神奈川県横浜市に、首都圏で最大規模のデータセンター(DC)がある。富士通エフ・アイ・ピー(富士通FIP、杉本信芳社長)が2010年12月に開設した「横浜データセンター」がそれだ。東京から近く、災害の影響を受けにくい立地と、最新のセキュリティ・環境・運用技術を取り入れた設備が人気を集め、2100個あったサーバーラックはあっという間に埋まり、同等規模の新棟を建設することが決まっている。完成すれば、合計4200個ものラックを収納できる超大型施設が誕生する。「富士通の基幹DC『館林システムセンター』に匹敵する」と、杉本社長が自信のほどを示すDCを取材した。
(取材・文/木村剛士:本紙副編集長)
DC設備の総費用は140億円
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伊藤博樹 センターサービス統括部長(兼) センター計画部長 |
富士通FIPは、今から50年ほど前に、現在のDCにあたる電算センターを建設してITサービス事業を開始した。今では北海道や九州など各地域にまんべんなく、合計16か所にDCを構える。設備の充実度は、国内DC事業者のなかで抜きん出ている。富士通も群馬県の「館林システムセンター」などを活用してDC関連サービスを提供しているが、「富士通の顧客は超大手・大手」「富士通FIPは準大手・中堅」というかたちで、大まかに棲み分けている。
横浜データセンターは、16か所目のDCで過去最大規模。およそ140億円を投じて建設した。約2100個のサーバーラックを収容でき、最新のセキュリティと運用技術を備え、環境にも配慮している。災害の影響を受けにくい土地であることも強みで、震度7まで耐えうる地盤で、液状化の心配もない。海抜60メートルで津波などの影響も受けにくいという。
セキュリティ対策では、サーモグラフィティカメラやICカード、生体認証や金属探知機などを活用して、不審者や不審物が侵入するのを防いでいる。サーモグラフィティカメラは、体温が高熱のスタッフが施設内に入るのを防ぐもので、主にインフルエンザ感染者を識別する目的で使っている。
サーバールームでは、入室を許可されているスタッフであっても、入ることができるスペースを制限している。スタッフが許可していないエリアに入ると、身につけているICタグで判別する仕組みで、サーバーラックを解錠して作業する時間にも制限を設けた。そのうえで、自走式のカメラが24時間サーバールーム内を監視する厳重警戒の体制をとっている。
200人の技術者が常駐
運用面では、約200人のシステムエンジニア(SE)とカスタマエンジニア(CE)が常駐している。顧客ごとに設けた担当者をDC内で勤務させることで、万一のトラブルに迅速に対応する。近隣に社員寮をつくり、業務環境を整備した。一方、環境への配慮では、建物の屋上と壁面に太陽光パネルを設置して自家発電。神奈川県から「第2回かながわ地球温暖化対策大賞」を受賞するなど、高い評価を得ている。
横浜データセンターに詰める伊藤博樹・センターサービス統括部長(兼)センター計画部長は、「最新設備と、地震・水害の影響を受けにくく、東京からも近い場所に設置している点が強みで、東日本大震災後はとくに引き合いが多い」と顔をほころばせている。ラックは、当初予定の1.5倍のスピードで埋まっており、「2012年の9月には損益分岐点を超えられそう」と杉本社長は話している。約2100ラックを収容できる新棟を建設予定で、高まる需要を一気に取り込むつもりだ。ただ、「競合は激しく、サービス価格も下がっている。付加価値をつくることと、運用コストを削減するための努力は欠かせない」とも語り、気を引き締めている。

横浜データセンターの外観。元は市営バスの営業所だった

本館の隣りにある空き地には新棟の建設が決まっている

建物の壁面には太陽光パネルを設置して自家発電している

自走式のカメラがサーバールームを常時監視している

地震の揺れを吸収するために特殊構造の柱を採用している。黒い部分は硬質ゴムのような素材で、揺れをやわらげる効果がある