変わるパートナーがあれば変わらないパートナーもある

日本マイクロソフト
マイケル・ダイクス
業務執行役員
SMB営業統括本部 統括本部長「2013年は販売モデルの変革の年なので、まずは、とにかくこれまでつき合ってもらってきたパートナー数千社のうちの、少なくとも1000社にまで新しいクラウドパートナーを伸ばしたい」
──クラウドの普及には、不安感の払拭が重要であるということですね。一方で、従来から問題提起されているテーマとしては、販売チャネルの整備があります。販売チャネルはどこがボトルネックとなっていますか。 ダイクス 伝統的なビジネスに関していえば、間接販売が主流です。ところがクラウドになってくると、間接販売ではない。ダイレクトかウェブ、あるいはパートナーが販売する分を紹介料としてパートナーに支払うモデルです。これまであまりつき合いがなかった携帯電話や回線の販売店がパートナーとして参入してきました。
かたや、従来のパートナーは自社で料金を徴収できないので、本腰を入れない。販売しても、ボリュームライセンスの伝統的ビジネスと比べると、規模が小さい。「Office 365」を発表して以来の問題ですが、これから解決していきます。
青野 当社の場合は、仕入れ販売にしないとパートナーは動かないだろうとみて、最初から仕入れ販売モデルを採っています。でも最初はパートナーがなかなか動いてくれなくて、最近、ようやく動き始めています。サイボウズが直接販売で1か月に100本、200本売っているのをみて驚いて、「やっぱり売らないとやばいぞ」と思い始めたようです。
先進的なパートナーは、クラウドを売ったら例えば24か月、場合によっては36か月とか、売り上げを契約に合わせて評価できる制度をつくっています。こうした制度が浸透してくるのはこれからですが、状況は変わってきていると思います。
水谷 クラウドをやめてくれというパートナーの声もありました。今でも、腰が引けているパートナーはいます。オンプレミスにしがみつくというか。パートナーは、当社と契約して初めてクラウドの取引ができるようにしてありますので、それぞれ姿勢がはっきりしているわけですよ。
クラウドの契約をしていないパートナーは、まったく売る気がない。大手パートナーは契約を結んでいますし、流通会社には独自の課金システムを使って対応してもらい、一つひとつクラウドの方に向いてきてはいますね。
岡本 クラウドの販売チャネルについては試行錯誤で、まさにこれからという状況です。今回立ち上げた「弥生オンライン」は、会計事務所が唯一の販売チャネルなので、会計事務所を通じないと申し込めない。利用数を圧倒的に限ってしまう要因ではあるんですが、4600以上を数える会計事務所パートナーのうち、「弥生オンライン」に対応してもらったのが100事務所です。基本的なスタンスは、お客様と当社との直接契約。なので、どちらかというと紹介料モデルに近い。まだアイデアの段階ではありますが、家電量販店でスターターパックがあってもおかしくないと思っています。
他社と違って、当社のパートナーへの依存度は低いんです。なので、パートナーに気兼ねしてクラウドをペースダウンするというようなことはありません。パッケージとは機能的にまったく異なるのですが、お客様にできないことをできると期待されてはよくないので、確実にこういうことはできるけどこれはできないと伝えられる販売チャネルである必要がありました。だからこそ会計事務所を選びました。
2014年には、消費税の税率が変わりますし、Windows XPがサポート切れを迎えるので、この時期にあまりお客様を迷わせたくない。クラウドは成長のドライバではありますが、まずは大波に備えないといけません。
水谷 岡本さんのおっしゃる大波は、クラウドに置き換えてもらう絶好のチャンスです。当社の場合、会計事務所のお客様のうち、100事務所くらいがクラウドを使っています。顧問先にデータを取りに行くことがなくなるだけでも会計事務所としてメリットがありますし、リアルタイムに繋がっているので、いつでも顧問先の相談を受けられる。会計事務所向けには、専用プランである「BPOプラン」を用意して再販してもらっています。
“共食い”はない むしろプラスに働く

ピー・シー・エー
水谷学 社長「すべてのパッケージをクラウドでも提供できるようにして、この2、3年のうちにすべてを同じレベルにしていきます。それから、スマードデバイス用のアプリをできるだけ充実させます」
──旧来のパッケージビジネスとクラウドとのカニバリゼーション(共食い)について、ご意見を聞かせてください。 青野 結論から言いますと、カニバライズはありません。「サイボウズ Office」は、ピーク時は1か月に数百本売れていましたが、徐々に減ってきて50本くらいが売れています。15年もグループウェア事業をやってると、そんなに新しいお客様はいないので、仕方がない。そう思っていたらクラウドで150本の販売が上乗せになりました。50本分が減るだろうと思ったらそのままで、結果的に4倍になったんですよ。
これによって、新市場を開拓しているのだということがわかりました。新しくクラウドを買ったお客様はサーバーを自社でもてなくて、「こういうのを待っていた」と言ってくださいます。それに、パッケージを使うことに決めているお客様はパッケージを買います。とりあえず、心配は杞憂でした。
ダイクス 実はカニバライズの問題って、現場では結構不安を抱いていたんです。ですが、統計を取ったら94%のクラウドユーザーは、ボリュームライセンスではないんですね。一方で、伝統的なパッケージの「Microsoft Office」のボリュームライセンスや「Microsoft Exchange」のボリュームライセンスとかも伸びているんですよ。だから、絶対にカニバライズはしていない。
水谷 当社の給与管理ソフトは90%を超える保守契約率で、これがドル箱なんですよ。安定して収入があるのは抜群に強い。ソフトはコピーして出荷するだけですから、つくってしまえばあとは利益になる。本当はもっと保守料をいただきたいわけですが、保守契約がないケースが半数を占める販売管理ソフトだとか、制度改正がないために、そのまま使い続けられるとかいうことがあるんですよね。それが当社にとってはすごく残念です。
でも、クラウドの使用料モデルになると保守契約率が100%になるわけです。団体割引の考え方で、ユーザーが増えれば増えるほど料金は下がる。ユーザーは手厚いサービスを気軽な値段で使えます。使っていただく限りは売り上げが立ちますので、ソフト会社にとってはありがたいことです。
要するに、パッケージとクラウドがそれぞれの売り上げを食い合うようなことはないわけです。5年というスパンで考えれば、絶対に収益力が上がる。既存ユーザーがクラウドに移行するだけで、売り上げが何倍にもなるんです。
岡本 カニバライズという用語は、ちょっと注意して使わないといけません。お客さんが迷われるというのは避けたいんですよね。現実問題として、カニバライズはしないです。というのは、既存のパッケージとクラウドは別もので、まったく別の層のお客様を狙っていますから。PCAさんとは、お話をうかがっていて、すごく近い部分と遠い部分がある。
近い部分からいうと、当社も保守サービスの比重は非常に大きくて、売り上げの60%近くは保守契約でストック型。今もそれなりに継続性の高いビジネスができています。一方でこれを考えると、今まで訴求できていないまったく別のセグメントのお客様にアプローチできないとクラウドの意味を見出すのはなかなか難しい。会計事務所を販売チャネルにしているのは、そういう理由もあるんです。
当社としては、既存パッケージについて、満足していただいているお客様が多いので、これからも高い完成度を追求していきます。クラウドは、そのライトなものと捉えています。二段構えで考えていまして、まずは新しい市場を狙っていく。既存パッケージに関しては、インターフェースは基本はローカルで、データベースだけはクラウドにする予定です。今のところ、この二段目はお披露目できていないのですが。
[次のページ]