中国のネットサービスが勢いよく伸びている。ソーシャルサービスのミニブログ(微博)のユーザー数はすでに2億人を大きく上回り、その母数となるネットユーザーは5億人を超えた。モバイルインターネットのユーザーも、およそ3億5500万人に達している。中国政府は、海外ネットサービスの国内での利用を一部で制限しながら、一方で独自のネットサービスの育成に注力し、ネット産業の発展に向けた施策を強力に推し進めている。(文/安藤章司)
figure 1 「市場規模」を読む
自国のネット産業育成に熱意
中国のネットビジネスをみるうえで見逃せないのは、巨大な人口とユーザー数の多さである。CNNIC(中国互連網絡信息中心)の統計によれば、2011年12月までに、ネットユーザーは日本の人口数をはるかに超えて、前年比12.2%増の5億1300万人に達している。それでも、総人口をベースとしたネット普及率は、前年比4ポイント増の38.3%に過ぎない。少なく見積もっても、あと数億人分の伸びしろがある。
巨大なネット空間が拡大しつつある中国だが、一方では、成熟した国々とは違う側面も垣間見ることができる。まず第一に挙げられるのが、FacebookやTwitter、Google、YouTubeといった世界メジャーのサービスの国内での利用が一部制限されていることだ。政治的な文脈で語られることが多い現象だが、ある日本のネット企業幹部は、「中国独自のネット産業を育成する狙いのほうがはるかに大きい」と、中国政府の自国ネット産業育成に向けた熱意を読み取っている。
インターネットユーザー数と普及率の推移
figure 2 「ソーシャルサービス」を読む
独自のソーシャルサービスが大きく成長
海外のネットサービスの利用に制限がかけられたことによって、中国では独自の検索サービスや動画投稿サービス、オークション、ソーシャルサービスが百花繚乱のごとく出現している。サービスの形態としては世界のネットビジネスと大きく変わるところはないものの、プレーヤーの顔ぶれやユーザー数の規模は大きく異なる。
例えば、ユーザー数を大きく増やしているソーシャルサービスのミニブログ(微博)をみると、中国でメジャーなのは新浪微博(シンランウェイボー)や、「QQ」と呼ばれるサービスで有名な騰訊微博(テンセントウェイボー)など。日本貿易振興機構(JETRO)の調べによれば、新浪のユーザー数は約2億人、騰訊は2億3000万人を超えている。中国の調査会社であるiResearchの調査結果をJETROで分析したところ、中国のミニブログのユーザー数は、2011年時点で約2.8億人、2014年には4億3000万人に達するとの予測される。
主要ミニブログ(微博)とTwitterのユーザー数
figure 3 「モバイル」を読む
スマート化がネットビジネス発展を促す
CNNICの調べによれば、ネットサービス利用端末の主要なポジションを占めつつあるモバイルインターネットのユーザーは、2011年12月までに3億5500万人規模にまで拡大。前年比17.5%増の勢いで伸び、すでに米国の人口を超える規模に成長している。2009年の98.5%増の勢いから比べると落ち着いてはきているものの、依然として高い成長率である。
CNNICが2012年1月に発表した「中国インターネット発展状況統計報告」では、09年当時は通信キャリアがユーザー獲得のための販促キャンペーンを打ったことがユーザーの爆発的な増加につながったと分析している。だが、直近では、AndroidやiPhoneなどスマートデバイスの拡充に力を注ぐ施策へ転換。より付加価値の高いアプリケーションサービスの振興を通して市場に普及させることを重視するようになった。つまり、ユーザーの数よりも、その“中身”を重視するようになったというわけだ。携帯電話ユーザー全体のなかで、ネットサービスを利用できるモバイルユーザーの比率は、まだ36.5%に過ぎない。ネット上の高度なアプリケーションサービスを利用できるようにするために、スマート化を推進することが、ソーシャルサービスやオークション、ネット通販などのネットサービスビジネスのさらなる発展を促すとみているのだ。
モバイルインターネットユーザー数の推移
figure 4 「検索サービス」を読む
Googleよりも百度有利の展開で推移
中国の検索サービスでも、独自サービスが強みをもつ。iResearchの調べによれば、2011年の中国検索サービス事業者の売上高ベースのシェアトップは百度(バイドゥ)で、前年比4.4ポイント増の76.1%に達する。二番手はGoogleで6ポイント減の19.8%と圧倒的に百度のシェアが大きい。Googleのサービスのうち中国で利用できるものは限られている。Googleにとっては不本意だろうが、百度有利の状況であることがうかがい知れる。
検索サービス事業者の売上高ベースの2011年の市場規模は、推計値だが、前年比70.2%増の187億8000万元(約2253億円)と大幅な伸びを示しそうだ。iResearchでは、今後、伸び率は徐々に落ち着いてくるものの、向こう数年は引き続き拡大基調で推移するとみており、2015年は912億元(1兆0944億円)にまで拡大すると予測している。
注目すべきは、中国が検索やソーシャルサービスで億人単位のユーザーが使うリアルタイム分散処理を行う技術力をもっているという点だ。某日系ITベンダーの幹部は、「近い将来、力を蓄えた中国ネットサービスが世界へ本格的に進出する」とみており、米国と中国のネットサービスベンダーが世界を舞台にシェア争奪戦を展開する可能性がある。
検索エンジン市場規模の推移