アシストは、イスラエルのベンチャーでソフトメーカーのERICOMと総販売代理店契約を締結し、2012年6月からERICOM製クライアント仮想化ソフトの販売網を構築して、ビジネスの拡大を本格化している。今年10月の時点で販社が約15社に達し、ユーザー企業を開拓する体制を整えた。クライアント仮想化ソフトですでにシトリックス・システムズ・ジャパンの販売代理店となっている同社が、さらにERICOMの製品を扱うことを決断したのは、販売網を構築することでクライアント仮想化ソフトのすそ野を広げる販路を確立するためだ。

岡田昌徳担当部長 アシストは、クライアント仮想化ソフトの分野でシトリックスの販売パートナー制度「CSA(シトリックス・ソリューション・アドバイザー)」に参加している。シトリックスのクライアント仮想化ソフトで獲得したユーザー企業は450社。岡田昌徳・システムソフトウェア事業部技術2部担当部長は、「市場が伸びている割にはビジネスが拡大していない」と認識している。原因は、シトリックスの製品が高価格なため、思うようにユーザー企業が増えないことにある。ユーザー企業を増やすには、低価格で提供するしかない。しかし、「利益率が低くなるのなら、ビジネスとしてのうまみがない」との判断で、低価格での提供を避けていた。その結果、「獲得したユーザー企業の2倍以上の案件を逃したはず」と、少なくとも900社のユーザー企業の獲得に失敗したとみる。
そこで、一昨年12月から、低価格でしかも利益を確保できるクライアント仮想化ソフトを開発するメーカーを調査し、ERICOMというベンチャー企業を探しあてた。ERICOMは、他の仮想化ソフトメーカーと異なり、サーバー仮想化ソフトを開発せずに、クライアント仮想化ソフトの開発に特化することで他社製品の3分の1程度という低価格を実現している。低価格を武器にして、「ユーザー企業のすそ野を広げることができると確信した」(岡田担当部長)という。都合がいいことに、クライアント仮想化ソフトに特化しているので、他社のサーバー仮想化ソフトとの互換性が高い製品になっている。現在、国内では全社でクライアント仮想化環境を構築しているユーザー企業は少なく、「他社の仮想化環境を構築しているユーザー企業に対しても提案できる」と、勝算がありそうだ。
昨年9月にERICOMとの総販売代理店契約を締結し、今年2月に英語版の製品を、6月には日本語版の販売を開始した。まずは直販を中心にアプローチをかけ、10月中旬の時点で25社弱のユーザー企業を獲得している。加えて、販社も獲得しており、10月中旬の時点でSIerを中心に15社とパートナーシップを結んだ。これによって、「ユーザー企業として年内に50社、来年前半までに100社を獲得できる」と見込んでいる。利益金額については、「13年末までに現状の3倍まで増やすことができる」と試算する。
シトリックスのCSA制度は、CSAになったベンダーのみが販売できるという制限があり、直販だけでなく間接販売も手がけるアシストにとっては、自社のビジネスモデルとの相違点が生じていた。今後も、「シトリックスの製品は、大規模案件を中心に、今後も販売していく」との姿勢をみせているものの、ERICOM製品がアシストにとって「販社にメリットを提供できる点で力を注ぐ製品になる」としている。
国内クライアント仮想化ソフト市場は、シトリックスがトップ、次いでヴイエムウェアがシェアを握っている。ミック経済研究所によれば、2011年の売上高シェアは、この2社で市場の7割以上を占めているという。ERICOM製品は、安価であることを武器にしてクライアント仮想化ソフトのすそ野を広げる可能性を秘めている。2社が牛耳る現在の状況を、アシストはERICOM製品の新しい商流の構築によって変えようとしている。(佐相彰彦)