自社イベントで元プロレスラーのアントニオ猪木を起用したサイボウズ。これに対抗したのか、プロレスラーの長州力を模したお笑いタレントの長州小力を展示ブースに投入したブランドダイアログ──。国内コラボレーションツール市場で、勢いに乗る両社の勝負、はた目には活気が漲っているようにみえる。しかし、「危機感の大きさ」でみれば、追われる側のサイボウズのほうが勝っている。同じ市場にいながら、将来の方向性も微妙に異なる。(取材・文/谷畑良胤)
グループウェア/SFA(営業支援)の国内市場は、「成熟市場」とみる分析が多数を占める。だが、ブランドダイアログ社長兼CEOの稲葉雄一には、これが宝の山に映った。
日本の企業文化に根ざしたコラボレーションツールが見当たらないと判断したからだ。例えば、グループウェアで社内のスケジュールを共有するが、ブランドダイアログの「Knowledge Suite」は、役員など幹部の日程を非表示にできる。「社内で共有できないスケジュールもある」(稲葉)。小さなアイデアだが、そんな使い方をしたい日本企業のニーズに応えた。
ライバルと目される独立系ソフトウェアベンダー(ISV)の名前は隠しながら、稲葉は言う。「国産グループウェアは、BtoC的な使われ方に向けた製品。当社はBtoBの使い方を追求している」。
クラウドコンピューティングは本来、企業にマネタイズ(お金に換える)用の手段として使われるべき。だが、コラボレーションツールに関していえば、「マネ(真似)タイズ」ツールだ。米国製品の真似をした、益を生まない製品だ、と稲葉は酷評する。実際は、生産性を上げ、収益を生むエンジンとして使われているが、コスト削減だけの目的でツールを導入すれば、無用の長物と化すことに警鐘を鳴らしているのだ。
最近、「Knowledge Suite」は数万ユーザー単位のクライアントをもつ大企業の案件が増えた。サイボウズへの対抗心を露わにするブランドダイアログだが、競合はサイボウズを含めて巨大外資系ITベンダーにも及ぶ。グーグル、セールスフォース・ドットコム、マイクロソフト、IBMなどだ。敵は巨大だが、大型案件で勝利をもぎ取る機会が増えているのだ。「単に情報共有するだけでなく、業務改善に役立つ」。稲葉は、自社ツールが、業務の仕方を変えるツールであることが浸透してきたと胸を張る。
ブランドダイアログは、当面国内市場の攻略に専念するが、まだまだ道は険しい。プロモーション投資を緩めるそぶりはみせない。投資対回収は道半ばだ。稲葉は「市場を確立するまで、あと2年」と、手綱を緩める気はさらさらない。

ブランドダイアログが出展した「クラウドEXPO 秋」で、同社ブース前は、常時、多くの人だかりができていた。
一方のサイボウズは、国内では圧倒的な市場を形成している。しかし、海外を含めた市場の引き締めに力を注ぐ。クラウドサービスの「Kintone」は、その主力サービスだ。
海外では、海外の使われ方がある。国内でも、企業に合った使われ方や業務改善の方法がある。用意されたパーツを選んで、配置するだけでイメージ通りの入力フォームが完成する。企業単位というよりは、ビジネスパーソン個々の使い方に準じたカスタマイズが可能だ。サイボウズ社長の青野慶久は、「変化し続けなければ生き残れない」という。裏返せば、ユーザーをリードする変化をし続ければ、「市場は必ず広がるし、企業のITは、情報システム担当のモノでなくなる」ということだ。青野は秘策を多くもっているとみていいだろう。[敬称略]