中国共産党連雲港市委員会の王建華書記長が、3月9日に東京都内のホテルで開催した記者・投資家向けの説明会で、「多くの日本の友人に連雲港に来ていただき、連雲港で新しい事業を開始することを期待している」と、熱く語った。中国共産党と聞けば、つい「反日感情」のような言葉が頭に浮かんでくるが、王書記長は日本に対して極めて友好的な姿勢をアピールした。もちろん、その目的は明確である。連雲港市の代表として来日した王書記長は、IT業界を中心に、日本企業を連雲港に数多く誘致することによって、市の経済発展を狙っているのだ。

　連雲港をはじめ、中国の経済中心都市である上海市の北東に広がる江蘇省の各市が、外資系IT企業を招き寄せるために、ここへきて、ありとあらゆる手を打っている。今回のように、市委員会の関係者が自ら来日して、記者や投資家にアピールする場を設けるのはまだ稀なケースだが、日本企業の誘致にあたって、市の間の競争が激しくなっていることの証と読み取ることができる。これまで農業や工業を経済の柱としてきた江蘇省の各市は、すぐれた技術をもっているIT企業の誘致を新たな発展のカギとみて、上海への距離が近いことや土地の価格が安いことを前面に押し出しながら、PR活動に励んでいる。

　昨年10月、上海市近郊にある江蘇省太倉市に、市の手厚い支援を受けて、大規模な国際アウトソーシングパークが開設された。日本のIT企業関係者を招いた開所式の懇親会では、王剣鋒副市長がそれぞれのテーブルを回って挨拶し、太倉に拠点を構えるメリットを訴えた。太倉市は、所得税を免除したり、新卒社員のトレーニング費用を支援するなど、企業にさまざまな特典を与える補助金制度を設けている。王副市長は、「充実した支援メニューを武器に、海外のIT企業を積極的に増やしていきたい」と語った。

　日本では、中国の巨大なIT市場をにらんで、中国進出を図るIT企業が増えている。しかし、中国政府による数多くの規制だけでなく、上海や北京では土地や人件費が高いなどの厳しい条件があって、進出をためらう企業が多いようだ。連雲港市や太倉市などは、そのような日本企業の悩みを解消するために、ここ数年、中央政府に対して自主性を強めてきた立場を生かして、規制を緩和したり、補助金を用意したりする戦略を推し進めている。

　中国に拠点を構えるにあたって、ほとんどの企業は「上海か北京か」というように場所を選んでおり、江蘇省などの地方を視野に入れている企業は少ないだろう。しかし、とくに中小・中堅のIT企業にとって、地方に出るメリットは大きく、「連雲港か太倉か」というのが、今後、検討に値するオプションとなってくる可能性が高い。（ゼンフ ミシャ）