「数年後、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)のカテゴリは、世の中から消える」。ISVに迫る危機について、1stホールディングス社長の内野弘幸は、こう断定する。企業が海外展開することがあたりまえになり、クラウドがビジネスの中核をなす時代。「情報システム担当は、グローバルで物事を考えるので、旧来の日本モデルは成り立たなくなる」。内野は、国内ISVに警鐘を鳴らす。(取材・文/谷畑良胤)
「ISV没落論」。1stホールディングス社長の内野は、その意味するところを語る。「パッケージソフトをライセンス販売し、保守でストックを得るという従来のビジネスモデル=収益モデルは、安価で従量課金制のクラウドが主流になれば、見直しを迫られる」。
パッケージソフト会社の粗利率は、30~50%と高い。だが、安価で利用が簡単なクラウドが、この構図を根底から揺るがす。サービスで成り立つ新モデルが求められていることは論をまたない。内野は、「IT市場環境の変化への対応が、今ほど急務とされる時代はない」と断言する。
同社がバリオセキュア・ネットワークスを買収し、PaaS環境を手中にしたのは、変化に対応するための初手にすぎない。究極的には、このPaaS環境を活用して、システム構築(SI)を行うITベンダーを募ることができる。だが、この手のビジネスモデルは、セールスフォース・ドットコムなどが指向している段階で、世界的なデファクトスタンダード(事実上の業界標準)になりつつある。1st社は、セールスフォースとは手を組んだ。一方でシステムインテグレータ(SIer)を買収し、製販両面を担うITベンダーに変容しても不思議はない。
クラウド進展に伴うISV収益源の変化 「NTTデータの幹部に、『SIの仕事はなくなるよ』といわれた」。旧住商情報システム時代に国産初のERP(統合基幹業務システム)「ProActive(プロアクティブ)」の開発を主導したシステムインテグレータ社長の梅田弘之は、最近耳にしたこの言葉を胸に収める。SIは、受託ソフトのスクラッチ開発(手組み)を指すようだ。同社は、EC(電子商取引)サイト構築製品「SI Web Shopping」など独創的なパッケージを揃える。しかし、収益の中心は、これも梅田が主導して開発した「次世代ERP」と銘打った完全ウェブ版の「GRANDIT(グランディット)」の追加開発だ。
「ERPの領域がすぐにクラウド化されることはない。だが、『GRANDIT』は時代の変化を先取りし、当初から多言語化した」と梅田。日本の商慣習が色濃く残るERPや会計システムにしても、決して聖域ではなく、クラウドとグローバルの風圧は強まる一方だと気を引き締めている。
梅田の会社のように、SIとパッケージ開発・販売の両方を手がけるITベンダーは、地方に目を転じれば、それが主流となっている。地方のIT産業を支えるSIerは、スクラッチ開発が成熟するなかで、利益率の高い地域にマッチしたパッケージを開発して販売することで帳尻を合わせている。「ISVとSIの両翼を担う」というロジックは、すでに地方に参考例があるのだ。
だが、このビジネスモデルにも、クラウドの波が容赦なく襲いかかる。収益の柱であるパッケージ販売が沈むのだから。「クラウドが破壊するモノと生み出すモノとの見分けが重要だ」。サイボウズ社長の青野慶久は、こう述べてチャネルの重要性を説いた。チャネル展開は日本の強み。各種ITベンダーが寄り合うことで、米国の“巨人ベンダー”に対抗しうる手立てが生まれるからだ。(つづく)[文中敬称略]

2011年1月の株式上場記念パーティーで、クラウド時代の成長を誓った1stホールディングスの内野弘幸社長(写真中央)