中国情報サービス市場の上半期(2012年1~6月期)売上高が明らかになった。中国政府機関の中国工業和信息化部がまとめたもので、前年同期比26.2%増の1兆988億元(約14兆2800億円)と、著しい成長をみせている。運用系サービスビジネスの伸びや、内陸や地方圏でのソフトウェア開発体制の整備が進むなど、中国情報サービス産業そのものの構造変化も着目すべき点だ。(文/安藤章司)
figure 1 「市場の伸び」を読む
高い成長率で日本市場の2倍の規模へ
中国政府機関の中国工業和信息化部の調べによれば、中国情報サービス業の上半期(2012年1~6月期)売上高は前年同期比26.2%増の1兆988億元(約14兆2800億円)と大きく伸びた。経済産業省の統計に基づいて情報サービス産業協会(JISA)が集計した日本国内の直近の情報サービス業の年間売上高は約18兆8000億円。これから先の数年で中国の情報サービス市場の規模は、日本の2倍規模に拡大する見通しを示している。ただ、公的機関の公表数値は往々にして実態よりも大きくなる傾向にある。そこで国内最大手SIerのNTTデータは、民間調査会社の数値に独自の分析を加えて、直近の国内情報サービス市場を年間約10兆円、中国を年間13兆円規模と見積もっている。国内は成熟市場であるのに対し、中国の情報化投資は依然として大きく伸びる勢いを示していることから、「早い段階で年間20兆円規模への拡大はほぼみえている」(NTTデータの岩本敏男社長)と分析している。
中国の情報サービス業の売上高推移(2012年1~6月期)
figure 2 「伸びる分野」を読む
サービスビジネスの伸びが顕著
中国工業和信息化部では、情報サービス業の主な業務を「ソフトウェア製品」「システムインテグレーション(SI)」「コンサルティング系サービス」「運用系サービス」「組み込みソフト」「IC設計」に分類している。このうち特筆すべきは、2012年1~6月期の情報処理やシステム運用などの「運用系サービス」が前年同期比で37.1%も伸びている点である。情報サービス業全体の伸びである26.2%よりも10.9ポイントも高く、構成比も前年同期比で1.4ポイント増えた。一方、伸び悩み感があるのが「組み込みソフト」だ。前年同期比の伸び率は22.7%と、全体の伸び率よりも低いだけでなく、6月単月では前年同期比4%増にとどまり、伸びの増減幅が大きくなっている。標準OSを使うスマートフォンが台頭して携帯電話向けの「組み込みソフト」のボリュームが減ったことや、デジタル家電、カーナビなど、車載系の「組み込みソフト」に対する需要が中国でも減速しているものとみられる。
情報サービス業の業務別の構成比(2012年1~6月期)
figure 3 「地域特性」を読む
開発拠点は大都市から地方圏へと広がる
情報サービス業の2012年1~6月期売上高を地域別でみると、江蘇省や広東省、北京、上海といった沿岸部が圧倒的に売り上げが大きいことがわかる。ただ、注目すべきは、このなかで成都や重慶など大都市を抱える四川省や、古都・西安のある陝西省が勢いよく伸びていることだ。人件費高騰が著しい上海は、前年同期比18.7%しか伸びていないが、その周辺の江蘇省は30.1%伸び、さらに内陸部の四川省が32.6%、陝西省が32.7%伸びている。山東省も省都の済南や、港町の青島を中心に情報サービス産業振興に力を入れていることから伸び率は36.0%に達しており、大連や瀋陽のある遼寧省を追い上げている。
上海や北京でソフトウェアの製造工程を担うには、すでに人件費が高騰しすぎていることから、大手SIerが周辺の省や内陸部へ開発拠点を移す動きが活発化していることがうかがえる。中国政府も大都市圏と地方圏との経済格差の是正に力を入れており、例えば、地方都市のソフトウェアパークの整備・拡張を図り、優遇政策を手厚くするなど、地方政府と一丸となった企業誘致に力を入れている。こうした取り組みに中国地場SIerが同調していることが、地方圏の伸び率アップにつながっている。
上位10省・都市の情報サービス業売上高(2012年1~6月期)
figure 4 「輸出」を読む
オフショア主体の輸出の伸びは緩慢
中国情報サービス業の2012年1~6月期の国外企業からのソフト開発の受託を中心とする輸出額は、前年同期比11.7%増の162.4億ドル(約1兆3000億円)と堅調な伸びを示している。2ケタ増とはいえ、情報サービス業全体の伸びである26.2%に比べれば緩やかだ。これは中国国内市場の急速な成長によって中国地場SIerの国内シフトが進んでいる点と、中国沿岸部を中心とした人件費の高騰によって、インドやASEANなどよりコストが安い国や地域へオフショアソフト開発先が変動していることが要因として挙げられる。
中国地場SIerをみると、旺盛な中国国内需要を前にしてSEやプログラマといった開発人員の養成が追いつかず、国外からの受注を捌ききれないケースもみられる。また、中国へ発注するオフショアソフト開発の比率が高い日本は、国内市場の成熟や受託開発案件の伸び悩みから、発注量そのものが今後大きくは伸びない状況だ。日系企業と取り引きしている中国SIerもこうした点を考慮して、成長の余地が大きい中国国内市場へと目を向ける動きがみられる。今後は従来型のオフショア方式による受託開発に加えて、中国の大手SIerの海外進出も活発化するなど、国外向けビジネスの多様化によって再び輸出額が増える可能性がある。
直近のソフトウェア輸出伸び率推移