 | [岩手県]庁舎全壊でデータ復旧案件が一挙増加 |
岩手県内の自治体システムを数多く手がけるアイシーエス。庁舎自体が被災した自治体システムの復旧に全力を注いだ。とくに被害が大きかった陸前高田市は、庁舎が全壊し、サーバー室が冠水した。IT機器類は壊滅状態で、ストレージなどに保存していたデータはほぼ喪失。陸前高田市は、アイシーエス内に残っていた11年2月末までの保管データを使い、震災から1週間程度で仮復旧に漕ぎ着けることができた。
また、陸前高田市や大槌町、山田町の病院は紙のカルテが流出し、診療報酬請求明細書(レセプト)も消失した。自治体とは異なり、震災前の2月分からのデータでは診療報酬請求ができない。そこでもアイシーエスは、被災したサーバーからハードディスクドライブ(HDD)などを回収し、システムとデータの復旧を果たしている。
震災後、被災した東北地区のITベンダーの間には、クラウドを利用したシステム提供への期待が高まっている。一方で、岩手県内ではクラウドに対する懸念の声が上がっている。アイシーエスの松尾広二・取締役企画営業統括本部長は、「クラウド化しても電気、通信網、専用線が切れたら終わり。災害に強いネットワークの確保が必須だ」と話す。
住民情報システムをクラウド化する方向で検討している沿岸部の釜石市も、アイシーエスの松尾本部長と同じ課題認識をもっている。自前のサーバーをオンプレミス(自治体内)で抱えたうえでクラウド化することが重要で、他のパブリックなクラウドだけを使うことには課題が多いようだ。
SaaS/クラウドが復旧を加速
一方、介護・福祉と医療向けシステムを開発・販売するワイズマンは、震災後の事業継続に向けたユーザー対応で、システム条件によって明確な差が出たという。同社の介護・福祉向けシステムは、パッケージソフトとASP/SaaS型を選択できるシステムとして、介護・福祉施設に高い支持を得ている。
ASP/SaaS型のサービスには、新日鉄ソリューションズのクラウド基盤「absonne(アブソンヌ)」を採用し、安定稼働を約束していた。ワイズマンの星野裕一・福祉事業本部福祉営業部販売促進課課長は、「クライアント・サーバー(C/S)型のシステムを導入しているユーザーは、機器類の破損が大きく、震災後は手をつけられない状態だった。一方、ASP/SaaS型のサービスのユーザーは、早期に運用を再開できた」と振り返る。震災後はASP/SaaSの問い合わせが増えているという。
 | [福島県]避難地区のシステムをDCで預かる |
福島県は、郡山市と福島市を中心とする中通り地区にITベンダーが集積している。中通りは海岸から遠いために津波の被害がなく、震災直後の停電の影響も受けなかった。福島市に本社を置く福島電子計算センターの中澤堅次社長は、「本業への影響は軽微だった」と振り返る。県内のITベンダーは、地震や津波による社屋損壊などの被害は少なかった。
しかし、福島第一原子力発電所の事故による放射能問題の影響は大きく、現在に至ってもビジネス環境は不安定なまま。地震の揺れでホテルなどの建物が被害を受けた郡山駅前は、昨年後半からようやく復興工事が始まっている。しかし放射線の影響で、県内の復旧・復興の進捗は、岩手県や宮城県に比べ、かなり遅れているのが実状だ。地域で実需が賄えない以上、福島県内のITベンダーが本格的な復活を遂げるのは、まだ先のことになる。
自治体向けシステムを得意とする福島情報処理センターは、放射線量が高く、地域住民が避難を強いられた浜通り地区に多くの顧客を抱えている。同社は、震災発生直後から浜通りの自治体などに社員を派遣し、避難勧告を受けた地区にある自治体やユーザー企業のサーバーなど、IT機器を移行するサポートを行ってきた。今でも、避難勧告の出た地区から中通り地区へと移り、事業を再開しているユーザー企業のシステムを、郡山市内の自社データセンター(DC)で預かっている。

郡山駅前で放射線量を測定して表示
放射線測定システムで貢献
郡山市に本社を置き、製造業向けのソフトウェア開発を主な事業とするNCEも、社屋などの実害は軽微だったが、事業への影響を受けた。飯泉和之社長は、「震災発生直後は、顧客の工場が被害を受けて生産が止まったり、放射線の影響で製品の設計部隊が西日本に移るなど、通常の営業活動がほとんどできなかった」と、苦しかった状況を明かす。
NCEは、業績への影響を最小限に抑えるために、震災以降、デジタルサイネージや電力監視システムなど、製造業以外の新たな自社製品の開発と販売に力を入れている。そして、例えばデジタルサイネージを活用して放射線量の情報をリアルタイムで地図に表示するソリューションなど、「福島県で今ニーズの高いIT製品を市町村に提案する」(飯泉社長)という対策を打ち出した。
福島県では、地元案件の減少の影響を受けるITベンダーがいる。その一方で、東京に多くの顧客を抱えるコンピューターシステムハウスなど、県外のビジネスに強いITベンダーがいる。そのなかには、震災後も大きなインパクトを受けずに事業を従来のまま継続できている例もある。
→第3章へ進む