法人向けスマートフォンの市場が活況を呈している。出荷台数が今後5年間で大きく伸び、売上規模は3000億円近い水準に到達することが見込まれている。ITベンダーにとってのビジネスチャンスは、端末そのものだけでなく、ネットワークインフラや周辺サービスなどさまざまだ。スマートフォンの利用によってネットワークトラフィックが増大することで、ユーザー企業にとっては、そのトラフィックをどう処理するのかが課題となる。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「市場規模」を読む
今後5年間で580%の伸び、売上金額は2900億円に
2011年に、スマートフォン市場が大きな伸びをみせた。調査会社のIDC Japanは、個人向け・法人向け展開を合わせて、2011年のスマートフォンの出荷台数を2000万台とみている。内訳では、コンシューマ向けが大半を占めるが、企業での利用も着実に進んでいる。調査会社の富士キメラ総研は、2011年度(2011年4月~2012年3月)の法人向けスマートフォン市場を、台数で100万台、売上金額で520億円と予測する。台数の100万台をIDC Japanの市場全体の数字と照らし合わせれば、法人向け展開の割合はおよそ5%となる。今後5年の間には、法人向けスマートフォン市場は活発に伸びると見込まれる。富士キメラ総研は、2016年度までに法人向けの台数は580万台、売上金額は2900億円に拡大するとみて、台数・金額とも約560~580%の成長率を予測している。このところ、iPadに代表されるタブレットも法人利用が増大しているが、富士キメラ総研によれば、市場規模ではタブレットがスマートフォンの60~80%程度となっている。
法人向けスマートフォン市場の推移
figure 2 「導入の進捗」を読む
情報収集ニーズの高い業界で導入が盛ん
スマートフォンの法人利用が普及しているが、導入済・導入検討中という企業の割合をみると、業界によってかなりのバラつきがある。IDC Japanによれば、スマートフォンをすでに導入している企業が最も多いのは、情報へのアクセスにスピードを求められる証券、通信・メディア、情報サービスの三つの業界だ。続いて、保険や流通・小売、銀行などの業界で、スマートフォンを導入済の企業が比較的多い。一方、政府・地方自治体をはじめ、教育や医療・福祉といったセクターではスマートフォンの導入がほとんど進んでおらず、今後、導入を検討する比率も低水準にとどまっている。
スマートフォンをすでに導入している企業をみると、IDC Japanは、スマートフォン向けのクラウド型サービスを利用するケースが多いとみており、スマートフォンなどのモバイル端末を導入した企業の4割が、モバイルクラウドを利用しているという。
業界別にみるスマートフォンの導入状況
figure 3 「トラフィック」を読む
2015年、トラフィックは1800ぺタバイトに
法人向けスマートフォン市場の推移は、企業向けのネットワークインフラ市場の推移と緊密に絡んでいる。ビジネス用途のウェブアクセスに頻繁に利用されるスマートフォンが普及するにつれてネットワークトラフィックが増大し、大量トラフィックを処理するために、社内ネットワークを強化することが必要となるからだ。したがって、法人向けスマートフォン市場の伸び率をみれば、ルータをはじめとするネットワーク機器の需要拡大の傾向と市場規模をある程度推測することができる。
ネットワーク機器の大手メーカーであるシスコシステムズは、2015年にグローバルでのネットワークトラフィックの26.6%をスマートフォンが生成するという調査結果を発表している。それによると、2015年時点で、スマートフォンが生成する1か月あたりのトラフィック量は、およそ1800ぺタバイト(1ぺタバイト=1024テラバイト)に及ぶと見込まれている。同社は、1台のスマートフォンで従来型携帯電話の24台分のトラフィックが生成されるとして、2015年には、スマートフォンの普及率が高い日本ではトラフィック量が全世界の9.2%を占めるボリュームになるとみる。ちなみに、アジア太平洋地域は29.3%、西ヨーロッパは26.3%、北米は15.7%となると予測している。
グローバルのネットワークトラフィックでスマートフォンが占める割合
figure 4 「周辺ビジネス」を読む
運用・保守やアプリケーションにビジネスチャンス
法人向けスマートフォン市場が活性化すれば、その基盤となるネットワークインフラの市場も大きな刺激を受けることになる。さらに、スマートフォンのさまざまな「周辺ビジネス」が生まれてくるので、スマートフォンの法人利用の拡大は、ITベンダーに大きな商機をもたらすことにつながってくる。
法人向けスマートフォンの周辺ビジネスは、通信サービス、セキュリティ、ビジネス用途のアプリケーション、運用・保守サービスの四つに大別される。富士キメラ総研によれば、周辺事業の2011年度の市場規模は、通信サービスが1792億円と圧倒的に大きい。一方、向こう5年間の伸び率をみると、アプリケーション(825%)と運用・保守サービス(515%)が勢いよく成長することが見込まれている。
富士キメラ総研は、法人向けスマートフォンは、一度に数百~数千台規模で導入するケースが多いので、初期設定やセキュリティ設定を企業が自ら実施するには負担が大きく、設定作業を代行するサービスの需要が高まるともみる。また、営業用などに使うアプリケーションのニーズが拡大し、ビジネス用途のアプリケーションの導入が速いスピードで進んでいくと指摘する。
法人向けスマートフォンの周辺ビジネス