中国最大手の市場調査会社、賽迪顧問(CCIDコンサルティング)の資料をもとに、スマートデバイスを中心とする中国のIT市場の動向を探った。CCIDコンサルティングは政府系シンクタンクとして、2004年、いち早く香港証券取引所に株式を上場。市場調査レポートの発行本数は年間300本を超えており、中国IT市場を分析するうえで非常に重要な役割を担っている。中国政府が力を入れているIT産業政策に深く関わるレポートが多いのが特徴だ。(文/安藤章司)
figure 1 「モバイルプロセッサ」を読む
世界のスマートデバイス生産を担う
市場調査会社の賽迪顧問(CCIDコンサルティング)によれば、中国のモバイルインターネット端末におけるアプリケーションプロセッサの2016年の市場規模は、2011年比で5倍余りの1795億元(約2兆3000億円)に拡大する見通しだ。アプリケーションプロセッサは、モバイル端末特有の概念で、電話機能などの通信を担うプロセッサとは別に、アプリケーションソフトを駆動するプロセッサを指す。iPhone/iPadやAndroid機をはじめとするスマートデバイスは、従来型の携帯電話とは異なり、プロセッサのパワーを必要とするさまざまなアプリケーションソフトを、ユーザーが自由にインストールできるのが最大の特徴だ。中国は全世界のスマートデバイスのおよそ60%の製造を担うスマートデバイス製造大国であるとともに、中国国内でもスマートデバイスは急速に普及している。こうしたことから、モバイル端末向けアプリケーションプロセッサの需要はさらに伸びる見通しだ。
中国モバイルインターネット端末
アプリケーションプロセッサ市場規模の推移
figure 2 「プロセッサのシェア」を読む
米韓製のプロセッサが大勢を占める
中国のモバイルインターネット端末におけるアプリケーションプロセッサのベンダー別シェア(2011年)は、主にAndroid端末に使われるQualcommが全体の43.6%を占める。次いでiPhone/iPadのApple製のプロセッサが35.6%、SAMSUNGが7.4%と続く。中国が世界最大のモバイルインターネット端末の製造拠点になっていることから、Android機とiPhone/iPadの構成比は世界シェアと密接にリンクしている。直近では米韓ベンダーがシェアの大半を占めるが、中国のプロセッサベンダーもスマートデバイス向けの製品開発に力を入れていることから、徐々にシェアを伸ばしていくとCCIDコンサルティングではみている。また、スマートフォンと並んで、iPadに代表されるタブレット端末の市場がさらに伸びると予測。2016年にはタブレット端末向けのアプリケーションプロセッサの市場規模は、スマートデバイス全体の37.9%を占めるまでに拡大すると分析している。
中国モバイルインターネット端末
アプリケーションプロセッサのベンダー別金額シェア(2011年)
figure 3 「三網融合」を読む
「三網融合」で通信と放送の融合狙う
「三網融合」とは、通信と放送、インターネットの三つのネットワークが融合することをいう。日本では「通信と放送の融合」といわれ、ワンセグ放送やスマートフォン向け放送局「NOTTV」などが実用化されている。中国では「三網融合」の名のもとに通信と放送の融合を、これから本格的に普及させていく段階にある。具体的にはインターネットテレビの「IPTV」やモバイル端末向けの放送サービスなどを指しており、2011年11月時点でIPTVの普及はおよそ1100万世帯、モバイル端末向け放送は4000万ユーザーを超えるまで拡大してきた。
2012年は「三網融合」のモデル都市を全国50か所余りに広げ、ユーザーに向けた普及促進とサービス開発、周辺産業との相乗効果の創出を狙う。日本では著作権やテレビ局のビジネスモデルの関係から必ずしも順風満帆とは言いがたい状況にある「通信と放送の融合」だが、世界の有力ベンダーの動きをみると「Apple TV」や「Google TV」といったスマートテレビの開発も意欲的に進められている。CCIDコンサルティングはこうした潮流に乗ることで「三網融合」関連端末のニーズが高まり、端末の市場規模は2015年には2011年比で2.7倍の1900億元(約2兆4700億円)に成長すると予測している。
中国「三網融合」の端末市場規模の推移予測
figure 4 「3G通信サービス」を読む
スマートフォン効果で3G通信サービスが急拡大へ
「三網融合」で欠かせないのが、通信環境の整備である。中国では有線、無線ともに整備が急ピッチで進んでおり、スマートデバイスに欠かせない3G通信サービスも急拡大してきた。2011年の3G通信サービスの営業収入は2009年比で実に8倍近い1417億元(約1兆8400億円)。従来型携帯電話からiPhone/iPad、Android機などのスマートデバイスへの移行が進むにしたがって、3G通信サービスに対する需要が大幅に伸びていることがわかる。
一方、有線のブロードバンド網では、日本や韓国に比べて、中国は大きく出遅れている。主要国のブロードバンドが高速化するにつれて、中国の通信速度の世界ランキングは相対的に下がる傾向にある。価格が割高であることもブロードバンド網の普及を妨げる要因となっており、中国政府は通信キャリアの独占的な地位を乱用したサービス価格の不当な高止まりに目を光らせている。当面のブロードバンド通信速度の目標を2015年までに都市部一般家庭で20Mbps、農村部で4Mbpsを目指す。直近の有線ブロードバンドを利用する世帯数は約1億5500万世帯、3G回線ユーザーは約1億1900万ユーザーまで拡大しているとはいえ、中国の13億人余りの総人口から考えると、普及速度をより一層高めていくことが求められている。
中国3G通信サービス営業収入規模の推移