東日本大震災の発生後から活発になっている関西地区のデータセンター(DC)需要が、今、ITベンダーの実ビジネスにつながる段階に入っている。東日本のユーザー企業は、電力供給不足が続く今冬に向けてディザスタ・リカバリ(DR)を経営課題として捉え、関西地区のDCをシステムのバックアップセンターとして利用する動きに拍車をかけている。大阪や神戸でDCを運営する大手ITベンダーは、関西地区のDCの急速な需要拡大に確実な手ごたえを感じており、本格的な受注シーズンを迎えようとしている。(ゼンフ ミシャ)
増設を検討する事業者も
メーカー系DC事業者のNECは、今年8月、「関西第二データセンター」を神戸に開設した。NEC関西支社の佐藤洋一支社長は、「関西第二DCは、東日本のユーザー企業のバックアップ用途を中心として、すでに三分の一のスペース(約200ラック)が埋まっている」と、開設早々の好調な売れ行きに舌を巻く。NECは、大阪にもつ関西第一DCが満床になりつつあったために、東日本大震災が発生する前から関西第二DCの建設を急いでいた。震災から半年が経ち、ITユーザー企業はDR対策に本腰を入れるようになった。そうした動きのなかで、関東と関西のDCを連携してシステムのバックアップを取るニーズが大きく高まり、NECの関西DC事業は大きな刺激を受けることとなった。
本紙編集部が8月に関西で行った取材では、NEC関西支社をはじめ、富士通関西システムズやNTTデータ関西など、多くの大手ITベンダーがDC需要の拡大に確かな手ごたえを感じていることが明らかになった。神戸で大型DCを運営している伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、「東日本の企業にけん引されて、当社の神戸DCを見学しに来る方が以前と比べて約10倍ほどに増大した。これまでの見学件数は年数回だったのが、今は月に数回になっている」(玉野井明良西日本ビジネス本部本部長兼大阪支店長)と、関西DCが高い注目を浴びていることを表現する。玉野井大阪支店長は、「ユーザー企業の新年度が始まる来春に向けて、バックアップの需要がさらに活発化し、新規顧客からの受注を含めて、関西DC事業の本格的な拡大を見込んでいる」と見通しを語る。
関西地区のDCは、この3か月、東日本の企業だけでなく、地元関西の企業の利用も増える傾向にある。原子力発電への依存度が高い関西地区は、発電所の定期点検による稼働停止などの影響を受けて7月から電力事情が悪化。関西電力管内のITユーザー企業は停電に備えて、急ピッチでBCP(事業継続計画)対策を図ることを余儀なくされている。NECは、停電時に無給油で48時間以上の給電ができる自家発電設備を備えたことを関西第二DCのセールスポイントとして、自社に近い関西地区内DCの利用を要望する関西のユーザー企業に向けて、提案活動に力を入れていく。また、兵庫県明石市にグループのDCを置く富士通関西システムズは、「DCの引き合いが震災前と比べて3~4倍、案件数でいえば約100件の水準で増えている」(白山健一社長)として、最近は、関西のユーザー企業を相手にした案件が増加しているという。
グループで自社内システムを西日本へ移設することに取り組んでいるNTTデータ関西は、関西地区における電力供給不足によって、企業だけでなく、自治体もDCを利用する動きが活発になってくるとみている。同社の藤井浩司社長は、「来年に向けて関西の電力事情がさらに悪くなると予測されているので、自治体はデータのバックアップを取ることを迫られている」とみている。同社は、自治体のDC需要が高まることを見越して、DC事業の成長につなげていく方針だ。
大手ITベンダー各社は、「関西DCの需要拡大は一時的な動きではなく、これから先も継続していく」と口を揃える。今後、関西のDC市場が高い伸びを記録し続けると同時に、DC事業者間の競争が激しさを増していくことは避けられない。NECは、競合に先駆けた展開を狙って、すでにDC設備の拡大を検討しているところだ。佐藤関西支社長は、「すぐにでも関西のDCを増設したい」と意気込みを示している。
大手ITベンダーがもつ関西地区のDC
表層深層
東日本大震災発生の直後からDCの“首都圏離れ”が始まり、西日本でDCの需要が活性化──。このトレンドは、4月から浮き彫りになりつつあったが、直近の取材を通じて、関西ITベンダー各社のトップからDC需要の拡大について裏づけを取ることができた。特筆すべきは、「関西DCの需要は『お客様からの問い合わせが殺到している』という段階を過ぎている」とみるITベンダーが多く、DCの需要はすでに事業者の実ビジネスにつながっているという現状だ。
DCの首都圏離れが、関西DCの需要拡大につながった。従来は、日本のDCの大半が関東地区に集中していた。ところが、東日本大震災をきっかけとして、企業の間にディザスタ・リカバリ(災害復旧)の意識が高まり、システムをバックアップする目的で、DCの分散化を推進するようになった。しかし、今起きている現象は、バックアップサイトが関西地区に集中する動きが活発になり、全国への分散化というよりも、ユーザー企業がDCを利用する場所が二極化しつつあるともいえるものだ。
競争が激しいDC市場。ITベンダーにとって、DCの設備・運営コストをいかに削減することができるかが、収益性向上のカギになる。コスト削減の観点からすれば、土地価格やエネルギーコストが高い関東/関西ではなく、例えば冷気による自然冷却ができる北日本の地域が、DCを運営する場所として適しているといえよう。ベンダー間の価格競争が激しくなればなるほど、今後は、北海道や東北でDCが増える可能性が大きくなるだろう。(ゼンフ ミシャ)