経済産業省によれば、日本企業の海外法人の総売上高(2010年度)は、前年度に比べて11.4%増加し、183兆2000億円に達した。ユーザー企業が海外に進出すれば、日本のITベンダーにビジネスチャンスをもたらすが、ユーザーの日本本社と海外拠点ではIT関連業務の事情が異なり、ひと筋縄ではいかない。ITベンダーが海外で成功するには、現地の正確な情報を得ることが、日本以上に求められる。ユーザーの海外IT事情の今を俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「日本との連携」を読む
日本と海外のシステムは分断されている
日本と海外の拠点が使う情報システムの連携状況をユーザー企業の従業員数別で表したのが、下の図だ。企業規模で差はあるものの、最も比率が高いのは、「日本と海外拠点の情報システムは連携していない」である。次に多いのが、「海外拠点とは別の情報システムを使い、オフラインでデータを共有する仕組みがある」。ユーザーの海外拠点にあるシステムは、日本のそれと連携が取れていないケースが大半なのだ。ただ、企業規模が大きくなると、日本と海外拠点で共通のシステムを使う企業は増える。システムは異なっても、オンラインでデータを共有する仕組みをもつ企業の比率も高まる。この調査を行った独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)は、「海外拠点では、まず独自にシステムをつくり、その後に日本と同じシステムを利用する傾向がある」と分析。時間が経つにしたがってシステムの連携が進み、世界共通のITインフラを構築する動きが、今後は加速するともみている。
日本と海外拠点の情報システムの連携状況
figure 2 「利用ソフト」を読む
日本のオフィス環境と傾向は同じ
下の図は、民間IT調査会社のノークリサーチが、年商500億円未満のSMB(海外に進出済みまたは予定している企業)を対象に、海外拠点で使っている主な業務ソフトの利用状況を聞いた結果である。前項のデータで、日本と海外で分断されたシステムを運用する企業が多いことがわかったが、「利用する業務ソフトは、海外だから特別に導入が進んでいるものはない。(導入状況は)日本とほぼ変わらない」(ノークリサーチの岩上由高シニアアナリスト)のが実態という。各業務ソフトの導入比率は日本のオフィスと同様で、必要なIT環境・業務ソフトは日本と同じというわけだ。岩上氏は、海外に進出した日本のSMBは、三つのステップで段階的にIT環境を整えると分析している。ファーストステップが、「インターネットへのアクセス環境とパソコンの整備」という基本的な環境の整備。二番目が「会計管理、グループウェアなどの基本システムの導入」だ。そして三番目が、「販売・在庫管理、人事・給与システムの導入」。この流れも日本と同じと指摘している。
海外拠点が導入しているシステムの状況
figure 3 「権限の所在」を読む
選定・決裁は日本の情報システム部門
では、海外拠点のIT製品・サービスを選定・決裁する権限者は誰なのか。調査会社のIDC Japanは、日本に本社があって2か国以上に拠点をもつユーザー企業を対象に、海外拠点のITインフラに関する調査を実施した。IT製品・サービスを導入するにあたって、「起案」「選定」「決裁」「契約」「運用」の各フェーズで、どの部門に権限を与えているかを調べたものだ。各段階を総合してみると、日本本社の情報システム部門が権限をもつケースが圧倒的に多い。各フェーズでみれば、最上流工程の「起案」は、最もその比率が高く、下流工程に進むにしたがって、各現地法人の情報システム部門や、複数の海外拠点を統括する子会社が主導することがみて取れる。運用するシステムが、日本と海外で連携が取れていないとしても、システムの仕様を決定したり、導入するハードウェアとソフトウェアを選定したりするのは、「日本の情報システム部門」というわけだ。ただ、プロダクト別でみると、サーバーやネットワーク機器などのハードウェアは、「起案」などの上流工程の業務でも、海外拠点に委ねているケースが増えるという。IDC Japanは、「関税を抑えることにつながることや、保守契約をスムーズに結ぶためには現地化したほうが効果的」といった理由があると語っている。
海外拠点のITの導入で権限がある部門
figure 4 「ベンダーの選定基準」を読む
海外の豊富な実績を重視
権限をもつ担当者が、どのような判断基準でシステムの開発を任せるITベンダーを選んでいるかがわかるデータが、下の図である。「非常に重視する」「ある程度重視する」の回答が極端に大きいのが、「海外での利用に対応したシステム開発などの業務実績」と「(ユーザーが進出した)現地国での業務実績」だった。ユーザーは、過去に自社の国内システムを構築した実績があるかどうかよりも、先進的なグローバルシステムや、海外で多くのシステムを構築した実績があるITベンダーを選ぶというわけだ。この傾向は、ユーザー企業の規模が大きくなればなるほど強まることもわかった。海外の実績が大きな判断基準になっていることを裏づけるデータは、ほかにもある。この調査では、海外業務を発注する可能性が高いITベンダーが、日本のITベンダーか海外のITベンダーかについても聞いている。その結果、現地の「日系ITベンダー(日本のITベンダーの海外法人)」が35.5%でトップだったが、その次は「とくに区別しない」(29.5%)になっている。「日本のITベンダーに任せたい」と思う日本のユーザー企業は当然多いものの、それとほぼ同比率で、「海外での実績が多ければ“国籍”は問わない」というユーザーもいるわけだ。日本のITベンダーは、海外のITベンダーとも戦わなければならなくなる。
海外でIT関連業務を発注する際のITベンダーの選定基準