情報サービス市場は、再編の荒波に揉まれている。再編の結果、トップ集団である年商3000億円規模のSIerの数が増え、さらに次の再編への連鎖の可能性が高まっているのだ。国内市場の伸び悩みに加え、先行投資が重くのしかかるクラウドコンピューティング。また、ユーザー企業のアジア成長国への進出に対応するために、SIerは規模のメリットを追求する動きに拍車をかけている。(文/安藤章司)
figure 1 「分布図」を読む
脱「3000億円クラブ」の動きが活発化
SIerのトップグループは、年商1兆円超えのNTTデータを頂点に、年商3000億円規模、年商1000億~2000億円規模、中堅・中小SIerに大別することができる。とりわけ年商3000億円規模のSIerは、NTTデータに次ぐ二番手グループを形成していることから「年商3000億円クラブ」とも呼ばれる。年商3000億円クラブには、ここ1年余りで日立系SIer4社の再編によって誕生した日立ソリューションズと日立システムズ、旧住商情報システムと旧CSKが経営統合したSCSKが、新たに参画。だが一方で、年商4000億~1兆円の層が空白地帯のまま残っており、今後の業界再編によって年商3000億円クラブから頭一つ抜け出し、新たなトップグループを形成する可能性が高い。実際、日立ソリューションズと日立システムズを合わせて年商6000億円規模とみる向きもある。既存の3000億円プレーヤーのなかには三番手グループへの転落に甘んじようとしない動きもあることから、再編が次の再編を誘発する連鎖も予想される。
年商規模でみるSIerの分布図
figure 2 「国内市場」を読む
国内情報サービス市場は一進一退
右図で示したように、国内情報サービス市場は一進一退の状況にある。この国内市場の伸び悩みが、業界の再編圧力の大きな要因の一つになっている。限られた市場でより有利に受注を獲得するためには、ある程度の規模の大きさが求められる。さらに、クラウドコンピューティングをはじめとする「所有から利用へ」の動きによって、データセンター(DC)や共同利用型の業務アプリケーションソフト開発など、SIerによる先行投資の負担は増える一方だ。これに耐えられるだけの財務基盤を確保するという側面からみても、再編のメリットは大きい。SCSKも経営統合によるメリットを手に入れたケースだ。旧住商情報システムはクラウド/SaaSの基盤となるDC設備で他の大手SIerに比べて後れをとっていた感は否めなかった。だが、旧CSKが大規模なDCを多数保有していたことで、SCSKは首都圏と関西圏を合わせて10か所のDCを運営する国内有数のSIerへと変貌している。
情報サービス業売上高の前年同月比推移
figure 3 「日立グループの動き」を読む
パラダイムシフトが業界再編を後押し
情報サービス業の再編を後押しするもう一つの要因は、アジアの成長国を中心とするグローバル進出の必要性である。これは業界が直面する大きなパラダイムシフトであり、変化に適応するためには財務基盤をはじめとする体力強化が欠かせない。
パラダイムシフト対応では、日立系SIerの動きがわかりやすい。日立システムズは日立製作所と連携して、2012年11月、中国・大連にラック換算で約2000ラックを収容できる大型DCを地場有力SIerと組んで開業する準備を進めている。また、日立ソリューションズは、2013年をめどにに中国での拠点数を、現在の北京、上海、広州の3か所から15か所ほどに増やす方針を示している。DCや海外拠点は、いずれも先行投資を必要とするもので、4社を2社に再編し、相互連携を強めた規模のメリットを国内外で最大限に生かす。
中国では、大連創盛科技や広東華智科技といった地場有力SIerと協業することで、ビジネスを迅速に展開する枠組みをつくってきた。日本の情報サービス業界のトップグループに属していれば、少なくとも第三集団、第四集団のポジションにあるのに比べて、こうした有力外国企業との提携話も進めやすくなる。
日立ソリューションズと日立システムズの中国進出イメージ
figure 4 「中堅SIer」を読む
特定の業種・業務でライバル大手を凌駕
中堅SIerは、大手とは異なる方法で勝ち残りの道を探っている。アイティフォーは年商105億円(12年3月期見込み)の中堅SIerだが、並み居る大手を上回る高い粗利率を叩き出している。その原動力になっているのが、特定の業種・業務における強さである。例えば債権管理システムでは、全国でおよそ100社ある債権回収会社(サービサー)のうち、20社余りへの納入実績を誇る。サービサーで債権管理をシステム化しているのは約半数の50社ほどであることを勘案すれば、実質的なシェアは40%を超える。このほか、コールセンター向けのCTIシステムなどに強みをもっていることが高い粗利率を保持する要因として挙げられる。
岐阜に本社を置く電算システムは、収納代行サービスを展開し、不況に左右されにくい収益モデルを構築。また、年商215億円(12年3月期見込み)のコアは、強みとする組み込みソフトや資産管理システムの技術を応用することで、M2M(マシン・ツー・マシン)やDDM(ドキュメントデータ管理)分野に成長可能性を見出している。大手のような資本力、総合力での勝負は難しくとも、特定の業種・業務で他社を凌駕する強みを伸ばしていくことで、十分な成長につなげていくことが可能である。
SIerの粗利益率比較