大手ディストリビュータが、SaaS関連ビジネスに本格的に取り組む動きをみせ始めた。ハードを中心に低価格化が進んで利益の確保が難しいことから、ディストリビュータ各社は単に製品を仕入れて卸すというビジネスからの脱却が最大の課題になっている。生き残りをかけてビジネスモデルを模索しなければならない状況下、新たな収益源としてストック型ビジネスが浮上してきた。自社でSaaS基盤を構築し、販社がSaaSを販売しやすいよう、取次ビジネスを展開しようとしている。ソフトメーカーにとっても販路が拡大するというメリットが期待できるわけで、ディストリビュータの取り組みによって、SaaS販売の新しいビジネスモデルが立ち上がる可能性が出てきた。(佐相彰彦)
ダイワボウ情報システムは、「iDATEN(韋駄天)SaaSplats」という名称で2010年1月からサービスを提供している。販社は、取次ビジネスというかたちで「iDATEN(韋駄天)SaaSplats」をユーザー企業に紹介して受注すれば、手数料を得ることができる。
ダイワボウ情報システムが、このサービスをベースにしたビジネスに本腰を入れ始めたのは12年秋頃。最近になって提供拡大を図ることにしたのは、「ユーザー企業の多くがSaaSの利用を意識し、販売パートナーからの問い合わせも多い」(青井正則・販売推進本部サービス営業部長)ため。2010年の時点では、時期尚早だったというわけだ。
販社側からすればサーバーを中心に据えたハードウェアビジネスは取扱い製品の低価格化によって利益の確保が難しくなっている一方、SaaSビジネスは紹介するだけで取次手数料というかたちでストック型の新しいビジネスモデルを構築することができる。ユーザー企業のニーズが高まっていることからも、販社が“旨味”のあるビジネスと認識しているということだ。
ソフトバンクBBは、子会社のBBソフトサービスが提供する法人向けクラウド/モバイル関連の情報サイト「スマビズ!」を通じて販社のSaaSビジネス拡大を支援する。同社も、取次手数料の仕組みを構築しており、13年3月中をめどにパソコン向けSaaS/ASP「TEKI-PAKI」との統合を検討。販社は、スマートデバイス向けとパソコン向けの両方のアプリをユーザー企業に提案できるようになる。
だが、SaaSビジネスはすべての面ですぐれているわけではない。ソフトバンクBBの北澤英之・C&S本部MD第1統括部モバイルビジネスマーケティング部長は、「これまでのSaaSビジネスは、販売パートナーのなかで、手間がかかる割にはビジネスにならないというジレンマが生じている」と指摘する。月額料金が安いにもかかわらず、請求書を毎月発行するなどオペレーションコストがかかるからだ。一方で、ユーザー企業にクラウドという言葉が浸透し、サービスを導入する意識が高まっている。「ディストリビュータとして、販社が売ることだけに専念できる体制を構築しなければならない」としている。
シネックスインフォテックは、現段階でSaaS関連ビジネスを手がけてはいないものの、「米国本社は、以前からサービスを提供している。その仕組みをベースとして、日本仕様にローカライズして提供する」(松本芳武社長)ことを明らかにしており、今年度(13年11月期)中の早い段階で提供を開始する予定だ。ワールドワイドで、パートナーシップを結ぶ外資系ソフトメーカーのアプリケーションを日本でも提供していくほか、「国内ソフトメーカーにも話を持ちかけている」という。
SaaSなどサービスを売る時代にあって、サービスのディストリビューションに関しては、ソフトメーカーが必ずしもディストリビュータ経由のビジネスモデルを重視する環境ではなくなっている。メーカー自らがSaaS基盤を構築したうえでの直販や、クラウドサービス事業者を経由する方法もある。ソフトパッケージやライセンスなどを売る際に重宝していたディストリビュータを中抜きする危険性があるというわけだ。そのため、ディストリビュータ各社はSaaS基盤を構築することで、サービスビジネスでもソフトメーカーとのパートナーシップを継続することを狙っている。単なるモノ売りのビジネスモデルだけでなく、販社に取次手数料を提供することで、ディストリビュータとして新しいビジネスモデルを確立しようとしているのだ。また、ソフトメーカーにとってもディストリビュータのSaaS基盤にアプリケーションを乗せることで、数多くのSIerやリセラーが製品を広めてくれるとの期待がある。
表層深層
ディストリビュータは、SaaS関連ビジネスで販社に取次手数料を提供するというビジネスモデルを構築し、次のステップとしてSaaS基盤自体を販社に提供することを狙いとしている。
ダイワボウ情報システムは、セールスフォース・ドットコムの代理店制度に加盟し、販社がSaaSプラットフォーム「Salesforce」のアプリケーションを販売し、加えて中小SIerが「Salesforce」をダイワボウ情報システムから仕入れて自社で開発したアプリケーションを載せて提供できるようにしている。青井部長は、「この仕組みを『iDATEN(韋駄天)SaaSplats』にも取り入れていきたい」との考えを示している。
ソフトバンクBBでは、グループ全体でiPhoneやiPadなどスマートデバイスの販売に力を入れていることから、モバイルアプリケーションをスマートデバイスにバンドルして販社が売る体制を整えている。同社がユーザー企業の規模や業種に応じてバンドルするアプリケーションを選定しているが、北澤部長は「販売パートナーは、スマートデバイスだけを売って『スマビズ!』を通じてアプリを紹介する取次ビジネスの拡大にもつながる」と捉えている。
SaaSを売るためには、各メーカーと販売契約を結ばなければならない。それをディストリビュータが一括して行うことから、SIerやリセラーにとってSaaSが売りやすい環境になることは確かだ。まだ十分に普及しているとはいえない国内SaaS市場を活性化することにもつながりそうだ。