グループウェア「desknet's」のメーカーであるネオジャパン。2012年12月に発売した新製品「desknet's NEO」で、初めて「HTML5」を採用した。これを決断したのは2年前。「HTML5」は、次世代標準技術と目されていたが、二の足を踏む独立系ソフトウェアベンダー(ISV)が、まだ多かった頃だ。同社取締役の狩野英樹は、独自のアンテナを張り巡らす。「ガラケーは消える。これからの主流はスマートデバイスだ」。スマートデバイスの利用率が上がる──ここ一本に絞って決断し、即、フレームワークづくりに着手した。(取材・文/谷畑良胤)
「スマートデバイスに絞った」と狩野。スマートデバイスがITインフラの主軸になりつつある今となっては、この判断は正しかった。だが、開発の当初は「苦難の道だった」と、狩野は述懐する。パソコンのマウスとスマートデバイスのタッチの二つのインターフェース。両方で無理なく使える画面をどうつくるか。iOSだけでなく、Androidもある。デバイスも多様に揃ってきた。「安い製品にしたいし、今まで以上に軽い製品にしたかった」。そのためには、開発コストを引き下げて、新しい技術を完璧に使いこなす必要がある。既存製品に慣れたユーザーの使い勝手との整合性も取らなければならない。
そんな苦難の末に完成したのが「desknet's NEO」というわけだ。“完成品”は、ムダな要素が排除され、従来型のウェブインターフェースとは一線を画す視認性と操作性を実現した。狩野はそう実感している。
ネオジャパンは12年で創業20年。社長の齋藤晶議は「ものづくりに徹する」ことを信条としている。狩野は、そんな気質の齋藤の下で育った。「ISVは、純粋にアプリケーションをつくることに徹する。そのためには、より高度なテクノロジーを手にして、それを使いこなす人材が重要になる」。狩野も同じ言葉を繰り返し口にする。同社には「ものづくり精神」が脈々と生き続けている。
現在、海外展開も視野には入れている同社だが、狩野いわく「チャンスは日本のほうがある」。同社に自信がないわけではないのだ。「誇れるのは品質、開発の速さなど数多い。劣っているのは、ビジネスデザインだけだ」(狩野)。このまま海外に出ても、失敗は目に見えている。今は着々と、ビジネスデザインの練り上げ中だ。
グループウェアなどコラボレーションの国内市場は、メーカーが多いうえに、外資系も入り乱れて過当競争の状況にある。相当の差異化点がなければ、生き残りは厳しい。ネオジャパンは、そのなかで技術力を高め、マーケティング力で市場攻略を図る。同社の強敵となるサイボウズは、自社グループウェアとの接続性を追求することなどを狙い、「kintone」を投入してプラットフォーム戦略を打ち出した。ブランドダイアログは、両社のすき間を狙い、価格や理論で勝負を挑む構造を形成している。
調査会社のIDC Japanが「2013年国内IT市場の主要10項目」と題して、IT産業の構造改革を加速する項目を列挙した。そのなかで、「第2のプラットフォーム」から「第3のプラットフォーム」へのシフトが水面下で加速する、と指摘している。ITインフラは、クライアント/サーバー型から、スマートデバイス、クラウド、ビッグデータ、ソーシャル技術に変化する時代の先駆けになる年と予測する。上記3社に共通しているのは、確実にこの新基盤に向けた製品・サービス、ビジネスモデルを打ち出してきていることだ。「本当の戦いはこれからだ」。ネオジャパンの狩野はそう言って、表情を引き締める。[敬称略]

ネオジャパンの狩野英樹・取締役が語る軽快な口調と分かりやすい説明は、どのイベントでも人を集める