インターネットイニシアティブ(IIJ)グループで国際事業を手がけるIIJグローバルソリューションズ(IIJグローバル、岩澤利典社長)は、法人向けIaaS/PaaSサービス「IIJ GIO」の提供を中国で開始するにあたって、急ピッチで準備を進めている。今年3月、中国の大手通信事業者であるチャイナテレコム(中国電信)と提携し、同社の中国でのデータセンター(DC)を利用するかたちで、サービス基盤の構築に取り組んでいる。さらに、日本と中国のアプリケーション開発事業者と提携の話を進めており、「IIJ GIO」上で動く業務アプリケーションの提供によって、サービスの販売を促進する。(ゼンフ ミシャ)

IIJグローバル中国
西俣辰男董事長 IIJが今年2月に設立した現地法人「IIJグローバル中国」でビジネスの指揮を執る西俣辰男董事長は、「IIJグループの国際事業全体で、5年後に100億円の売上規模を目指しており、そのうち、中国のクラウドサービスでおよそ30億円を見込んでいる。中国に進出した日系企業と中国現地企業の両方をターゲットに据え、千数百社規模のお客様を獲得したい」と強気な姿勢をみせており、「IIJ GIO」を柱とした中国クラウド事業に本腰を入れる。
IIJグループは、中国に進出した日系企業向けネットワーク構築のアウトソーシングサービスを提供するなど、小規模ながら以前から中国でビジネスを展開してきた。このところ、日本国内でパブリッククラウドの需要が高まって「IIJ GIO」のユーザー数が急速に伸びていることをバネに、「IIJ GIO」を中核商材に据えて、中国事業を本格的に立ち上げようとしている。同社は、米国の大手パブリッククラウドベンダーで、IIJの有力コンペティターとなるアマゾンやグーグルが外資系企業に対する厳しい規制によってほとんど事業展開ができていない現状を捉えて、中国では、パブリッククラウド市場が未開拓状態にあるとみている。そんな状況にあって、中国の経済成長に伴って事業が伸びている日系企業と中国企業は、成長に合わせてシステムを柔軟に拡張することができる「IIJ GIO」へのニーズが高いと判断し、クラウド商材の中国展開を決断した。
IIJグローバルは、サービス提供に必要なライセンスやデータセンター(DC)などの障壁をクリアするために、今年3月に大手通信事業者のチャイナテレコムと提携し、中国でのクラウド展開に欠かせない現地の強力なパートナーを獲得した。チャイナテレコムとの提携によって、アマゾンやグーグルと異なり、ほぼ中国企業のようにビジネスが展開できるようになり、規制の問題を解決することができたわけだ。
同社は現時点で、チャイナテレコムのDCやネットワークインフラを利用して、「IIJ GIO」の中国でのサービス基盤を築いているところだ。日本では、IIJグループが島根県松江市で運営する「松江データセンターパーク」を中心に利用して「IIJ GIO」のサービス基盤を構築・運用しているが、中国ではチャイナテレコムの強固なインフラを利用することによって、日本と同等のサービス品質を目指している。サービス開始後は、来年前半をめどに、チャイナテレコムの販売網や営業リソースも活用して、チャイナテレコムとの連携を密にして、日系企業/中国企業に対して「IIJ GIO」の提案活動を行っていく。
「IIJ GIO」の中国での展開のカギを握るのは、ERP(統合基幹業務システム)をはじめ、「IIJ GIO」上で動く業務アプリケーションのポートフォリオを充実させることができるかどうかである。西俣董事長は、「サービスを開始したら、第一ステップとして日本のSaaSパートナーのアプリケーションを『IIJ GIO』に乗せて提供する。次に、中国のシステムインテグレータ(SIer)やアプリケーションベンダーとも提携する。中国企業を狙って、現地のパートナーに『IIJ GIO』を再販してもらいながら、彼らがもつアプリケーションをツールとして、当社のクラウドサービスを中国企業に最適な商材として展開する」と戦略を述べる。
IIJグローバルは、上海拠点に中国のアプリケーションベンダーをはじめとするパートナーの開拓に携わるチームを設けている。このチームは、現地のパートナー候補の数社と提携の話を進めているところだ。西俣董事長は、「すでに1社の中堅規模のアプリケーション開発事業者(中国企業)をパートナーとして獲得することができ、協業の準備を進めている」と、手応えを語る。同社は今後、中国のアプリケーションパートナーの数を増やし、現地に根ざした販売網をつくる。
西俣董事長は、「中国は、今までプライベートクラウドをメインにクラウドコンピューティングが普及してきたが、これからは、パブリッククラウドの需要も高まると確信している。いち早く市場を開拓するために、来年前半から『IIJ GIO』を本格的に展開したい」とし、サービス開始の準備をより一段と加速する構えだ。
表層深層
IIJグループで中国ビジネスを担当するIIJグローバルソリューションズ(IIJグローバル)は、米国最大手の電話会社であるAT&Tの日本法人「AT&Tジャパン」が前身で、2010年9月にIIJグループの傘下に入った。IIJグローバルは、AT&Tジャパン時代から世界各国の有力な通信事業者とパイプをつくることに取り組んできた。今年3月には中国全土でネットワークインフラを有するチャイナテレコムを戦略パートナーとして獲得した。それができたのは、AT&Tジャパン時代からのパイプづくりが実を結んだからだ。IIJグローバルは、チャイナテレコムとの提携にこぎ着けたからこそ、中国での幅広いビジネス展開が可能になったわけだ。
IIJグループが中国ビジネスの拡大に取り組めば、同社のパートナーである日本国内のアプリケーションベンダーにとっても商機を生むことになる。IIJは中長期的に中国企業を主要ターゲットに据え、現地のアプリケーション開発事業者との提携によって市場を開拓する方針だが、当面は、日本ベンダーが開発したアプリケーションを日系企業に提供するのが、実現しやすい事業展開のパターンだ。日本のアプリケーションベンダーは、IIJと組んで、単独では難しい中国ビジネスを開始することができ、将来の中国事業の拡大に向け、現地での人脈を築くことが可能となる。IIJグローバルとの提携は、中国ビジネスに踏み切るチャンスとなる。