企業向けの情報セキュリティ製品は、持続的に有望性が見込める商材だ。市場全体が順調に伸びており、新型端末向けのモバイルセキュリティなど、2ケタの成長を期待できる分野もある。日本の情報セキュリティ製品の流通では、SIerの役割が大きく、いくつかの点で米国の流通構造と異なっている。市場を俯瞰しながら、日本の情報セキュリティ市場の特性を浮き彫りにする。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「市場」を読む
持続する成長、新型端末が刺激剤に
法人向けの情報セキュリティ市場は、企業を狙ったサイバー攻撃が多様化/複雑化しているなかで、持続的な成長を見込むことができるマーケットである。調査会社のIDC Japanによると、ソフトウェアとアプライアンスで構成される国内情報セキュリティ市場は、2011年、2254億円の規模に達したとみられる。内訳は、ソフトウェアが1965億円、アプライアンスが289億円。2015年には、ソフトウェアが2357億円(年間平均成長率4.8%)に、アプライアンスが326億円(同2.2%)にそれぞれ拡大すると予測している。このところ、大企業や官庁を標的にしたサイバー攻撃が深刻な問題となっており、企業の間ではセキュリティ対策の強化への認識が高まっていることが、市場を活性化する要因となっている。また、スマートフォンやタブレットといった新型端末の法人利用が広がっており、それらの端末を安全に利用するためのニーズが顕在化している。セキュリティベンダーにとっては、新しい有望市場が拡大している状況だ。
国内情報セキュリティ製品市場のセグメント別売上予測
figure 2 「プレーヤー」を読む
ひしめく外資系、SIerとの連携を緊密に
法人向け情報セキュリティ製品には、アンチウイルス対策をはじめとして、情報漏えい防止や認証管理など、さまざまな種類がある。アンチウイルスに強い情報セキュリティの主要メーカーは、米シマンテックや米マカフィー、ロシアのKaspersky Labなど、大手の外資系プレーヤーがひしめいている。国内メーカーで最も高いシェアを獲得しているのは、東京に本社を置き、幹部の重要ポストに台湾人を配置するなど、台湾と太いパイプをもっているトレンドマイクロだ。日本で事業展開している情報セキュリティの外資系メーカーは、欧米に本社を構える企業に加え、ロシアのDoctor Web Pacificやフィンランドのエフセキュア、韓国のアンラボなど、東欧・アジアから日本に進出した企業も多い。法人向け情報セキュリティのメーカー各社は、システムインテグレータ(SIer)を中心とした販売会社と緊密に連携するかたちで、セキュリティ製品をエンドユーザーの企業に提供している。
法人向けアンチウイルス製品の主要ベンダー
figure 3 「特性」を読む
日本ではSIer経由がメイン、米国は流通がシンプル
日本の情報セキュリティ産業の流通構造は、大手外資系メーカーが本拠を置く米国とは大きく異なる特性をもっている。日本では、セキュリティメーカーがソフトバンクBBやダイワボウ情報システムといった流通事業者を通じて、製品をSIerに提供する。次いで、SIerは製品にインテグレーションを加えるかたちで、セキュリティ製品をユーザー企業に提供するというのが通常の流通パターンである。
情報セキュリティ産業について国際比較の調査報告を公開している独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、「日本はSIerの役割が大きく、サービスの提供でもSIが重要な役割を担う」としている。
一方、米国では、IBMやHPといった大手のメーカー系SIerがセキュリティの流通に関わることはあるものの、SIerの役割は日本ほど大きくない。米国では、メーカーとユーザー企業の間の取引を仲介する「セールスレップ(Sales Representative=営業代行業者)」がいて、セキュリティ製品の流通の主な担い手となっている。また、日本のように、メーカーとSIerやセールスレップの間に流通業者が入ることはなく、流通の役割構造は日本よりもシンプルだ。
日本の情報セキュリティ市場の役割構造
figure 4 「商機」を読む
平均伸び率は32.2%、コンテンツ/脅威管理が有望株
新型のモバイル端末の法人利用が普及しつつある状況は、情報セキュリティに新たなビジネスチャンスをもたらしている。企業でのモバイル端末の活用が増えていくにつれ、それらを攻撃対象とするハッカー侵入やマルウェアは急激に拡大する。ユーザー企業は、モバイル端末をウイルス感染や不正侵入から保護し、コンプライアンス違反や経営への悪影響を防ぐために、パソコンと同等のセキュリティ対策を必要としている。多くのセキュリティメーカーは、新たな商機をつかもうとして、ここ1年、アクセス管理やコンテンツ管理など、モバイル端末に対応したあらゆるセキュリティ製品を投入している。
モバイルセキュリティの市場は、規模こそまだ小さいものの、高い伸び率を記録している。コンテンツ/脅威管理の製品が高い割合を占める2010年のモバイルセキュリティ市場の規模は23億円(IDC Japan調べ)である。まだ情報セキュリティ市場全体のうちの約1%に過ぎないが、2015年までに32.2%の年間平均成長率で伸び、93億円に拡大することが見込まれている(IDC Japan調べ)。モバイルセキュリティは、新型端末の法人利用に伴う社内コンプライアンスの維持といったニーズに後押しされ、市場規模が大きくなるのは確実だ。
国内モバイルセキュリティ市場のセグメント別売上予測