「使ってスゲー! と感じるアプリケーションをつくり続ける」。グループウェア大手、ネオジャパン取締役の狩野英樹は、入社以来抱く「心の根源」を片時も忘れることはない。ISV(独立系ソフトウェアベンダー)が、PaaSといった自前のプラットフォーム構築に走る姿をけん制する。アプリづくりを極め、「クラウドを使ったビジネスモデルや儲かる商売をつくる」(狩野)。ISVからのIT業界の見方を鍛えれば、売り手と売り手のすき間が見えてくる。(取材・文/谷畑良胤)
狩野が取締役を務めるネオジャパンは、国内グループウェア市場でシェア上位に位置する。ただ、シェア争いではサイボウズなどの後塵を拝している。それでも、主力グループウェア「desknet's」は、大手コンピュータ誌の顧客満足度調査で、3年連続の部門1位を獲得している。狩野は、製品の中身の詳細を決める直接の担当ではないが、「desknet's」を売るためのビジネスモデルづくりに尽力している。狩野あっての「desknet's」というのが、社内の共通認識だ。
12月5日、2年間練り上げてきた「desknet's」の後継製品、中堅・大企業向けの「desknet's NEO」を発売した。次世代のウェブ標準技術「HTML5」を採用して、タッチパネルに適したインターフェースに仕立てる。スマートデバイスの利用を前提にして、2年前に「HTML5」のインターフェース利用を狩野らが進言した。「通信キャリアの需要予測を詳細に調べた結果、“ガラケー”が衰退し、安くて軽いスマートデバイスが主流になると確信した」(狩野)。この読みがズバリ当たったわけだ。
エンドユーザーの利用環境の変化を予測し、ISVとエンドユーザーの間にいるプレーヤー(SIerなど)の存在を見極める。例えば、「desknet's」は、クラウド基盤を提供するアマゾン ウェブ サービス(AWS)上などで稼働するクラウドサービスを展開している。
「AWSのAPIを使って、ちゃちゃっとアプリ連携をつくってしまう『イネーブラー』が、引く手あまただ」(狩野)と、趨勢を掴んでいる。本来はSIerの仕事だが、薄利なので受けない。イネーブラーとSIerが組めば、“鬼に金棒”のクラウドサービスベンダーが生まれる。そんな構想を常に巡らせるのが狩野だ。
実は、この「desknet's NEO」は海外展開を想定した多言語対応の製品でもあるという。しかし、これをこのまま現地に運び、ローカライズ(現地語化)して売ろうとはしていない。狩野は言う。「現地法人をきちんとつくり、その現地の感覚で利用環境を読んで、そこに合った製品をデリバリする」。各国のIT文化。これを知ったうえで現地のローカル企業に売ろうという構想だ。
では、どこに進出するのか。最近、独自のダイエット法で8kg減量した身体を震わせながら、「そんなこと、言えるわけがない」と一蹴した。「使ってスゲー!」。これが実現できるエリアを探すことは、間違いなさそうだ。「日本のソフトは、品質のよさ、おもてなしの心のあるつくりで、世界に勝てる。劣っているのは、ビジネスデザインだけだ」。狩野の世界進出のための見極めが本格化するのは、これからだ。
それでも、まずは国内市場を制することを大前提としている。成熟しているといわれて久しい国内グループウェア市場。「最新のIT技術を使い、将来への開発の手を絶対に緩めない」。狩野が描くISVの生き残りの最優先事項だ。IT業界のすき間をウォッチする人物は少ない。狩野は、その少ない存在の一人といえる。[敬称略]

ネオジャパンの狩野英樹取締役は、多くのクラウドイベントに出展して、自ら「desknet’s NEO」の宣伝をし続けている(写真左の説明員が狩野取締役)