セキュリティメーカーは、最新のサイバー脅威に対抗するために、定期的に製品をバージョンアップする。現場では、販社がユーザー企業に代わって更新作業を行うことが多い。しかし、更新作業は無償である場合が多く、販社はスタッフを派遣して作業すれば、コストの持ち出しになる。こうした状況から、販社はユーザー企業に対して、更新を積極的に勧めないのが実情だ。大手メーカーのトレンドマイクロ(エバ・チェンCEO)は、この問題を解決するために、販社にとってもメリットがあるユニークな仕組みをつくった。
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松橋孝志 担当課長代理 |
トレンドマイクロは、法人向けアンチウイルスソフト「ウイルスバスター コーポレートエディション(ウイルスバスター Corp.)」の更新を促すために、オプション製品として、クライアントPCの電源管理ができる「Power Management」を投入した。電気料金の値上げなどで話題性の高い「節電」につながる「Power Management」の導入をきっかけに、ユーザーに「ウイルスバスター Corp.」最新版へのアップグレードを促す。
トレンドマイクロは、現時点で「ウイルスバスター Corp.」のバージョンとして、「8.0」「10.0」「10.5」「10.6」の四つをサポートしている。同社の調査では、今年の6月末時点で、「ウイルスバスター Corp.」の約6万社のユーザー企業のうち、27%が最も古いバージョンである「8.0」を使っていることが明らかになった。「8.0」の正式サポートは9月30日に終了し、アップグレードの促進が喫緊の課題となっている。
促進ツールとなる「Power Management」は、「ウイルスバスター Corp.」の「10.5」「10.6」バージョンのみに対応している。この二つよりも古いバージョンを使っているユーザー企業が「Power Management」を導入すれば、「ウイルスバスター Corp.」のアップグレードを行う必要がある。エンタープライズマーケティング部マーケットディベロップメント課の松橋孝志担当課長代理は、「販社は、節電でニーズが高い『Power Management』によって、“ついでに更新も行う”という提案ができる。さらに、『Power Management』は有料なので、単体の更新作業と違って、『Power Management』の納入に合わせて更新を行う場合は、販社が利益を得ることになる」と、メリットを語る。
トレンドマイクロは、大塚商会やリコーなどを「ウイルスバスター Corp.」の有力販社としており、彼らの営業部隊に対して、「Power Management」を活用した提案モデルを訴求していく。セキュリティメーカーにとっては、ユーザーが古いバージョンのセキュリティソフトを使い続けてウイルスに感染すれば、信頼の喪失につながりかねない。更新の促進は欠かせない活動だ。トレンドマイクロは、“アンチウイルスで節電”というアイデアを武器に、「Power Management」を普及させながら「ウイルスバスター Corp.」最新版への更新を後押しする。販社の立場を考慮に入れた一挙両得の戦略だ。(ゼンフ ミシャ)