オリジナル製品は「マイクロバーコード」から始まった。「名古屋発の技術ベンチャー」を標榜するネオレックス。NTTドコモの「i-mode」全盛期。冒頭の技術は「紙とネットをつなぐ」ツールとして開発。当時、現社長の駒井拓央が、別会社のネオセルラーを設立し、事業に参入。先見性に惚れた経営コンサルタントの大前研一も出資した。今、マイクロバーコードは時代の流れとともに収束したが、駒井は今も日本一、世界一を追求し続けている。(取材・文/谷畑良胤)
勤怠・就業を管理するツールといえば、打刻式のタイムカード・リーダー端末が代表だろう。先進的な企業は、プリンタや社食の支払いシステム認証と同期できるICカードで勤怠管理を行う。その変化の兆しがみえた2003年10月、ネオレックスは、ICカードとASPを連携させた(現在はSaaS・ASP型)勤怠管理システム「バイバイ タイムカード」を発売した。
マイクロバーコードは当時、世間の注目を集めた。大前研一が視聴率の高いニュース番組で宣伝する。マイクロバーコード付きの雑誌も創刊した。「絶頂期だった」と駒井は述懐する。世界初であり、先進的であったが、リーダーを読む端末が必要だった。当時の携帯電話機に付けて読み込む方式だ。関連性が高そうな日本中央競馬会(JRA)のインターネット投票(IPAT)向けとして、系列ショップで1000台以上を売りまくった。しかし、「気づけば、資本金と借入金しか残っていなかった」という。
柱を失ったが、自信はあった。「技術屋だが、情熱があって、真面目な社員ばかり」(駒井)だから、「ラーメン店には失礼だが、繁盛するラーメン屋を開くことができる」とさえ思うほど、揺るぎない自信が社内に溢れていた。「収益の基盤をつくる」。駒井のこのひと言で、現在の主力サービスである「バイバイ タイムカード」は生まれた。「有頂天になってはいけない」(駒井)と、この失敗で心を入れ替えた。
実は、「バイバイ タイムカード」が生まれた裏には、飲食店向け受発注システムの取り組みがあった。このシステムが売れ始めると、「勤怠管理も一緒につくってくれ」との要望が舞い込んだ。はじめは、スクラッチ(受託開発)で仕上げたが、これをパッケージ化して売ることを始めたのだ。受発注システムは、市場が小さい。勤怠管理は、端末が主体で出る幕がある。そう判断したというわけだ。

「クラウドは『ありがとう』をいただくビジネス」と、ことあるごとに説き続けるネオレックスの駒井拓央社長 受発注システムを導入する飲食店は、ITリテラシーが高いわけではなく、専属の担当でない人が扱うにもかかわらず、サーバー設置型だった。「ネットワークを介して利用するASPならば、使う側に負担がかからない」とみて、リリース当初から駒井はASPでサービスを始めることを決断した。
「バイバイ タイムカード」を出した03年当時、ASPは普及期から衰退期へ向かい始めていた。現在のような高速ブロードバンドが出てきた当時で、価格も高額。だが、3年の辛抱でチャンスが訪れた。鉄道会社を中心に埼玉県に地盤をもつ西武グループの入札が幸運の扉を開いた。20社以上の競合を勝ち抜き、「ASPだから」という理由で採用が決まる。利用者のIDは、西武グループの品川プリンスホテルだけで1000ID以上に達し、同社の“軍資金”を満たすことができた。
現在は、ASPとクラウド(SaaS型)の両面で、小さいデータセンターを運用しながらサービスを提供中だ。導入企業数は94社、約8万4000ユーザーに膨れあがり、名だたる大手企業の受注が相次ぐ。ようやく「日本一」を誇る規模にまで成長して、「次は世界」と駒井は思いを馳せる。[敬称略]