ドイツ大手の見本市事業者であるメッセ・ベルリン社(クリスティアン・ゲーケCOO)はこのほど、独ベルリンで8月31日~9月5日に開く世界最大級の家電フェア「IFA」に先駆け、世界各国の報道陣を招集して「IFAグローバルプレスカンファレンス 2012」を、クロアチア・ドゥブロヴニク市で開催した。メッセ・ベルリンは、日本の大手家電メーカーの業績悪化を受け、いかに家電事業の収益向上を図るかについて議論の場を設けた。日本の家電業界はどうすれば、息を吹き返すことができるのか。クロアチアの会場でヒントを探した。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
欧州で普及が進む「スマートテレビ」をアピール カンファレンスでは、IFA開催のおよそ4か月前、ソニーやシャープ、パナソニックなど、日本を代表する大手家電メーカーの相次ぐ赤字決算発表が世界の記者たちの注目を集めた。日本メーカーの出展は、IFAの一つの柱となることもあって、大手家電メーカーの不振はフェアの開催にどのような影響を与えるのか。その質問に対し、メッセ・ベルリンのイエンス・ハイテッカー執行役員は、「何の悪影響もない」と断言した。「パナソニックが昨年と比べて展示ブースの面積を拡大したり、ソニーは例年通り、ブース面積が最大級の出展企業だ」と、日本メーカーが業績悪化の緊急対策として、グローバルのマーケティングに力を注ぐ動きをみせている実態を語った。

会場には世界各国の記者が集まり、家電業界のこれからについて、メッセ・ベルリンの関係者や調査会社のアナリストと意見を交換した
カンファレンスの基調講演で、IFAの共催者であるgfu社のライナー・ヘッカー会長は、日本メーカーの事業不振に言及した。「家電ビジネスは、利益を獲得することが前提条件。家電・デジタル製品の低価格競争を一刻も早くやめて、メーカーとユーザーの双方にとって“バリュー”をつくらなければならない」と警鐘を鳴らしながら、家電事業のビジネスモデルを見直す必要性を訴えた。
一方、イベントに参加したドイツ調査会社のアナリストらは、ヨーロッパの市場環境に関して、ギリシャやスペインなど景気の悪化に直面している数か国を除き、家電・デジタル製品の販売が伸びていることを解説。日本メーカーにとって、欧州は今こそ注力すべきマーケットであることを示唆した。
カンファレンスには、オランダのフィリップスなど、家電メーカーの関係者も参加。CPUを搭載し、パソコンとテレビの機能を融合させる「スマートテレビ」をはじめ、開発を進めている新製品を披露した。メーカー各社が訴求する「スマートテレビ」は、今年のIFAの注目アイテムの一つになりそうだ。アナリストは、ヨーロッパを中心に「スマートテレビ」の普及が進んでいるというトレンドを解説し、「スマートテレビ」事業に力を入れているサムスンのミハエル・ツェッラー 欧州マーケティングディレクタは「2012年、ヨーロッパで『スマートテレビ』の販売台数が6000万台を超える」との予測を示した。

サムスンなどが開発に注力している「スマートテレビ」。テレビを中心に、あらゆるデバイスが相互接続され、家庭内がシステム化する
ホームNWの構築・運用が新たなビジネスチャンスに 「スマートテレビ」は、タブレットやスマートフォンのモバイル端末をはじめ、あらゆるデバイスをテレビ本体に接続して使うことができる。「スマートテレビ」を核として、家庭内でIT機器間のホームネットワーク(ホームNW)が築かれ、(規模は異なるものの)個人の家も企業と同様にシステム化が進むことになるわけだ。カンファレンスの一環として行った家電事業の収益向上についてのパネルディスカッションで、HDテレビの普及を目指すスイスの団体「HDTV Forum」のアルベレッヒト・ガシュタイナー氏は、「ホームNWの構築・運用は高度なスキルが必要で、ユーザーが自ら行うことはできない」と述べる。ホームNWの構築・運用サービスの提供を、メーカーと販売店にとっての新たなビジネスチャンスになると示唆した。
米国では、ここのところ家電量販最大手のベストバイがホームNWの構築・運用サービスの提供を開始するなど、販売店がすでに動き出しているようだ。しかし、「販売店は十分なスキルをもつ技術者を抱えておらず、サービスの需要にフル対応できる店舗が極めて少ない」と、HDTV Forumのガシュタイナー氏が語るように、販売店だけでは“個人向けシステムインテグレーション(SI)”を実現することは難しいだろう。そんな状況にあって、個人向けSIの提供は、高い技術力を誇る家電メーカーの出番となるのだ。家電業界を取り巻く環境が大きく変化しているなか、技術リソースをシフトし、個人向けSI事業を立ち上げることが、家電メーカーにとって有望株の新規ビジネス開拓につながる可能性がある。