ASP・SaaSクラウド・コンソーシアム(ASPIC)が、優秀サービスを表彰する「ASP・SaaS・ICTアウトソーシングアワード(現ASP・SaaSクラウドアワード)」は、ソフトウェアベンチャーが脚光を浴びる権威ある賞だ。ネオレックスは、2007年と2008年に「バックオフィスアプリケーション分野グランプリ」を獲得。この時、現在成功を収めているコクヨS&Tの文書配信サービス「@Tovas」なども表彰された。顔ぶれを見ると、今は収束した事業もある。ネオレックスは、この賞を完全に味方にして事業を伸ばした。(取材・文/谷畑良胤)
ネオレックスがASPICのアワードでグランプリを受賞した07-08年当時は、「SaaS」という言葉が世に出て、IT産業を変革するサービスとして注目を集め始めた頃だ。仮に、この時期に事業が軌道に乗っていたとしても、後にクラウドの普及に伴うIT産業の変革に飲み込まれて、事業を継続できなかった可能性がある。現在、ASPIC理事を務めるネオレックス社長の駒井拓央は言う。「当社のサービスは、驚きがあるわけではないが、どの会社でも、きちんと使いこなせる」。
同社主力の「バイバイ タイムカード」は、タイムカードや出勤簿、勤務表、Excelなどで行っていた勤怠管理や労務管理、勤務実績の集計を全自動で行う。肝はクラウド(SaaS・ASP型)で提供する勤怠管理システムということだ。従来は、フルスクラッチでソフト開発していた分野だ。小売店舗は個人商店やチェーン店など業態が異なり、シフト制が敷かれていたりして、勤務体系が複雑。したがって、パッケージでの対応は難しかった。ネオレックスはそこに目をつけた。「イージーオーダー型の開発を可能にするデータベース構造にした」のだ。
ASPICのアワード受賞は、この機能性の高さを世に知らしめた。以来、同社には問い合わせが多く舞い込んだ。大手有名企業からの受注も相次いだ。日本郵政、家具・インテリアのIKEA、カラオケルームの歌広場などなど。例えば、全国11拠点で約2000人が働くホテル施設「メルパルク」は、従来、タイムカードと手書きの書式で事業所別に管理していた。これをパソコンとバーコードを利用した方式の「バイバイ タイムカード」に切り替えた。全体の作業効率は、月間470時間の削減という効果を生み出した。

昨年10月にMIJSが開催した「土佐ワークショップ」のパネルディスカッションで、ソフトベンダーが思いを語った(写真右から二番目がネオレックスの駒井拓央社長) ネオレックスのサービスは、某メーカーが独占する打刻式タイムカードの市場を切り開く先兵となった。それでも、駒井は謙虚だ。「まだまだブランド力が弱い。それに、たとえブランド力で押し込んだとしても、クラウドサービスなので、気に入られなければ解約されておしまい」。解約権は顧客にあり、品質が悪ければ、すぐに中止されてしまう恐れがあるという。ユーザーの厳しい審査に応えなければならないのが、クラウド時代なのだろう。ネオレックスは、国産の有力ソフトベンダーが集まって世界進出を目指すことを目的とした「メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS)」に加盟している。駒井はMIJSの中核メンバーでもある。「複数の柱をつくりたい」。駒井は、次のターゲットを海外に置いている。
同社は80か国以上で使われているアプリケーションをすでにもっている。2011年4月にリリースしたiPhone向けの自己管理用の無料アプリ「MyStats(マイスタッツ)」がそれだ。自分の活動を記録して、分析するツールだ。英語版もあって、多くの国で使われている。実弟で副社長の駒井研司が発案して開発した。社長の駒井は「日本から一歩も出ていないのに、サービスが海を渡った」と驚く。クラウドストレージのEvernoteなどもそうだが、海外拠点を置かなくてもサービスは世界を駆け巡る。「MyStats」は当初、高額有料販売も検討した。だが、「小さく産んで、大きく育てたい」と無料化へ踏み切った。当然、次の展開を検討中だ。[敬称略]