースを早期に埋めることを狙った取り組みでもある。(ゼンフ ミシャ)
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日商エレクトロニクス 瓦谷晋一社長 |
日商エレの瓦谷晋一社長は、本紙に対し、石狩DCの販売活動にあたって、自社が重要なプレーヤーになると表明した。
石狩DCは、1棟あたり最大500ラックまで収納できる分棟式の建物を、最大8棟建てることができる巨大DC。11月15日には、第一弾として、2棟分が完成した。瓦谷社長は、「この2棟分に入れる合計1000ラックをいかに迅速に埋めることができるかが、今、双日グループで大きな課題になっている」と語る。
その状況にあって、双日グループは、さくらインターネットが建築に約32億円を投じた石狩DCの販売を加速させるために、「われわれ(日商エレ)が、およそ500ラックを自社のDC事業として販売する」(瓦谷社長)ことを決断した。要するに、さくらインターネットが石狩DCを単独で販売するのではなく、日商エレと緊密に連携するかたちで、第一弾となる1000ラックを埋めるという戦略を採っているわけだ。
双日本体は、クラウドコンピューティングの普及や東日本大震災によるBCP(事業継続計画)の需要拡大といったトレンドを受け、今年後半から、双日のグループ会社間の相乗効果を図ることによって、グループ全体としてのDC事業の拡大に向けた基盤づくりに体系的に取り組んできた。
まず10月に、さくらインターネットの石狩DCの開設時期に合わせたタイミングで、日商エレがDCの自社運用/DCサービスの提供に参入。日商エレは現段階で、大阪・堂島にあるDCを利用してサービスを提供しているが、将来、石狩DCを自社DCサービスの拡大に活用することを前提として、DC事業参入の計画を進めてきた。
さらに、石狩DCを事業のベースとするさくらインターネットと日商エレのバックヤードでは、DC運用に豊富な経験をもっているシステムインテグレータ(SIer)の双日システムズが2社を支援する準備を整えている。双日システムズは、今後、「B2C」展開に注力しているさくらインターネットに向けて、中堅規模以上の企業に向けた営業活動を支援し、ターゲットの拡大を支える。それに加えて、DC運用に参入してまだ日が浅い日商エレに向けて、DC運用の技術サポートを提供する。双日システムズは、最前線には出ないものの、バックヤードから石狩DCの販売活動を積極的に支援する構えだ。
さくらインターネットと日商エレは、第一弾となる石狩DCの2棟分の1000ラックを販売するために、それぞれ異なる重点ターゲットを狙い、そのターゲットに合わせて個別の販売・課金モデルを採用する。さくらインターネットは、主に小規模ビジネス用のサービス提供に的を絞って、低価格の月額課金制度を前面に押し出す。一方、日商エレは、従業員数1000人以上の大手企業を主要ターゲットに据えて、契約方式を採り、SIを含めたプライベートクラウドの構築サービスを提供する方針だ。
さくらインターネットが石狩DCの建築に投資した約32億円は、同社の2011年3月期の売上高(約86億円)の40%弱となる。それほどの挑戦的な投資である。さくらインターネットの田中邦裕社長は、「当社にとっては非常に巨大な投資だが、今後を考えれば、一気に増設可能な大規模なDCは欠かせなかった」としている。双日グループ内での緊密連携を図り、早期に石狩DCを埋めることに挑んでいく。

まだ空きが目立つ石狩DC(11月15日開所時)。双日グループは、第一弾となる2棟分の1000ラックを迅速に埋めるために、急ピッチでグループ会社間の連携を強化している
表層深層
さくらインターネットの石狩DCは、さまざまな意味でユニークだ。日本の多くのDCは、土地価格が非常に高い首都圏に集中している。そのため、DCの運用側と利用側の両方が高いコスト負担を余儀なくされるというデメリットがある。それに対して、北海道の広い土地を生かした石狩DCは、「大規模」と「郊外型」と「低コスト」をキーワードに掲げ、ユーザー企業にこれまでとはひと味違うDCの活用スタイルを提案している。
また、ラックの販売体制においても、石狩DCは特色をみせている。石狩DC建築の指揮を執って、巨額の投資を担っているのはさくらインターネット。だが、販売は、さくらインターネットが単体で行うのではなく、グループ会社の日商エレも販売活動の重要プレーヤーになる。これが、双日グループが練った石狩DCの販売戦略のキーポイントだ。
双日グループの戦略は、さくらインターネットと日商エレが一体になって、石狩DCのラックを迅速に埋めるためのものにとどまらない。ネットワーク機器の販売を中心とした日商エレの従来型ビジネスが縮小しつつあるなかで、DCビジネスは同社にとって、有望な新規事業となるわけだ。
DC市場は、規模が大きくなるにつれて、事業者間の競争が激しさを増している。DC事業者にとって、単にラックを売るだけでなく、いかに収益を確保するかが喫緊の課題だ。そんななか、グループ会社間の相乗効果を図った石狩DCの販売戦略は、一つの成功モデルになる可能性を十分に秘めている。