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「ビッグデータ」への取り組み 大手メーカーと販社に温度差 中堅販社は「できる現場から」
2012/06/21 21:06
週刊BCN 2012年06月18日vol.1436掲載
あらゆる情報を経営改善に結びつける「ビッグデータ」への取り組みで、中堅IT販社の動きが際立っている。専任組織を立ち上げたり、ビジョンを描いたりしてから取り組みを始める大手メーカーと異なり、IT販社はあくまでも「構築現場で何を実現するか」を重視して、特定分野に特化したノウハウと独自のインテグレーション力を生かして、着実に関連案件を獲得しつつある。「現場主義」の中堅販社は、すでにビッグデータをビジネスにして、着々と活用事例を積み上げつつあるのだ。(ゼンフ ミシャ)
「ビッグデータ」をどのように事業化するかが現実の課題となりつつある。ビッグデータ関連ビジネスへの取り組みで、大手メーカーと販社の間には温度差があるのが実際のところだ。富士通やNEC、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)などの大手メーカーは、今年に入って、データの分析・活用ツールを投入したほか、ビッグデータの専任組織の立ち上げやエキスパート育成に力を入れている。「ビッグデータ」を前面に押し出して、PR活動を推進しているわけだ。これに対して、データベース(DB)や解析プラットフォームなど、ビッグデータ関連製品の販売を手がける販社の動きは、冷静で現実的。ユーザー企業が何を求めているのか、構築の現場で何を実現することができるかを考え、ビッグデータの「ビッグ」を脇に置いて、小規模のデータ活用案件に取り組んでいる。 EMCジャパンのDBソフトウェア「Greenplum」や大容量処理対応ストレージ「Isilon」を取り扱っている東京エレクトロン デバイスは、「言葉通りのビッグデータというよりも、まずはDBインフラの整理など、小さいところから始める」(CN事業統括本部 コーポレートアカウント営業部の小林浩樹部長)という方針で提案活動を行っている。 そもそも日本には、何十テラバイトという大量データを保有する企業はまだ少ない。分析・活用の対象となるデータ量は、調査会社がビッグデータの定義としている数字ほどには大きくないのだ。東京エレクトロン デバイスのような中堅規模のIT販社は、市場のこうした現状を受け、小規模で確実にニーズがあるデータ活用を、ユーザー企業にとって実現しやすいかたちで提案している。 小林部長は、「例えば、多くのユーザー企業にとっては、データウェアハウス(DWH)のアプライアンスは高すぎて導入しにくい。そこで当社は、昨年からDWHをソフトウェア形式で提供するEMCの『Greenplum』を採用し、サーバーと組み合わせてパッケージで展開している。これによって、ユーザー企業はサーバーの導入に合わせて、低コストでデータ活用の第一歩を踏み出すことができる」と、販社ならではのビジネスモデルを語る。東京エレクトロン デバイスは、自前の技術力を生かして常にパッケージのブラッシュアップを行っており、導入実績は着実に伸びているそうだ。 こうした独自のインテグレーション力の活用に加えて、販社のビッグデータ事業化に関してもう一つ有効なアプローチとなるのが、特定の業種に特化したソリューションの展開だ。ICT(情報通信技術)ベンダーの三井情報は、SAPジャパンのインメモリ型データベースソフトウェア「SAP HANA」を用いて、医療機関や製薬会社向けの「ゲノム解析プラットフォーム」の開発に着手する。ビッグデータ事業化の中核となる取り組みだ。 このプラットフォームは、ゲノム解析によって新薬の開発に必要な情報を得るためのもの。三井情報R&Dセンター バイオサイエンス室の菊池紀広室長は、「バイオサイエンスの分野は、データ活用が薬の開発につながるという具体的な利用シーンができている。まだデータ活用のイメージが曖昧な一般企業と比べて提案しやすい」とみている。また、この開発によって「バイオサイエンス分野で30年以上培ってきたノウハウを参入障壁して、当社にしかできない事業展開を実現する」(菊池室長)と、他社との差異化を図る。さらに、「SAP HANA」を使って、シスコシステムズのネットワーク機器など、同社が取り扱う他の商材にも「データ活用」という価値を付加して、独自サービスの展開を拡大する。菊池室長は、「ビッグデータは、提案の切り口にすぎない。あくまでも売るための手段だ」と述べる。 最大手のNTTデータも、メーカーと違うかたちでビッグデータの事業化を推進している。大量情報の分析・活用を、機器同士が通信し合う「M2M(Machine to Machine)」事業の一環と捉え、M2Mソリューションにビッグデータの活用を取り込む戦略だ。技術開発本部 ビジネスインテリジェンス・ソリューション担当の中川慶一郎シニア・スペシャリストは、「当社はM2Mの事業推進室を立ち上げているが、『ビッグデータ推進室』の立ち上げはあり得ない」としている。ビッグデータの活用を独立したかたちで事業化するのではなく、商材のもつ価値として寄り添わせる戦略だ。
表層深層 大量のデータを分析・活用し、経営改善に生かすのがビッグデータ。野村総合研究所(NRI)など有力調査会社はビッグデータ事業化のロードマップを公開しており、富士通やNECをはじめとする大手メーカーはそれをベースにして、商材集めや社内の販売体制づくりなどを推進している。だが、大手メーカーはいずれも、「収益化はまだまだ先の話」とみており、実案件の獲得に苦労している模様だ。 ビッグデータのソリューションが基盤とするのは、「ROI(投資収益率、投資対効果)」の概念である。すなわち、データ活用による経営改善を通じて売り上げを拡大し、IT投資の回収を図るということだ。 しかし、ITベンダーの主な提案先であるユーザー企業のIT部門は、IT投資をあくまでコストと捉え、ROIに関する意識が低いとよく聞く。したがって、データ活用ソリューションの提案は、IT部門ではなく、直接にユーザー企業の経営層に訴えるのが有効なアプローチとなるだろう。大手メーカーよりもユーザー企業に密着し、ユーザー企業の経営層ともパイプをもつIT販社こそがチャンスをものにする可能性が高い。 ビッグデータはバズワードなのか、本当に事業化することができるのか――。ITベンダーはビッグデータの概念にとらわれずに、小規模で早期に実現できるデータ活用ソリューションをユーザー企業にとって導入しやすいかたちで提供するのが、事業化への近道となりそうだ。
あらゆる情報を経営改善に結びつける「ビッグデータ」への取り組みで、中堅IT販社の動きが際立っている。専任組織を立ち上げたり、ビジョンを描いたりしてから取り組みを始める大手メーカーと異なり、IT販社はあくまでも「構築現場で何を実現するか」を重視して、特定分野に特化したノウハウと独自のインテグレーション力を生かして、着実に関連案件を獲得しつつある。「現場主義」の中堅販社は、すでにビッグデータをビジネスにして、着々と活用事例を積み上げつつあるのだ。(ゼンフ ミシャ)
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