北京から高速鉄道に乗って約1時間半、そこには中国最大のソフトウェアパークを建設した都市がある。山東省の済南市だ。市政府はソフト開発業の育成に積極的で、日本のIT企業の誘致にも関心が高く、さまざまな優遇措置を講じている。上海や北京といった沿岸部の大都市に比べて人件費が安く、しかも優秀な人材を採用しやすい。武漢や西安、重慶という内陸都市よりも都市化が進み、有力都市への交通の便も良好。日本での知名度は乏しいが、済南にはソフト開発業を営むのに適した環境が整っている。その特色を、現地取材をもとに解説する。
山東省の省都、済南市 ソフト開発産業を育成
山東省は、中国全土の省・市で2番目に多い人口を抱え、孔子や孟子、諸葛孔明の出身地として知られる。その省都が、済南市だ。市の人口は682万人(2010年、日本貿易振興機構調べ)で、日本でいえば、埼玉県の人口にほぼ匹敵する。域内総生産は4406億3000万元。高速鉄道に乗れば、上海には約2時間半、北京には約1時間半、青島には1時間ほどで到着することができる。中心街には、外資系の高級ホテルやデパート、大型家電量販店が連なり、道路はきれいに舗装されている。日本からの渡航は、成田国際空港と羽田空港からは北京か上海を経由する。関西国際空港からは毎日直行便が飛んでいる。

済南市内には「黄河」が流れ「大明湖」という湖もあることから、「水の都」として知られる。中心街には大型の家電量販店やショッピングモールなどがあり、人通りが激しい
済南は、日本ではあまり馴染みのない都市かもしれない。山東省の代表的な都市といえば、済南ではなく青島のほうが有名だろう。青島には798社の日系企業が進出しているのに対し、済南は65社(日本貿易振興機構調べ)という数値からも、日本での認知が進んでいない印象を受ける。しかし、ソフト開発産業の視点でみると、済南はかなりの有力都市だ。中国最大のソフトウェアパーク「斉魯ソフトウェアパーク」があり、IT人材の育成に積極的な大学が多いうえに、市政府が、ソフト開発企業のビジネスを積極的に支援しているからだ。
中国最大のソフトパーク 約710社の企業が入居
斉魯ソフトウェアパークは、今から17年前の1995年に設立された。「約6万5000平方kmの土地を使い、超大型ビルを建設。現在は、約710社のソフト開発企業とITアウトソーシングサービス企業が入居し、2万2000人ほどの従業員が働いている。山東省のソフト開発産業の中心的存在で、山東省でオフショア開発業を手がける企業の約80%が、斉魯ソフトウェアパークに入居。2009年のパーク内企業の合計売上高は、523億元に達した。済南のソフト開発業が発展している理由は、斉魯ソフトウェアパークの存在だけではない。優秀なIT人材を確保しやすい土地柄であることも影響している。済南には山東大学など66校の大学と短期大学があり、市内に在住する学生は60万人、毎年16万人もの学生を輩出している。沿岸部の都市に比べて、低コストで採用できるのも利点だ。
現在、斉魯ソフトウェアパークはほぼ満杯で、済南市政府は拡張することを決めている。約150億元もの資金を投じて、現在のパーク周辺と高速鉄道の済南北駅周辺に大型ビルを建設中だ。「2016年までに新たに500社の入居を見込んでいる」(済南市の梁旭斌・総経済師)。中国最大規模のソフト開発基地は、ますます存在感を示すことになる。

斉魯ソフトウェアパーク。約710社の企業が入居する(上)。写真下は拡張後の完成模型
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