「Gartner Predicts 2013」は、米ガートナーのアナリストがグローバルIT市場の主要なトレンドを先読みするものだ。その予測の一つに、「2014年までに市場の統合によって、ITサービスベンダーの上位100社中、20%が市場から姿を消す」との衝撃的な分析が紹介されている。ガートナー ジャパンの山野井聡バイスプレジデントは、「日本ベンダーへの影響は限定的」というが、日本ベンダーも海外事業を拡大すればするほどグローバルのトレンドに巻き込まれやすくなり、価格競争に敗れて市場から姿を消す可能性が出てくると指摘する。海外で活動する日本ベンダーの生き残り戦略が問われる。

ガートナー ジャパン
山野井聡
バイスプレジデント 2008年のリーマン・ショック以降、多くのITサービスベンダーは海外事業の拡大を方針に掲げてきた。このところ、中国を中心として積極的に企業買収に取り組んでいるNTTデータなどの大手システムインテグレータ(SIer)だけでなく、中堅規模のITベンダーも海外での事業展開を本格化している。国内のIT市場が成熟しているなか、海外ビジネスによって売り上げの拡大を目指すという戦略だ。
ところが、今回のガートナーの予測によれば、海外事業の拡大は、経営危機を引き起こす危険性を孕んでいるというのだ。予測では、2011年の米ドルベースの売上高でグローバル上位100社のITサービスベンダーのうち、20%が倒産や統廃合などによって市場から姿を消してしまうとされている。売上高の上位100社をみると、1位はIBM、2位はヒューレット・パッカード(HP)で、富士通や日立製作所、NTTデータ、野村総合研究所(NRI)など日本ベンダーも20社ほどランクインしている。
ガートナー ジャパンのリサーチ部門で日本統括を担当する山野井聡バイスプレジデントは、「姿を消すのは、グローバルでの売り上げが大半を占め、激化している価格競争に勝てない30位以下の企業とみている。100社のなかの日本ベンダーは、売り上げの大半を日本国内で稼いでいるので、淘汰されるリスクが低い」と分析する。
「国内市場で強いから生き残る」ことを裏返せば、「グローバルを拡大すればするほど、生き残るうえでのリスクが高まる」ということにつながる。
実際、米国やヨーロッパのIT市場では、Tata Consultancy Services(TCS)など、インド系のITベンダーがサービスを低価格で提供し、価格競争が日本市場とは比較にならないほど激しくなっている。インド系ベンダーは、インドの本体でアプリケーションをモジュール化しており、開発案件を受注してすぐに実装することができる強みをもっている。「TCSは2012年にグローバルトップ10に入る可能性がある」(山野井バイスプレジデント)と評されるように、欧米市場では強力なライバルとして存在感を高めている。
日本のITベンダーが海外事業を拡大するにあたって主に動いているのは、中国とASEANを中心とするアジアだが、こちらも、インド系を含めたグローバルベンダーが市場開拓に力を入れている。一方、日本のITサービス市場は、決して大きく伸びはしないものの、マーケット構造が安定しており、インド系ベンダーもまだ強くない。山野井バイスプレジデントは、「日本ベンダーは、現段階ではグローバルで勝負できるソリューションがまだ少ないことを考えれば、むしろ国内の既存顧客を囲い込んで、『日本のキング』を目指したほうが賢い場合もある」と指摘する。
海外に出て新しい市場を開拓することは、決して誤った戦略ではない。現に、グローバル市場で実績を上げている日系ITベンダーは少なくないからだ。しかし、国内市場が低調だから海外へというだけでは、かえって経営基盤をもろくしてしまう恐れがある。今回のガートナーの予測については、自社の海外進出が「競争の嵐」に耐えられるかどうかを冷静に判断するための材料と捉えてはどうだろうか。(ゼンフ ミシャ)