グループウェア市場では、日本マイクロソフトと日本IBM、サイボウズの3社が3強として実績を上げてきた。近年はグーグルの台頭が著しい。戦略のポイントとして、「クラウド」「中小企業」「再販制度」に焦点を当てる。(取材・文/信澤健太)
クラウドと中小企業にフォーカス
日本IBMは大企業に強く、対照的にサイボウズは中堅・中小企業(SMB)を得意としている。日本マイクロソフトは年商規模にあまり偏らずに導入が進んできた。近年は、中小企業から大企業にかけてグーグルの台頭が著しい。各社が新規開拓に乗り出して、互いの“領域”を侵す状況にある。とくに中堅規模以上の企業の市場が成熟しつつあるなかで、中小企業市場が激戦区となっている。
中小企業市場は未開拓で魅力的ではあるが、難しさも伴う。日本IBMは、割安に導入できる「Lotus Notes/Domino Express」キャンペーンや新しいクラウドサービスをアピールする。日本マイクロソフトも低価格のプランを用意。パートナープログラムを強化して中小企業を取り込もうとしている。サイボウズは、細かな業務ニーズに応える業務アプリ構築PaaSの「kintone」や汎用的に使えるメール共有サービス「メールワイズ」の拡販を狙う。グーグルは、SMB向けパートナーの増強に取り組んでいる。
グーグルは当然として、各社は共通してクラウドビジネスを強力に推し進めている。1年ほど前であれば、パートナー企業から戸惑いの声が聞こえてきたが、販売体制の整備も徐々に進んでいる状況だ。
「Office 365」やサイボウズ製品の有力リセラーであるリコージャパンは、昨秋、クラウドの総合ブランド「リコーワンストップくらうど(ROC)」の提供を開始。2012年に入り、サブスクリプション(使用した分を支払う)モデルに合わせて営業担当者の評価制度を刷新した。吉田敦・ICT事業本部SI事業センター長は、「オンプレミス型システムを販売したときと同じように評価する仕組みを整えている。ただ、上期での反省点を踏まえて、見直しの作業に入っている」と話す。例えば、サービス契約後にすぐに解約された場合に営業担当者の評価をどうするのか、といった場合の対応策を検討している。「クラウドで事業は縮小しない。むしろ、中小企業に対するビジネスチャンスが広がる」と強調する。
脱「グループウェア」で新領域を開拓
2012年7月に入り、日本IBMは営業部門を「インダストリー(=製造・公共・流通・通信・金融の産業別)」と「エンタープライズ(=地域ごとにさまざまな業種の企業を開拓する)」に再編した。加えて、支社制度を導入して、地理的なカバレッジの拡大と強化に乗り出した。伊藤瑞穂・ソフトウェア事業Lotus事業部パートナー&ビジネス開発部長は、「これまでは最大手の顧客にフォーカスして、少ないビジネス機会に多くのリソースを割いていた」と話し、パートナー戦略のテコ入れを通じて地方とSMB市場を開拓する意向を示す。
パートナー向けには、「スキルをつける」「案件を発掘する」「提案する」「成約する」の段階ごとに支援プログラムを用意した。報奨金も大幅に増額したほか、1年間無償クラウドライセンスやソリューション開発の無償技術支援プログラムなどの充実を図った。
これまでに実施して好評だったのが、「Lotus Notes/Domino Express」のキャンペーンだ。通常製品を3年継続して使った場合に比べて、ライセンス料が割安になる。9月28日に第3弾のキャンペーンが終了したが、「パートナーから延長してほしいというメールがあった」(伊藤部長)ということもあり、第4弾を企画中だ。従来、「Lotus Notes/Domino」は、大企業から多くの支持を集めてきた一方で、「SMBからは高機能だけど高いというイメージをもたれがち。そのイメージの払拭が難しい」という状況があった。キャンペーンを通じて、徐々にイメージ払拭の効果が現れているという。
日本IBMは、「グループウェアから統合コラボレーション、そしてエンタープライズ・ソーシャルウェアへ」を合い言葉に、パートナーと協調して拡販に臨んでいる。伊藤部長は、「さらに事業を伸ばすにはソーシャルやクラウドの領域に進出することが必要」と語る。
新領域の開拓にあたって、パブリッククラウドで提供する「IBM SmarterCloud for Social Business(旧 IBM LotusLive)」を戦略製品に位置づける。メールとコラボレーション、ウェブ会議の各種サービスで構成する。マイクロブログ機能で従業員による情報発信をはじめ、レコメンデーション機能でお勧めコンテンツを閲覧したり、フォローすべき従業員を案内したりする。
[次のページ]