クラウドサービスベンダーの「マネージドクラウドサービス」への流れが顕著になってきた。パブリッククラウドの初期設定の代行や、仮想プライベートクラウドのサービスの充実、既存のホスティングサービスとの連携強化など、低価格のクラウドサービスであっても多様なサービスを受けられるサービスメニューの整備が急ピッチで進められている。大手企業やIT系企業のユーザー層だけでなく、中堅・中小のユーザー層にもクラウドを浸透させるためには、ITの専門知識がなくてもクラウドを使いこなせるマネージドサービスの充実が欠かせないという判断からだ。(安藤章司)
パブリッククラウドサービスは価格の安さが大きな訴求点なので、ベンダーはこれまで必要最低限のサポートでコストを抑えざるを得なかった。一方で、サービス競争は熾烈さを増しており、例えば世界大手のAmazon Web Services(AWS)はサーバーやストレージ、データベースなど直近で30余りのサービスメニュー、150を超える最新技術を投入している。日本でのAWS事業を担うアマゾンデータサービスジャパンの長崎忠雄社長は、「世界最先端の技術をいち早く市場に投入する」と意気込みを語る。クラウドの先進技術を安く手に入れたいユーザーには朗報だが、ITに詳しくない多くの中堅・中小企業にとっては、逆にパブリッククラウドのハードルが上がることにもつながりかねない。
そこでAWSと競合関係にある国内クラウドベンダーは、クラウド利用の敷居を下げるための「マネージドクラウドサービス」を、今年に入って相次いで打ち出している。GMOクラウドは、プライベートクラウドサービス「IQcloud(アイキュークラウド)」を月額1万円以下からの料金での利用が可能で、必要に応じて機能拡張できるように改定した。料金やサービスを“階段状”に改めることで、ユーザーが利用しやすい環境を整えるのが目的だ。また、リンクは専用サーバーにパブリッククラウドサービスを組み入れた仮想プライベートクラウドを立ち上げるとともに、パブリッククラウドサービス導入時のコンサルティングや初期設定の代行を標準サービスとして提供している。
GMOクラウドの青山満社長は、「クラウドサービスの売り上げは今後も前年同期比30%増程度で伸ばしていく」と事業拡大に強い意欲を示しつつ、「ユーザー層のより一段の拡大が成長のカギ」ということで、とりわけ中堅・中小企業へのユーザー拡大が急務だとみている。同社は、パブリッククラウドの「GMOクラウド Public」でも、前述の「IQcloud」同様、エントリ層向けの「バリュー」、中間層向け「スタンダード」、上級者向け「カスタム」の階段状にサービス体系を改定している。「IQcloud」事業を担当するGMOクラウドエンタープライズ営業企画部の目黒学氏は「今後はマネージドクラウドサービスの充実を図っていきたい」としており、ITの専門知識が乏しいユーザーでも気軽に使えるよう努める。
マネージドクラウドについては、リンクも意欲的に取り組んでいる。主力のパブリッククラウドサービス「at+link クラウド」のサービス体系を今年2月、全面的に刷新。「実態としてはマネージドクラウドに限りなく近いサービスに改めた」(リンクの内木場健太郎・at+link事業部長)と話す。
調査会社のIDC Japanは、国内パブリッククラウドサービス市場は2013~16年におよそ年3割程度で拡大して、16年の市場規模は11年の約4.7倍に相当する3000億円強まで伸びると予想する。この過程でユーザー層はITの専門知識をもつユーザーから、専任の情報システム部門をもたない中堅・中小企業ユーザーへと広がっていくことが見込まれている。世界大手のAWSに対抗するという意味合いを含みながら、国内ベンダーはより広範囲にマネージドクラウドサービスを展開することでユーザーの負担を軽減。シェア拡大に努める戦略を前面に押し出していくものとみられる。
表層深層
「マネージド」とは、もともと専用サーバーやハウジングサービスなどから発生した用語だ。システム障害が発生したとき、ユーザーに代わってベンダーが復旧を代行するもので、ユーザーの運用負担を減らすとともに、ベンダーは付加価値の高いサービスの提供が可能になる。
パブリッククラウドサービスはその構造上、ハードウェア障害への対応は、すべてベンダーが行っているが、実際のシステム構成の設計や各種設定、運用のハードルは、依然、ユーザーにとって高いものがある。そこで専用サーバーやハウジングサービスで培ったマネージドサービスのノウハウを応用することで、ユーザー負担の軽減と付加価値の向上を目指す。
マネージドによる支援がない場合、ITに特段の知識がないユーザーの多くは、クラウドに詳しい専門のITベンダーに設計や運用を委託している。リンクの内木場健太郎・at+link事業部長は、「設計や運用を外部へ委託すれば、トータルでみると割高になる」と指摘。リンクでは、設計や運用を肩代わりするサービスを自社のクラウドサービス「at+link クラウド」に採り入れることで、ユーザーが外部委託する従来方式に比べてトータルコストが最大で半額になると試算している。
価格にシビアなパブリッククラウドビジネスで、マネージドによる“トータルコスト”でプライスリーダーのAWSよりも安価にみせることで、ビジネスを優位に進める動きが加速しそうだ。