中堅・中小企業(SMB)市場のクラウドは、数年前に予想されていたよりも緩やかなテンポで成長している。「もっとコストが削減できると思っていたのに、裏切られた」というようなユーザー企業の幻滅感を払拭できていないことや、東日本大震災による啓発活動の遅れ、ITベンダーの提案力不足から普及が遅れているのだ。ITベンダーが提供するクラウドサービスの内容や提案法が充実していけば、SMBが検討の俎上に乗せる余地は広がるはずだ。(文/信澤健太)
figure 1 「市場動向」を読む
市場の成長を阻害する三つの要因
調査会社のノークリサーチによると、2011年の国内クラウド市場規模は686億9000万円だった。2012年は836億5000万円、2013年は1145億7000万円、2014年は1402億円で、2015年には1823億円にまで成長すると予想している。2010年時点での同社の予測では、2011年に1029億円、2012年に1937億円、2013年に3340億円だったが、大幅に下方修正する結果となった。
その要因として、(1)クラウドがもたらすコスト削減効果への過剰な期待、(2)東日本大震災を主な要因とするクラウドの啓発の遅れ、(3)事業継続対策を目的とするクラウド活用の伸び悩み──の3点を挙げる。つまり、ITベンダーは、ユーザー企業が抱く「クラウドサービスの採用=コスト削減」という思い込みを払拭できなかったということになる。さらに、東日本大震災の発生という不測の事態が重なった結果、普及が遅れたというわけだ。業務の改善や生産性の向上、業種 ・業態のニーズに即した提案などを、地道に進めていく必要がある。
クラウドの国内市場規模の推移
figure 2 「中堅企業の導入意欲」を読む
活用度は高まっているが、未検討の企業も多い
クラウドの活用度は、企業規模が大きくなるにつれて高まる傾向にある。ノークリサーチのデータ(2011年11月時点)をみると、年商50億円以上100億円未満の企業の16.3%がクラウドサービスをすでに活用しており、23.4%が検討中となっている。年商100億円以上300億円未満の企業の場合は、クラウドサービスを活用中は15.1%と若干低いが、活用を検討中の28.4%を合わせると、関心がより高いことがわかる。年商300億円以上500億円未満の企業は、18.2%がクラウドサービスをすでに活用中、31.8%が活用を検討しており、活用度合いが最も高い。
2010年2月から翌年2月にかけて、中堅企業は総じてクラウドの活用について情報収集にとどまる割合が減った。一方で、「自社には関係ない」という回答が増加している。実際に導入するとなると個別のカスタマイズやシステム連携に要する運用/管理コストが予想以上にかかるということがわかり、コスト削減効果への過剰な期待が幻滅感に変わったからだと、ノークリサーチはみている。
中堅企業におけるクラウドの活用状況の推移
figure 3 「中小企業の導入意欲」を読む
普及率は低水準のまま、啓発活動のテコ入れが必要
中小企業では、クラウドサービス未導入の割合が中堅企業よりもさらに増える。年商5億円以上50億円未満の企業では、14.6%がクラウドサービスをすでに活用中で、22.2%が活用を検討しているという状況だ。それが年商5億円未満の企業になると、クラウドサービスを活用中の企業はわずか8%しかなく、検討中も14%にとどまる。
富士通マーケティングの渡辺雅彦氏が指摘するように、「中小企業がクラウドを敬遠するという懸念はほとんどない。もともと、現場の担当者はコンピュータがどこで動いているかを知らない。サーバーという存在の認識がないまま、オフィス内に設置してきた。小規模であればあるほど、やりたいことをできればいいという意識が強い」のが実際のところだ。このような観点に立てば、中小企業にクラウドが普及する余地は大きいはず。しかし、中堅企業と同じように、コスト削減効果への過剰な期待がクラウドサービスの活用を妨げている可能性がある。さらに、情報システム専任の担当者を置いていない企業が多いので、自社の既存システムをきちんと把握し、中長期的な視点でクラウドを検討しにくい面がある。したがって、ITベンダーは、業務に直結する導入メリットの訴求やコンサルティングなどに力を入れる必要がある。
中小企業におけるクラウドの活用状況の推移
figure 4 「商機」を読む
成長は緩やかだが、普及する素地は整う
クラウド市場は、成長のスピードは当初の予想よりも緩やかだが、ITベンダーが提供するクラウドサービスとその活用シーンが充実していけば、SMBが検討する余地は広がる。ノークリサーチは、「Dot Cloud」のように二つのサービスまでは無料(複数開発言語に対応)で利用できる安価な料金体系を採用したサービスが登場したことで、PaaSを活用する敷居は下がってきているとみる。加えて、ユーザー自身がクラウド上で簡易なプロジェクト管理や顧客管理のアプリケーションを作成できる「セルフサービス型」のPaaSによって、中小企業でもクラウドの活用シーンが拡大することが期待できるという。SaaSについては、SAPやオラクルをはじめとする大手ERP(統合基幹業務システム)ベンダーが新興のSaaSベンダーの買収を繰り返しており、サービスを組み合わせて使う“幕の内弁当”モデルが指向されている。中小企業やSOHO向けのSaaSの商流として、注目に値するのが会計事務所の存在だ。経営に深く関わる税理士を通じたサービスの提案が、クラウド普及の後押しをするかもしれない。「Microsoft Windows Azure」を採用し、弥生が提供する予定の「弥生オンライン」は、日報代わりに入力するだけで自動的に仕訳できる“半自計化”をコンセプトに、会計事務所パートナーと協力して販売する考えを示している。
弥生が提案する第三の選択肢“半自計化”