 | [岩手県]BCP関連事業で地域に貢献 |
ソフト開発やネットワークシステム構築を手がけるコンピューターシステムハウス(CSH)にとって、事業展開の重要地域は関東地区や西日本地区。薮内利明社長は「震災直後も通常通りビジネスを続け、順調に案件を受注することができた」という。同社は震災を受けて、新たにバックアップシステムを提供するなど、震災1年でBCP関連の案件が増加した。2011年度(11年12月期)の決算は前年度比で増収増益となっている。
福島県内の多くのITベンダーは、今、従来型の事業展開に加え、「BCP」や「地域復興への貢献」をキーワードに、クラウドを含めた新たなITの提供に動き出している。震災発生から1年、地元ユーザー企業の状況をみながら、新たなITの展開に向けた具体的なかたちを模索しているところだ。
アイシーエスは、日本経済団体連合会やコンピュータソフトウェア協会、情報サービス産業協会などの団体が共同で設立した東日本大震災ICT支援応援隊の現地支援機関として、被災者・被災地の復旧を支援してきた。事業強化という観点からは、同社やアイディーエスといった各ベンダーが、それぞれ独自に「BCP」「クラウド」の分野であたらなソリューション提供に乗り出している。
アイシーエスは、被災した自治体システムの冗長化支援を推進。松尾広二・取締役企画営業統括本部長は、「ハードウェアやソフトウェア、データ、通信を冗長化あるいは分散化し、止まらないシステムを構築する」と話す。アイディーエスは、震災をきっかけに、クラウドサービスの提供に本腰を入れている。日本ユニシスのクラウド基盤「U-Cloud」を利用し、クラウド環境で完全ウェブ型ERP「GRANDIT」を提供。内部統制強化やBCP対策といったニーズを取り込む。
震災には直接関係ないものの、岩手県下のIT産業の活性化に向けた地域の協調の動きはみられる。「いわて組込みシステムコンソーシアム」がそれだ。岩手県の組み込みシステム関連の主要な企業、教育機関、支援機関等が連携し、産業の拡大を目指している。

大きな被害を受けたJAおおふなと本店ビル
写真提供:大船渡市農業協同組合
 | [福島県]東北ニアショアで案件を獲得 |
受託開発中心の中小ソフトウェア開発ベンダーが多い福島県では、震災以降、県内の中小ベンダー間の連携を強化する動きが活発になった。複数ベンダーが組んで、首都圏などの案件獲得への動きが加速している。福島県のITベンダーは、大手ITベンダーのソフト開発の下請先が、急速に中国など単価の安い新興国へのオフショアにシフトするなかで、震災前からベンダー間連携で開発力の向上と生産性の効率化の必要性を痛感していた。その動きが、震災をきっかけに福島県の産業とIT産業の復興に向けた同業者間の連携を進める原動力になっている。
ベンダー間連携のキーワードは「東北ニアショア」だ。ニアショアとは、ソフト開発案件を、首都圏や大阪など、都市部より安価な開発コストですむ国内の地方ベンダーへ発注してもらい、地方のIT産業を活性化すること。
NCEは、震災後1年で、東京や大阪の大手メーカーから数件のニアショア開発の発注を受け、地元ソフトベンダー数社と協業して、あるメーカー向けのシステム構築を手がけた。昨年は、社内にニアショア開発専用のスペースを確保し、現在、NCEとパートナーのITベンダーの社員で構成する約30人のチームで、受注した案件を共同開発している。しかし、「このモデルでは、売り上げは増えるが、各ITベンダーへの外注費が高くついて、利益を確保するのが難しい」(NCEの飯泉和之社長)と、経営上の課題を解決するには至っていないという。
BCP需要に応える
そこでNCEは、ニアショア開発の利益率を上げることを目指し、行政機関の力を借りてITベンダー間の連携を系統立てて進めようと企画した。飯泉社長は今年3月上旬、「東北ニアショア構想」の計画書を福島県庁に提出。福島県のITベンダーが県の助成金を受けやすくしたり、公設の産業技術研究所である「福島県ハイテクプラザ」による技術サポートを提供したりするよう要望した。
NCEは、県内のシステムインテグレータ(SIer)が受注した案件を他の地場ITベンダーに発注する「取りまとめ会社」に助成金を出し、地場パートナーと一緒に開発する事業モデルを描いている(図参照)。それでも飯泉社長は、このモデルを実現するためには、各ITベンダーの技術スキルを一段上げる必要があり、「中小受託ソフトベンダーの今のスキルレベルでは、中国に勝てない」と、現実を直視する。震災前までは希薄だった地元連携が、震災を機に拡大しそうだ。
原発事故で避難したユーザー企業のサーバー移行を支援した福島情報処理センターは、事業継続計画(BCP)ソリューションの需要は引き続き高いとみて、年内をめどに自社DCをベースにしたハウジング事業を開始する計画だ。西方春三郎常務は、「今後、DCシステムのバックアップサービスの提供も考えている。西日本など、県外のDC事業者と提携する準備を進めている」と話す。県内ITベンダー同士の協業にとどまらず、被災地ITベンダーの復興に向けて、県境を越えたパートナーシップの重要性が増している。
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