人口は約13億人、国土が約960万km2にも及ぶ中国。急成長中の国であることに間違いはないが、「貧富の差が激しい」「都市・地域によって、発展状況も景気も違う」などともいわれ、実態は読みにくい。1986年設立の賽迪顧問股份有限公司(CCIDコンサルティング、李峻総裁)は、中国で唯一の政府系IT調査会社で、この巨大市場を調査し続けている。ここでは、CCIDコンサルティングが調べた結果をもとに、とくに伸びている中国のIT製品・サービス、そしてユーザー企業・団体の業界を紹介する。(取材・文/木村剛士)
【携帯電話】スマートフォン、13年に7000万台超え
CCIDコンサルティングの調べによれば、中国の携帯電話ユーザー数は2011年に初めて9億人を超えた。台数をみると、95年以降は毎年、前年比2ケタ以上で伸び、2010年は前年比21.2%増の1億9523万台だったという。中国の携帯電話普及率は、すでに70%近くに達しているが、「農村部の普及率はまだ低く、巨大な市場が残っている」と、CCIDコンサルティングは分析する。しばらくの間は、高い水準を維持しながらマーケットが拡大するとみている。メーカーのシェアをみると、ノキアやサムスン、モトローラなど、欧米や韓国のブランドが高いシェアを占めている。なかでも、ノキアとサムスンが人気で、両社の合計シェアは50%を超えている。
スマートフォンだけに限ると、2010年の販売台数は3201万2000台で、前年比44.0%増と驚異的に伸びている。スマートフォンで利用するアプリケーションソフトが充実してきていることが普及を後押ししたようだ。「MSN」や「QQ」といったインスタントメッセージング機能のソフトが人気を集めている。今後もスマートフォンは伸び続ける見通しで、2013年の年間販売台数は7125万1000台と予測した。
CCIDコンサルティングは、「ローエンドの機種は農村部で需要があるが、今後はスマートフォンが、先進国と同様に成長のけん引役を担うことは間違いない」とみている。
【セキュリティ製品・サービス】前年比20%近い成長が続く
セキュリティ関連製品・サービスも伸び盛りの分野だ。2010年の市場規模は、109億6300万元(約1425億円)で、前年に比べて18.0%成長した。2008年に北京オリンピック、2010年には上海万博が開催されるなど、国際的な大規模イベントが相次いだことで、公共機関のIT化が進み、それに合わせて「大量の情報セキュリティ関連製品が導入された」(CCIDコンサルティング)と分析する。
CCIDコンサルティングは、今後も高成長を見込んでいる。2011年の市場規模は前年比18.7%増の130億900万元(約1690億円)になったもようで、12年には同19.3%増の155億2300万元(約2018億円)、13年には同20.2%増の186億5100万元(約2424億円)に達すると予測している。
中国政府は、クラウドなどの新IT技術を活用した産業の発展を目標に掲げている。ITインフラが今以上に整備される可能性が高く、そうなれば情報システムを守るための情報セキュリティ関連製品・サービスも伸びるという予測だ。CCIDコンサルティングは、「個人情報保護関連の法規制が進むのは間違いない。セキュリティ市場の拡大に弾みがつく」ともみている。
【医療機関向けIT】中小病院のIT化も進み、30%以上の高い成長
ユーザー企業・団体の業種別で成長著しいのが、医療機関だ。2010年の医療機関向けIT市場規模は、前年比28.0%増の124億2000万元(約1615億円)。08年、09年も前年比成長率は20%を超えており、急速に伸びている。システムの導入率をみると、最も高いのは院内の情報を統合管理する「病院情報システム」で、2010年の市場規模の46.5%を占める。電子カルテシステムが占める金額は全体の13.0%とまだ少ないが、最近は徐々に導入する医療機関が増えているという。「政府が『電子カルテ試行法案』を打ち出したことで、今後ますます普及する可能性が高い」と、CCIDコンサルティングでは分析している。
医療機関のIT投資額は「今後3年間は前年比32.8%増で推移する」とみている。大病院だけでなく、中小規模の病院でもパソコンやサーバーなどの需要が高まっていることなどが理由。ただ、中国国内では、「ITベンダーは医療業務に関する知識に乏しく、病院は情報化に必要な技術的な知識と判断力が欠けている」と、CCIDコンサルティングは指摘しており、「第三者の指導が必要」とみている。