NTTデータの岩本敏男社長は、今の中期経営計画中に情報サービス世界トップグループ入りする目標を改めて示した。国内外で積極的なM&A(合併と買収)を展開してきた同社は、現在、世界第二グループのポジションにまで上り詰めている。今年6月、トップに就いた岩本社長は、「売り上げは当然伸ばしていく」と、トップグループ入りを視野に入れた攻めの姿勢を明確にしている。目標達成には、国内事業で着実に収益を上げるとともに、商材の強化や事業の効率化で競争力を高め、海外での売り上げを大きく伸ばしていくことが必須条件となる。(安藤章司)

岩本敏男社長 NTTデータの岩本敏男社長は、本紙の単独取材に応じて、(1)国内市場のリ・マーケティング(市場の再創造)、(2)グローバル事業のより一層の拡大、(3)生産技術の革新を三大重点分野に位置づけ、「世界トップグループ入りを実現する」考えを改めて強調した。世界の情報サービス業はIBM、ヒューレット・パッカード(HP)、富士通、アクセンチュアがトップグループを形成し、二番手グループとしてNTTデータやCSC、Capgemini、日立製作所(情報・通信システム事業)が団子状態になっている。NTTデータは、2016年3月期までの中期経営計画の期間中にこの2番手グループを抜け出し、世界トップグループに入ることを目指す。トップグループ入りを実現すれば、日系ベンダーとしては富士通に続く2社目、開発系SIerとしては初の快挙となる。
まず、収益性の高い国内事業を再度テコ入れする。国内は成熟市場ではあるものの、金融・公共分野を中心に着実に利益が見込めることから「リ・マーケティング」をキーワードに市場の深耕を進める。NTTデータは国内情報サービス市場規模を約10兆円と見ており、うちおよそ1割近くのシェアをもっている。だが、金融・公共に比べて産業分野は「依然として当社シェア拡大の余地が多い」(岩本社長)ことから、産業ユーザーのグローバルビジネスの支援やビッグデータなどの新規事業に果敢に取り組んでいくことでリ・マーケティングを進める。
第1四半期(2012年4~6月期)の営業利益の内訳をみても海外事業はM&Aに伴うのれん代がかさんだこともあり、収益の多くは国内事業に依存する。海外では再編やM&Aなど成長に向けた追加投資を行う可能性も高く、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント的な見方をすれば、国内事業は低成長・高収益の「金のなる木」、欧米市場を中心とする海外事業は高成長の「花形」とみることができる。重点分野の二つ目に位置づける海外での売上高は今年度(2013年3月期)は前年度比約2ケタ増の2200億円を見込むなど、「花形」にふさわしい高度成長の目標を掲げる。
だが、課題が多いのも事実で、その一つとしてアジア最大市場・中国への対応が挙げられる。岩本社長は、「直近の中国情報サービス市場は日本の1.3倍相当のおよそ13兆円。労働集約型の産業構造から急速に脱しつつあり、ITを活用した産業の高度化に伴って早い段階で20兆円規模への拡大はほぼ確実な状況」と認識している。そのうえでNTTデータが得意とする金融や公共分野、注力分野の産業などで中国地場ベンダーと協業しつつシェア拡大に取り組む。金融畑を長く歩んできた岩本社長は、同社のおよそ20年にわたる中国ビジネスで最大案件の一つである中国人民銀行のシステム開発にも関わった経験をもつ。それだけに、中国が自国産業保護に絡む規制が多いことも熟知しており、中国のパートナーとの関係強化を通じて規制を乗り越え、中国市場により深くコミット。「20兆円の10分の1、いや、まずは100分の1のシェア獲得から始めたい」と、中国ビジネスへの執着を示す。
三つ目に挙げる生産技術の革新は、ソフトウェアプログラムの自動生成やテスト工程の自動化、仮想環境で世界の開発拠点をリレーする24時間開発体制などに取り組む。他社にはない生産技術を手に入れることで生産力、コスト競争力を高め、世界情報サービスのトップグループ入りを急ぐ考えだ。

情報サービスベンダーのポジショニング
表層深層
NTTデータがトップグループに入らなければならない理由は明確だ。グローバルカンパニーがベンダーに見積もりを依頼する場合、まずはトップグループの各社に声をかけるからである。現状のNTTデータは、「声がかかるか、かからないか微妙なライン」(関係者)であり、二番手グループから頭ひとつ抜け出すことで、世界の大型商談に確実に食い込めるようにする。だが、実際、トップグループに入るのは容易なことではなく、突破口を開くために岩本敏男社長がとりわけ重視するのが生産技術の革新である。実際にあるプロジェクトでは、自動化ツールを使って単体テスト工数を4割削減した実績がある。
自動化によって人の手を極力介在させずにシステムが組めるようになれば、コスト競争力は飛躍的に高まる。どうしても人手が必要なケースでは、中国やインドにすでに展開済みの開発拠点を積極的に活用する。CPUやストレージ、ネットワークのコンピュータの三大要素の大幅な進化によって自動化は長足の進歩を遂げようとしている反面、開発やテストに従事してきた国内人員や協力会社の仕事は、今後さらに減っていくことが懸念される。岩本社長は「技術革新は必ず正と負の側面がある。グローバルの競争のなかで負の側面を乗り越えていかなければ生存そのものが危ぶまれる」と、グループや協力会社を巻き込んだ痛みを伴う技術革新になろうとも、成長を止めない決意を顕わにしている。